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むせ返るような芳香、甘い蜜。蝶のような優雅さで。 そのカラダに鋭い棘を隠して。
はじめに

ようこそ、偽アカシアへ。
こちらは私、朝斗の今までの作品展示室となっております。

過去作品から随時追加予定です。
同じものを掲載していますが、若干の推敲をしている場合もあります。
詳しくは『はじめに』をご一読ください。
2008.5.6 Asato.S
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 ある日の高校の帰り道。
 私は、道端でパズルの欠片を拾った。

 その日は特に用事もなかったから、少し早く家路についていた。友人の智美達は部活があって、私が暇だからといって遊ぶわけにはいかない。 

 晴れ空の下。そうしていつもの道をいつものようにふらふらあるいていると、足元で何かがキラリと光った。ふと足を止める。
 ジグソーパズルのピースだった。中学生の頃に熱中したあれ。500ピースとか1000ピースとか、黙々と並べたっけ。額縁を買って来て、揃ったらボンドを塗って飾った。 

「懐かしいなぁ」 

 あの頃はまだ、自由に使う時間を持っていた。
 それを少しも「無駄」と思わない、贅沢に時間を使うことが出来ていた頃。それこそ何の役にも立たないジグソーパズルに没頭できるほどに。
 私はそれをなんとなく拾った。
 水色のピースだった。ちょうど、晴れ空と同じくらいの澄んだ色。
 よく見ると、右上に白い色が重なっている。雲と同じ色。もしかしたら、本当に空の絵のパズルなのかもしれない。

 どうして拾う気になったのだろう。
 まるでパズルの欠片が私を呼んだようだった。
 それとも、私の心がパズルを呼んだのだろうか。 

「だだいま」
 家に帰るなりキッチンに入って、飾り棚の右下の戸を開ける。 中には母の集めたガラスビンがしまってあった。そこからティージャムの空きビンを選んでひとつ取り出す。
 「いつか使うから」と言ってはジャムやハチミツの入っていた可愛いビンを洗う母。まさか本当に使う日がくるとは思いもしなかった。 

 空きビンを部屋に持っていって、その中にピースを入れた。
 フタを閉めて、勉強机に飾ってみる。
 ガラスビンはピースの面の大きさより小さいので、途中で引っ掛かってななめに止まった。こちら側に色のついた面を向けた状態で。 

 なんだか、空を閉じ込めたみたいだった。
 小さなビンの中に、私だけの空ができた。



 夕飯の後。私はいつものようにベッドに寝転がって雑誌を読んだ。ぐだぐだと、借りてきたCDなんか聞きながら。
 ふと、パズルの存在を思い出して机の上に手を伸ばした。ビンを手にとって、中を覗き込む。 

「…あれ」 

 私はページを捲っていた左手を止めた。
 そしてパズルの方にだけ気を集中させる。 

「柄が変わってる」 
 さっき見た時は薄い青色だったのに、今は鮮やかなオレンジ色をしている。 

「…もしかして、ホログラム式?」

 見間違いかと思った。けれど、さすがに青とオレンジは間違わないはずだ。 
 まるで… 


 私はふと、窓の外を見た。 

 外の空も、ビンの中の空と同じ、夕焼け色だった。 

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