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むせ返るような芳香、甘い蜜。蝶のような優雅さで。 そのカラダに鋭い棘を隠して。
はじめに

ようこそ、偽アカシアへ。
こちらは私、朝斗の今までの作品展示室となっております。

過去作品から随時追加予定です。
同じものを掲載していますが、若干の推敲をしている場合もあります。
詳しくは『はじめに』をご一読ください。
2008.5.6 Asato.S
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「今のは、なに?」
 私は暫くの間呆然と時計塔を見上げていた。鐘の余韻の中、思い出したようにジョシュアを振り返る。彼は再び平然と紅茶を飲んでいた。

「新しい日を知らせる音。それから、ある人物を呼ぶ魔法の音でもある」

 そう言って、何だか可笑しそうに笑う。ねぇ?と執事長に同意を求めるように見上げると、彼もまた微笑む。私だけが蚊帳の外だ。
 同じ時間を示す、二つの時計。つまりは、もしかして、本当に時間が動いた?私の世界と仕組みが違うのなら、有り得ない話でもないのかもしれない。心なしか、淡色の空も少し前とは違う表情を浮かべている気がする。

 首を傾げるのに忙しくしていると、二人分の視線が私に注がれた。

「さぁ。時間ですよ、アリス。正真正銘、今このときが貴女の生まれた時間」

「そうだね、貴女の世界の言葉を借りるなら」

 コトリ、と陶磁のカップが下ろされる。
 広がるのは、ダージリンと、飾られた薔薇の甘い香り。

「I wish you many happy returns of the day.」
 
 


「お誕生日ですから、ケーキを用意してみました」

 ダミアンがどこかに消えたかと思うと、暫くして大きなケーキを運んできた。
 苺に桃に、林檎。果物が飾られたフルーツケーキだ。

「わぁ…すごい。美味しそう」

 目の前に据えられて、感嘆の溜め息を漏らす。遠い記憶の中、私が見てきたどんなバースデーケーキよりもきらきらと輝いて見える。
 紅茶の種類も、先刻まで飲んでいたものとは種類が違う。ジョシュアが用意してくれた茶葉で、名前は『BIRTHDAY』。まさにこの瞬間のためのブレンドだよ、と彼は嬉しそうに胸を張る。

 三月兎の庭に再び全員が揃ったところで、帽子屋は辺りを見渡した。

「さて。テーブルも整ったことだし、お誕生会を始めたいところだけど」

 首を伸ばして、薔薇の生垣の向こうを覗き込む。何かを探しているように見える。
 同じようにして、ダミアンが言葉を継いだ。

「足りませんね。賓客が」

「今、来るよ」

 突然聞こえた第三者の声に、私は思わず背筋を伸ばした。目をやるとメリルが珍しく顔をあげている。

「急ぎ足でこっちにやってくる」

 随分久々にその声を聞いた気がする。彼の起きている顔を見るのも久しぶりだ。さっきの鐘の音でも目を覚まさなかったのに。
 私は起きている彼に気をとられてしまって、彼の言った『誰』がこちらにやってくるのかを尋ねるのに遅れた。

 そのうちに、今度はまた別の聞き慣れた声が私を呼んだ。

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