ようこそ、偽アカシアへ。
こちらは私、朝斗の今までの作品展示室となっております。
過去作品から随時追加予定です。
同じものを掲載していますが、若干の推敲をしている場合もあります。
詳しくは『はじめに』をご一読ください。
私達は少年にお礼を言い、その場を後にしました。
山の斜面を下りながら、私はそっとセシルに尋ねてみます。
「ねえ、さっきのひと、誰なの? どうして私の名前を知っていたの?」
「人じゃないよ。竜だ」
セシルは急に、とんでもない事を言い出しました。
「竜? あの、おとぎ話に出てくる?」
「そう。彼は何百年も前から山に住んでいて、君たちの町を見守っているんだよ」
思わず振り返ったけれど、もう少年の姿はありませんでした。ただ、月影の落ちる草原が広がっているだけ。茂った草が、夜風に吹かれてそよぐだけでした。
「信じられない?」
「そうじゃないけど…」
私にはクインスという少年は人間にしか見えませんでした。
確かに、なんとなく町の人とは違う雰囲気を持ったひとだなとは思ったけれど。
「いいんだ。今日は満月の夜だからね」
私は納得できないままセシルの後をついていきました。
それにしても、どうしてセシルは竜と知り合いなのだろう?
もしかしたら、またセシルの作り話なのかもしれない。
彼は旅の絵描きだもの。私よりずっと多くのおとぎ話をしっているはずだわ。
しかし私にはこれから先、どうしても納得しなければいけない出来事が待っていたのです。
「さあ、次は森だ。森の知恵に会いにいかなければ」
私達は竜の言葉通り小川に沿って山を下りました。
もしかしたら川のどこかに小瓶が引っかかっていないかと探しながら歩きましたが、そんな形跡はどこにも見当たりませんでした。
川は森の中へ続いていました。そのまま小川に沿って森の中へ入っていきました。満月の光が当たる草原とは違って、森の中はうす暗く、そして少しだけ心細くなります。
「もう戻るかい?」
セシルはそんな意地悪な事を言ってきたけれど、私は聞えないふりをしました。
樹の間を歩いていくと、突然、森の中の開けた所に出ました。
そこは地面がならされたように平らで、丸く切り取って広場にしたみたいでした。森の中なのに夜空が見えています。
そして、その広場の真ん中に、一本の大きくて古い木が生えていました。
森の他の木がその木のために場所を空けているみたい。私はぼんやりとそんなことを考えました。
大きな木のそばで、今度は歳をとった男の人が待っていました。
草原で出逢ったクインスと同様に、町では見覚えの無い人でした。
「こんばんは、ローリエ。お邪魔しています」
「よく来たね、セシルにアリシア。来ると分かっていたよ」
そのおじいさんもまた、私のことを知っていました。
「あまり時間がないようだな。では、早速本題に入ろうか」
ローリエというらしいそのおじいさんは、月の傾き具合を見て言いました。
どうやらおじいさんは何も言わなくても私たちが来た理由を知っているようでした。