むせ返るような芳香、甘い蜜。蝶のような優雅さで。 そのカラダに鋭い棘を隠して。
はじめに
ようこそ、偽アカシアへ。
こちらは私、朝斗の今までの作品展示室となっております。
過去作品から随時追加予定です。
同じものを掲載していますが、若干の推敲をしている場合もあります。
詳しくは『はじめに』をご一読ください。
2008.5.6 Asato.S
三月兎が引いてくれた椅子に腰掛けると、テーブルの上にはあっという間にアフタヌーンティーの一式が並べられた。
帽子屋はというと、リラの正面の席に座って既にティーカップに口をつけている。
「この庭は彼が維持しているんです」
「庭を?ダミアンは執事長でしょう?」
「はい。でも『庭師』があんな状態ですから」
ジョシュアはちらりとテーブルの隅に視線を投げた。つられて目をやると、どうやら昼下がりのお茶会には先客がいたらしい。
しかし、その先客は突っ伏して寝息を立てていたが。
「彼は?」
伏せているので顔は見えないが、印象的な銀色の髪が陽光を反射させている。年の頃はおそらく、ジョシュアやダミアンよりはリラに近いだろう。
「《鼠》です。庭の手入れを取り仕切る存在。あまりに寝てばかりなので『眠りネズミ』と呼ばれています」
またひとつ新しい役職を知った。《鼠》は庭師のことらしい。この国では少し奇妙な役職名が並んでいて、リラを困惑させる。《兎》や《鼠》と冠されていても動物のそれとは異なるのだ。つくづく、自分の国とは仕組みが違うのだと思い知らされる。
しかし、リラを一番困らせているのはそんなことではなくて。
「この国には慣れましたか」
三月兎…執事長が紅茶を淹れる様子を見つめていると、ふいにジョシュアが尋ねた。
「うーん…そうねぇ」
答えを待つように、帽子屋と三月兎、二人分の視線がリラに注がれる。
「慣れたといえば慣れたけれど、慣れないといえば慣れないわね」
「なにがいけません?」
尋ね加えたのはダミアンで。リラは少し言いよどんでから口にした。
「…なにもしなくていいこと」
真っ白なティーカップが差し出される。その中の芳しい茶色を見つめながら、言葉を繋げる。
「ホワイト・ラビットは…フィンは何もしなくていいというけれど、本当にいいの?アリスは国を纏める存在なんでしょう」
「事実、なにもしなくてもいいでしょう?」
ジョシュアは慰めるように問いかける。リラが顔を上げると、優しい笑顔が迎えた。
「アリスというのは、この国の柱で、この国の象徴なんですよ。アリスさえ居ればこの国は姿を保っていられる。今はまだ不安定ですが、そのうち大地も空も元通りになります」
「…前のアリスが消えたから、この国も消滅しかかったのよね」
それは文字通りの『消滅』。事実、この世界は今も不安定さから解放されない。
リラがこの場所に来てからずっと、空の色は薄く、太陽と月が一緒に出ている。城壁の外、広大な草原はあちこちうねっているし、小川のせせらぎはどこかでせき止められているのか、絹糸ほどしか流れていない。平静を保っているのは城壁の内側だけ。
それらは納まってきているというが、リラの目には変わらず異常にしか映らない。
だから少女は悩むのだ。
帽子屋はというと、リラの正面の席に座って既にティーカップに口をつけている。
「この庭は彼が維持しているんです」
「庭を?ダミアンは執事長でしょう?」
「はい。でも『庭師』があんな状態ですから」
ジョシュアはちらりとテーブルの隅に視線を投げた。つられて目をやると、どうやら昼下がりのお茶会には先客がいたらしい。
しかし、その先客は突っ伏して寝息を立てていたが。
「彼は?」
伏せているので顔は見えないが、印象的な銀色の髪が陽光を反射させている。年の頃はおそらく、ジョシュアやダミアンよりはリラに近いだろう。
「《鼠》です。庭の手入れを取り仕切る存在。あまりに寝てばかりなので『眠りネズミ』と呼ばれています」
またひとつ新しい役職を知った。《鼠》は庭師のことらしい。この国では少し奇妙な役職名が並んでいて、リラを困惑させる。《兎》や《鼠》と冠されていても動物のそれとは異なるのだ。つくづく、自分の国とは仕組みが違うのだと思い知らされる。
しかし、リラを一番困らせているのはそんなことではなくて。
「この国には慣れましたか」
三月兎…執事長が紅茶を淹れる様子を見つめていると、ふいにジョシュアが尋ねた。
「うーん…そうねぇ」
答えを待つように、帽子屋と三月兎、二人分の視線がリラに注がれる。
「慣れたといえば慣れたけれど、慣れないといえば慣れないわね」
「なにがいけません?」
尋ね加えたのはダミアンで。リラは少し言いよどんでから口にした。
「…なにもしなくていいこと」
真っ白なティーカップが差し出される。その中の芳しい茶色を見つめながら、言葉を繋げる。
「ホワイト・ラビットは…フィンは何もしなくていいというけれど、本当にいいの?アリスは国を纏める存在なんでしょう」
「事実、なにもしなくてもいいでしょう?」
ジョシュアは慰めるように問いかける。リラが顔を上げると、優しい笑顔が迎えた。
「アリスというのは、この国の柱で、この国の象徴なんですよ。アリスさえ居ればこの国は姿を保っていられる。今はまだ不安定ですが、そのうち大地も空も元通りになります」
「…前のアリスが消えたから、この国も消滅しかかったのよね」
それは文字通りの『消滅』。事実、この世界は今も不安定さから解放されない。
リラがこの場所に来てからずっと、空の色は薄く、太陽と月が一緒に出ている。城壁の外、広大な草原はあちこちうねっているし、小川のせせらぎはどこかでせき止められているのか、絹糸ほどしか流れていない。平静を保っているのは城壁の内側だけ。
それらは納まってきているというが、リラの目には変わらず異常にしか映らない。
だから少女は悩むのだ。
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