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むせ返るような芳香、甘い蜜。蝶のような優雅さで。 そのカラダに鋭い棘を隠して。
はじめに

ようこそ、偽アカシアへ。
こちらは私、朝斗の今までの作品展示室となっております。

過去作品から随時追加予定です。
同じものを掲載していますが、若干の推敲をしている場合もあります。
詳しくは『はじめに』をご一読ください。
2008.5.6 Asato.S
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 混沌魔王、と呼ばれる人物がいる。
 世の混沌を糧とし、世に混沌を齎(もたら)す者だ。

 その正体を知る人間はいない。一方で某国の頭だと噂があれば、有名大学の教授の裏の顔だ、首都に邸宅を構える財閥の子息だという憶測も飛ぶ。

 ある者は神と崇め、ある者は鬼と怖れる。
 しかし何れも、己に非を憶える者のみ。
 太陽の下を生きるものは誰も知らない。裏を返せば、日陰を生きる者でその存在を知らぬものはいない。
 


 
 常田麻斗がある都市の裏通りをぶらついている所に、彼は現れた。

 傷だらけの少年だった。ビルの合間の湿った暗がりに、倒れ伏すように息を潜めている。
 壁際に積み上げられたポリバケツのほうがまだマシに見えた。喧嘩でもしたのだろうか、真っ白な顔や腕は擦り傷だらけで、カッターシャツには泥と血がこびり付いている。右肩辺りの出血が酷い。
 その少年が、常田の気配に気付いて顔をあげる。

「匿って」

 少年の一言に常田は絶句する。それからすぐ思い直して、彼の元に駆け寄った。

「匿え、って、何からだ!?」
 なんでもいいよ。少年は投げやりに呟く。呼吸は乱れているが、意識ははっきりしているようだ。
「ファフナーでも特車二課でも、公安九課でも何でもいいよ。あんたには関係ないんだから」
「関係ないって…」
 少年は諦めるように目を逸らす。常田はその頭を捕まえて、闇を見据える視線を自分のほうへと引っ張った。

「それが匿えって頼む奴の態度か?こっちだって、何から匿うのかぐらい知らんと手助けしようがないだろうが」
 心中は波立つほどに動揺していたが、表面上だけは妙に冷静だった。その様子を見てか、少年の目が淋しげに揺らぐ。

「言っても信じないよ」
「信じるかどうかは、俺が決める」

 常田が言っても、益々表情を暗くするばかり。しかし、少年から鋭利な気配が消えたのを感じて彼は更に尋ねた。

「何に追われてるんだ」

 一瞬だけ、言葉に詰まるように虚空を見る。

 それから押し殺すように口にした。
 その、奇妙な一言を。

 
「『サーカス』」

* * *

普段自分では思いつかない言葉をお題に貰ったので、世界感も若干いつもと違います。

少しだけ、ね。

一応裏付けを取ってからあれこれ織り込んだものの、正しく使えていたのかどうか。

悪意はありませんよ。念のため。

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