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むせ返るような芳香、甘い蜜。蝶のような優雅さで。 そのカラダに鋭い棘を隠して。
はじめに

ようこそ、偽アカシアへ。
こちらは私、朝斗の今までの作品展示室となっております。

過去作品から随時追加予定です。
同じものを掲載していますが、若干の推敲をしている場合もあります。
詳しくは『はじめに』をご一読ください。
2008.5.6 Asato.S
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 それから、ひと月が経った。
 雲ひとつない夜空に、星と丸い月が輝いている。
 私は思い立って、あの入り江に足を運んだ。

 やはり彼女は、月の影の中にいた。 


「こんばんは」

「こんばんは」 

「また、演奏に来たのですね」

「ええ。それから、あなたに会いに」 

 そうしてヴァイオリンを弾いた。
 海の女神は、私の演奏に合わせて歌を歌った。ヴァイオリンに彼女の澄んだ声は良く合った。今までに聴いたことのない、美しい二重奏だった。


 それから私たちは、満月になる度、入り江で二人だけの演奏会を開いた。ひとつきの内にたとえ嫌なことがあっても、天満月の夜が来れば心が洗われた。


 恋を、していたのかもしれない。

  あの女神に。
 私の演奏を受け入れてくれた、海の歌姫に。







「海を渡ることになりました」 


 毎月の演奏会を催すようになって、10度目の夜。
 私は弦を引く手を止めて、そう口にした。 

「海の向こうへ。音楽の街でヴァイオリンの修行をするのです」 

「そうですか」

 彼女は淋しげな表情を滲ませた。心が、痛んだ。

「もっと、貴方のヴァイオリンを聴きたかった」 

 そう言って、海の向こうを眺める彼女。もしかしたら、私の行く先を探しているのかもしれない。

「まだ」
 堪らず声をかける。彼女が、私を振り返った。

「まだ、名前を聞いていませんでしたね。私は、カクタス。あなたのお名前は? 海の女神」

「マロウと申します。この入り江に住む、海の住人です」


 そうして私達は、初めてお互いの名前を呼んだ。
 波の音だけが、静かに響いた。 

「また会いましょう、マロウ」

「ええ、カクタス。…きっと」



 また会う約束をしたのも、初めてだった。今度ばかりは、約束をしなければ会えなそうだったから。

 けれどもう。

 逢う事は叶わないと、心のどこかで理解していた。

 

 

 次の日の夜。最後の船で私は海に出た。

 波の合間に、朧げに、歌声が聞えた。

 それは私が海辺で弾いたあの曲だった。

 満月の夜に奏でた、女神に捧ぐセレナーデ。 

End. 
 

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終わりに。
今回もちょっとだけ手直し。
行間が少しだけ埋まったかも?
朝斗 2008/05/06(Tue)21:47:41 edit
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冬に包まれる季節。
詳しくはFirstを参照ください。
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