忍者ブログ
むせ返るような芳香、甘い蜜。蝶のような優雅さで。 そのカラダに鋭い棘を隠して。
はじめに

ようこそ、偽アカシアへ。
こちらは私、朝斗の今までの作品展示室となっております。

過去作品から随時追加予定です。
同じものを掲載していますが、若干の推敲をしている場合もあります。
詳しくは『はじめに』をご一読ください。
2008.5.6 Asato.S
[165]  [164]  [163]  [162]  [160]  [159]  [157]  [156]  [155]  [154]  [153
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

「狂っているのね」
「そうだね、ありがとう」
 思わず零すと、薄く微笑んだままで返される。

「褒めてないのよ?」

「分かってるよ。君の反応が面白いから」

 向けられたのは、太陽のような眩しい微笑み。
 本当に天邪鬼だ。でも、何故だか嫌いになれない。
 優しい人ばかりのこの世界で、私を《アリス》だと知らずに居てくれる人。女王だと知らずに、親切な答えをくれないままの人。
 優遇されるばかりより、そのほうがずっと気が楽だった。

 だから、だろうか。彼はどこか――

 
  ゴーン ゴーン
 
 ふいに遠くで鐘が鳴る。
 おそらく庭園傍の時計塔だ。いつも私を見下ろしている大きな時計。あそこに行けばすぐに部屋が分かるかもしれない。

「私、もう行かなくちゃ」

 夢が覚めたような心地で、彼の瞳から逃れた。彼はまた本を抜き取っては積むという作業に戻っていた。まるで私のことなど興味なさそうに。

「気をつけてね。ああそうだ、忘れちゃ駄目だよ。白兎に会うなら中庭を突っ切って」
「うん。どうもありがとう」
 その言葉を背中で聞いて、ふいに振り返る。彼は今も本棚の前に居た。

「またね」
 最後にもう一度声をかけると、とってつけたように、こちらを振り向く。
 その顔はやはり優雅に微笑んでいて。
「うん。また」
 それに頷いてから、私はやっと扉を出た。

 図書館の外は明るかった。
 曇り続きの空なのに、何故か太陽が射す。やはりこの世界は不安定だ。
 私は気を取り直して、窓の下に見えた中庭を目指した。
 



 部屋の中には、少女の閉めた扉の音が木霊した。
 図書室に籠る彼は、灰色の本をひとつ棚に戻す。
 鋭い眼差し。その衣服は城の兵士とも給仕とも異なった。それの意味するところを、先刻の少女は気付いていない。

「また会えるといいね…新しいアリス」

 その顔に始終張り付いていたニヤリとした笑みは、足音が遠くなるのを聞き、やがてすっと薄れた。

 勿論、その変化を少女が知ることはないままに。
 
End.

拍手[0回]

PR
この記事にコメントする
name
title
color
mail
URL
comment
password   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
この記事へのトラックバック
Welcome
冬に包まれる季節。
詳しくはFirstを参照ください。
つぶやき
ブログ内検索

プロフィール
HN:
朝斗 〔あさと〕
性別:
非公開
趣味:
読書、創作、カラオケ、現実逃避
のうない
最古記事
はじめてのかたは此方から。
最新コメント
メモマークは『お返事有り』を表します。
[05/09 彗花]
[05/07 天風 涼]
[05/06 朝斗]
[05/06 朝斗]
[05/06 朝斗]
バーコード
もくそく
Powered by Ninja Blog Photo by COQU118 Template by CHELLCY / 忍者ブログ / [PR]