忍者ブログ
むせ返るような芳香、甘い蜜。蝶のような優雅さで。 そのカラダに鋭い棘を隠して。
はじめに

ようこそ、偽アカシアへ。
こちらは私、朝斗の今までの作品展示室となっております。

過去作品から随時追加予定です。
同じものを掲載していますが、若干の推敲をしている場合もあります。
詳しくは『はじめに』をご一読ください。
2008.5.6 Asato.S
[129]  [128]  [127]  [126]  [125]  [124]  [123]  [122]  [121]  [120]  [119
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

 その日は思う所あって、一階の座敷で仕事をしていた。

 じわじわと汗も滲む季節。
 普段ならじっと原稿用紙を睨んでいるのも嫌になる頃だが、今は良く手が進んでいる。
 それはひとえに、床の間の掛け軸のお陰でもある。
 滑らかに埋まっていく白い枡。ペンを走らせる青年の顔には、清清しい微笑さえ浮かんでいた。
 

 ふいに、澄ますでもない耳に、リィンと軽やかな音が届いた。
 思わず顔をあげる。まるで鈴生りに鳴る硝子の音。おそらく、どこか近所を歩いている風鈴売りの音だろう。
 それを聞いて、いつぞやのヒツジグサに思いを馳せる。
 
 手を休め、振り返って縁側に目を向ける。
 開け放した硝子戸の向こうには、こちらを覗き込むサルスベリの枝が見て取れた。上品な桃色の花が、入道雲と共に薄青の空を飾っている。

 ――今年も良く咲いてくれている。

 独り言ちると、満開の枝がさわさわと揺れた。
 側では一匹の犬が寝息を立てている。

 遠くで夕立を知らせる音が響いた。刹那、涼しげな風が吹き抜ける。
 その風が、床の間に飾った鬼灯を揺らしていった。
 

 ――成程、葡萄が生るにはまだ早いな。

 そう付け加えて微笑うと、青年は再びペンを握った。

 

梨木香歩『家守綺譚』を読み終えて

拍手[0回]

PR
この記事にコメントする
name
title
color
mail
URL
comment
password   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
この記事へのトラックバック
Welcome
冬に包まれる季節。
詳しくはFirstを参照ください。
つぶやき
ブログ内検索

プロフィール
HN:
朝斗 〔あさと〕
性別:
非公開
趣味:
読書、創作、カラオケ、現実逃避
のうない
最古記事
はじめてのかたは此方から。
最新コメント
メモマークは『お返事有り』を表します。
[05/09 彗花]
[05/07 天風 涼]
[05/06 朝斗]
[05/06 朝斗]
[05/06 朝斗]
バーコード
もくそく
Powered by Ninja Blog Photo by COQU118 Template by CHELLCY / 忍者ブログ / [PR]