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むせ返るような芳香、甘い蜜。蝶のような優雅さで。 そのカラダに鋭い棘を隠して。
はじめに

ようこそ、偽アカシアへ。
こちらは私、朝斗の今までの作品展示室となっております。

過去作品から随時追加予定です。
同じものを掲載していますが、若干の推敲をしている場合もあります。
詳しくは『はじめに』をご一読ください。
2008.5.6 Asato.S
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 そこには、目も覆いたくなるような惨状が待っていた。

 力なく大地に横たわる、枯れきった英雄達。昨日とはあまりにも違うその容姿。
 私は彼らと同じようにして、へなへなとその前に膝を落とした。

「信じられない…」

 彼らの残骸を手にとる。くすんだ色の、見た目通りに乾いたカサカサの手触り。昨日まで、あんなに元気だったのに。

「…無理してでも、全部収穫するんだった…」

 そう。昨日の昼間に見た時は、どれもこれも赤々とした実をつけていたのだ。
 それが今日、今日こそ彼らを出荷しようと意気込んで、畑に出てきたらこの始末。
 何がいけなかっただろう。水のやり過ぎ?日光が足りなかった?自分の心許無さを恨みながら、何より株ごと枯らしてしまったことを、ごめんねごめんねと謝る。
 隣のトウモロコシに水をやりながら、宝石みたいだなとほくそ笑んだりしていたのに。
 
 …とりあえず、全部カマで刈って、新しいものを植えないと。
 私は膝についた土を払い落としてから、気を取り直して作業にかかった。


 島で牧場を営むようになって、まだ月日が浅い。
 ここに来る前は畑仕事の真似事くらいしかやったことがなくて、でも、自然に囲まれての生活に憧れて一念発起やってきたのだ。
 失敗もまだ多いけれど、それでもあのときの選択が間違いでないと今でも思っている。 

 ざくざく、ざくざくと畑を平らにして、また新たな命を植える。
 今度こそ、立派に育ててあげられますように。 


「セシル!」

 太陽が南天を越えて、それすら気がつかずに私は畑を整えていた。
 声に呼ばれて振り返る。誰の声かなんて考える必要もない。

「仕事、行ってくる」
「もうそんな時間?」
 声が届くように少し張りながら問い返す。彼が軽く頷いた。

「夕方には帰る」
 それから、泥だらけになっている私を見て笑った。どこか呆れたように、可笑しそうに。

「昼飯食べてないだろう。テーブルに置いてあるから、あとでゆっくり食べろ」
「うん、ありがとう」

 笑顔も口数も、最初に会った頃より格段に増えている。それが私の成したものだと思うと、どうしようもないくらい幸福な気分になれた。
 深い紫色の瞳。アメジストのように穏やかで高貴で、そして愛しい色。
 私は立ち上がって、大きく大きく手を振った。

「いってらっしゃい!」

 遠目にも目を瞬いているのが見えた。少しだけ、その言葉に驚いたように。まだ、慣れていないのかもしれない。くすぐったいのかもしれなかった。

「――いってくる」
 

 空が青い。
 出掛けて行く後姿を見守りながら、やっぱりここに来たことは間違いじゃなかったと強く思った。

End.

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