むせ返るような芳香、甘い蜜。蝶のような優雅さで。 そのカラダに鋭い棘を隠して。
はじめに
ようこそ、偽アカシアへ。
こちらは私、朝斗の今までの作品展示室となっております。
過去作品から随時追加予定です。
同じものを掲載していますが、若干の推敲をしている場合もあります。
詳しくは『はじめに』をご一読ください。
2008.5.6 Asato.S
「何をしているの?」
何を言おうかとさんざん迷って、口をついたのがその言葉だった。
「見ての通り、ふらついているのさ。あてもなく彷徨うのが僕の役目」
彼は本を棚に戻し、また違う本を手にした。何冊かを抜き取って、窓の縁に積み上げる。
それからやっと横目で私を見て、
「それで、君は?」
その口元が、かすかに笑っていた。
「私は…私も同じよ。図書室を見つけたから、ふらふら歩いているだけ」
今度は頷いてくれなかった。まるで何かを見透かすように、じっと私を見る。その視線に負けて白状する。
「本当は、迷っているの。…《白兎》にはどこに行けば会える?」
彼は窓の外を示した。
「白兎ならあの塔だよ。ここからなら、中庭を突っ切っていったほうが早い」
それからまた別の本を抜き取って一番上に重ねた。どうやら読むつもりはないらしい。違う棚を眺めて、同じように本を抜き取る。
「そう…ありがとう」
私はその行動を見守りながら、ふと、ある本だけを手放さずにいることに気がついた。
金の箔押しの、一冊の本。抜き出しては積み上げを繰り返し、時には元に戻しながら、その本だけはずっと携えたまま。
「その、大切そうに抱えている本は何?」
私が指を差すと、彼もその先を追う。ああ、これ、と無感動に目を細める。
「つまらないものだ。何度も読んだから、飽きてしまった」
それでも彼はその本を放さなかった。思い入れでもあるのだろうか。それにしては、随分煤けている気がする。
「でも僕は投げ出したりはしない。どこかの神様みたいに、壊すことを望んだりはしない。まぁ、勝手に壊れるぶんには構わないけどね」
まるで天邪鬼だ、と心の中で呟く。
何をしているかと聞けば彷徨っていると返し、大切なのかと問えばつまらないものだと言う。そして挙句、「壊すことは望まないけれど、壊れるのなら構わない」。
ひらりひらりと、答えをかわしてしまう。
何かに、誰かに似ている。誰、だったろうか。
そしてそれは酷く私を苛々させた。
何を言おうかとさんざん迷って、口をついたのがその言葉だった。
「見ての通り、ふらついているのさ。あてもなく彷徨うのが僕の役目」
彼は本を棚に戻し、また違う本を手にした。何冊かを抜き取って、窓の縁に積み上げる。
それからやっと横目で私を見て、
「それで、君は?」
その口元が、かすかに笑っていた。
「私は…私も同じよ。図書室を見つけたから、ふらふら歩いているだけ」
今度は頷いてくれなかった。まるで何かを見透かすように、じっと私を見る。その視線に負けて白状する。
「本当は、迷っているの。…《白兎》にはどこに行けば会える?」
彼は窓の外を示した。
「白兎ならあの塔だよ。ここからなら、中庭を突っ切っていったほうが早い」
それからまた別の本を抜き取って一番上に重ねた。どうやら読むつもりはないらしい。違う棚を眺めて、同じように本を抜き取る。
「そう…ありがとう」
私はその行動を見守りながら、ふと、ある本だけを手放さずにいることに気がついた。
金の箔押しの、一冊の本。抜き出しては積み上げを繰り返し、時には元に戻しながら、その本だけはずっと携えたまま。
「その、大切そうに抱えている本は何?」
私が指を差すと、彼もその先を追う。ああ、これ、と無感動に目を細める。
「つまらないものだ。何度も読んだから、飽きてしまった」
それでも彼はその本を放さなかった。思い入れでもあるのだろうか。それにしては、随分煤けている気がする。
「でも僕は投げ出したりはしない。どこかの神様みたいに、壊すことを望んだりはしない。まぁ、勝手に壊れるぶんには構わないけどね」
まるで天邪鬼だ、と心の中で呟く。
何をしているかと聞けば彷徨っていると返し、大切なのかと問えばつまらないものだと言う。そして挙句、「壊すことは望まないけれど、壊れるのなら構わない」。
ひらりひらりと、答えをかわしてしまう。
何かに、誰かに似ている。誰、だったろうか。
そしてそれは酷く私を苛々させた。
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