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むせ返るような芳香、甘い蜜。蝶のような優雅さで。 そのカラダに鋭い棘を隠して。
はじめに

ようこそ、偽アカシアへ。
こちらは私、朝斗の今までの作品展示室となっております。

過去作品から随時追加予定です。
同じものを掲載していますが、若干の推敲をしている場合もあります。
詳しくは『はじめに』をご一読ください。
2008.5.6 Asato.S
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「うーん…」

 結局あの女の子のことを誰かに相談するか迷ってるうちに、3日経ってしまった。
 約束は約束だから、今日はパズルのピースを持ち歩いていた。ビンに入れたまま。

「…うーん…」

 もしあの子が話に聞く不審者なら、警察かどこかに届けるべきだろうか。
 でもなんて?

  私:『パズルを探している女の子がいました』
  警察:『ああそうですか。では返してあげて下さい』


 …だめだ。どっちかというと私が不審だ。

「どうした? 結衣。難しい顔してるぞー?」

 席に座ったままでもやもやしていると、前の席の椅子が引かれた。智美だ。
「悩み事?」
 彼女はこちら向きで座って私の顔を伺った。どうやら随分深刻めいた表情をしていたらしい。
「別に…あぁそうだ。私『パズルの男』に会ったよ。女の子だったけど」
「あぁこないだの? なんだ、本当にいたのか。で、どうだった?」
「話通りパズルのこと聞かれて、答えたら帰ってった。通報とかしたほう良かったかな?」
「いいんじゃないの、別に。ナイフ振り回す訳じゃなし」
「だよねぇ」 

 それで、私はすっかり悩むことをやめた。まぁ確かに実害がある訳でもないし、ピースを返せば不審者ももう出てこないかもしれない。不審者と言い切れないしね。
 溜め息を吐くと、智美が面白そうにからからと笑った。

「っていうか、女の子だったんだ。それはそれで怖いね」
「…うん…まぁ、怖かったよ」
 高圧的な態度がね。


 そしてとうとう、帰宅時間がやってきた。
帰り道。今日は曇り空。
 『3日後の同じ時間に』と言っていたから、多分彼女は3日前と同じ場所で待っているんだろうな。そう思いながら家の近くのバス停で下車した。

「あの」

 ステップを降りてドアが閉まった途端。
 低い声がした。そちらに目を向けると、見知らぬ人が立っていた。

「そのパズルピース、いただけませんか」

 声からして男の人だった。服も少しだらしない髪も灰色。顔色は悪く、青白いほどに白かった。そしてそれに合わせたかのような白いマフラーをぐるぐる巻いていた。
「これ…ですか?」
 相手は無言で首を上下させた。
 というか、もう温かくなって久しいのにどうしてマフラー? 具合でも悪いのだろうか。
 そして、どうして私がパズルを持っているのを知っているんだろう。…あ、もしかして。
「もしかして、あなたこのあいだの子の知り合いですか?」
 男の人は、充分間をとった後頷いた。
「…はい。私が落としたのではない…けれど、一度は私のものになったものです」
 よく分からないけど、もともとの持ち主で、それからあの子に譲ったのだろうか。
 あの子、今日は都合でも悪くなったのかな。
「これです、どうぞ」
 少し引っ掛かったけれど、鞄からピースを出して、ジャムビンのまま渡した。
 男性はビンを大事そうに手にした。
「ありがとう」

 その時、一瞬だけ目が見えた。長い前髪の間から。

 銀色の、瞳が。


 え…?

 見間違い、だろうか。

 もう一度顔を覗き込む度胸がなかった。すぐに目を離して、話題を変える。
「ところで、この前の子はどうしたんですか?」
 私は返事を待った。しかし、男からは何のリアクションも帰ってこない。
 妙に思って、顔を上げる。


 すると、またもや。
 そこにいたはずの人間が、忽然と消えていた。

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「な…何を、ですか…?」

 思わず敬語で聞き返す。
 ワンピースの少女はハトを撫でながら、さも当たり前そうに言った。

「決まってるじゃない。空の破片よ」

 決まってるって何?

 この子と初対面のはずだし、だいいち…何の破片って言った?
 空? それは何かの比喩表現でしょうか。

「知りません…けど」
 仕方なく答える。けれど、少女はそれくらいでは引き下がってはくれなかった。

「そんなはずないわ。だって現にこうして鳥がさえずってるじゃない」
 もう一度白いハトが私を見て鳴いた。
「鳥は空に向かって鳴くのよ。間違うはずないわ」

 変な理屈だけど、彼女には絶対的確信があるようだった。

 『帰り道に執拗に尋ねてくる人物』。あぁ、なんかこれ聞いたことあるなぁ、と思ったら。
 昼間に智美達が言ってた『ナントカの男』に似てる。

 あれ? じゃあもしかして…

「もしかして、空の破片って…パズルのピースのこと?」

 少女はびしりと私に人差し指を向けた。
 あ、人を指差しちゃいけないんだぞ。

「それよ。じゃ、持ってるわね? 拾ったわね?」
 少女の態度に多少面食らいつつも、事実だったので、私は言われるままに頷いた。

 まさか、昼間のあれが本当の話だったなんて。
 でも、おかしいな。昼間のは『パズルの男』だったけれど、目の前にいるのはどう見ても少女。どこかで話がねじれたのかな?
 少女は、私に向けていた指を開いて、手のひらを提示した。

「返して」
 真っ白な手が差し出される。
 多分、話の流れからいってパズルのことだと思うけど。

「大事なものなんですか?」
 今度は少女が頷く番だった。
「当たり前でしょ。あれがないと困るの、世界中の誰もが」

 随分大袈裟な話だ。それくらい大切な思い出の品か何かという意味だろうか。
 まぁ、あのピースは私には必要ないものだし、(私だけの空を失うのは少し残念だけど、)そんなに大切なものなら尚更返さなければいけない。

「でも」 私は口を開いて弁解する。
「今は持ってないの。家に置いてあるわ」
「…そう」
 少女は残念そうにしゅんとした。気が強そうだけど、こうして改めて見ると可愛い子だった。
 急激に可哀想になった。

「あ、だ、だから今から家に行って……」

「だったら」
 落ち込んでいたはずの彼女が力強く顔をあげた。私の言葉を遮って、

「3日後の同じ時間にもう一度来るわ。その時に持って来て」


 …可哀想だと思ったのに。
 私は急に気落ちした。心の中で溜め息を吐く。

「分かった」
 ふいに風が吹いた。彼女から目を放したのは、肩を落としたその一瞬の間だった。
 なのに。
「ところであなたは…あれ?」

 せめて名前くらい聞こうとしたその時。
 ワンピースの少女は、もう跡形もなくその場所から消えていた。

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「パズルの男ぉ?」

 そんな話題が出たのは、次の日のお弁当の時間。
 そう。と友人の智美が平然と頷いた。

「パズルのピース知りませんか、って寄ってくるんだって」

 私は半ば呆れながらおかずのコロッケを突いた。
 あたしも知ってる、と梨紗までが口を挟んできた。フォークの先にタコさんウインナーを刺したままで。

「でね、『はい』か『いいえ』ってちゃんと答えるまで放してくれないんだって」

「いわゆる都市伝説だね。弟の友達も見たとかなんとか」

 腕組みをして頷く智美。いつの間にか梨紗が会話の中心を担っていた。

「冗談でも『はい』って答えちゃうとね、ちょうだいって掴みかかってくるんだって!」

「なんだ。ただの不審者じゃない。なんでパズル?って気はするけど」

 思わず彼女達の怪談話にツッコミをいれる。
 すると智美がニヤッと笑った。

「お。結衣信じてないなー? まぁ、私も信じてないけど」

 私は窓の外の空を見上げた。綺麗な青空だった。
 当たり前だよ。そんなの、高校になってまで鵜呑みに出来る程純粋じゃない。
 小さい頃はあんなに怖がっていたのに、中学校に入った頃からは怪談話になびきもしなくなってしまった。
 もう廊下の暗がりにお化けは潜んでいないし、鏡の中から手が出てきて引きずり込まれる心配もしない。

 それに。私が信じない理由はもう一つある。
 パズルだったら昨日私が拾ってしまった。
 もし今のが本当の話だとしたら、その『パズルの男』とかは私の所に来たりするの?

 …まさか、馬鹿馬鹿しい。
 信じている場合じゃない。


 そしてその帰り。家まであと数百メートルというところで。


「…見つけた」


 声がした。
 振り返ると、女の子が私を見ていた。
 もうほとんど日も沈んだ薄暗がりの中に、ぽつりと。
 年は私と同じくらいだろうか。ふわふわの長い髪で、服装は長めのワンピースみたいだった。

 可愛い子だな、と思う反面、妙な子だな、とも思った。

 それは、少女の肩に真っ白いハトが留まっているのが原因だった。
 どうして、ハト? 逃げないのかな?
 とっさに浮かんだのがそんなことなんて、自分でも情けない。

 そのハトが、私を見てクルルと鳴いた。それを聞いて少女が目を細めた。


「あなた、持ってるわね」

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