ようこそ、偽アカシアへ。
こちらは私、朝斗の今までの作品展示室となっております。
過去作品から随時追加予定です。
同じものを掲載していますが、若干の推敲をしている場合もあります。
詳しくは『はじめに』をご一読ください。
長いローブを着たその様子は、魔法使いのように見えました。そしてさらにその姿にぴったりの、ふしのついた白い木の杖で土を叩きました。
シャン、シャン、と、杖の飾りについた、澄んだ鈴の音がします。
その音はあちらこちらで木霊して、遠くまで響いていきました。
それを黙って聞いていたローリエさんは、木霊が聞こえなくなるのを待って頷きました。
「ああ、流れているね。それは川を下り、森をも抜けた。そして海に。川を出た水は波の流れに乗って、入り江にたどり着く。探し物はそこで見つかるだろう」
「ありがとうございます」
セシルはまた、深く深く会釈をしました。
ローリエさんはふわりと微笑んで、
「礼には及ぶことではないよ。どれ、森の外まで送ろう」
ローリエさんは私たちの前に立って、深い森を進んでいきました。
彼が歩くと、うっそうとした森の中に、月の光に照らされた道が出来ました。
まるで、森の木々達が月の光を招き入れているようでした。
いくらも歩かないうちに、私たちは森を抜けることができました。
「二人とも、気をつけていきなさい」
ローリエさんは森の出口まで来ると、私たちに手を振って見送ってくれました。
今夜は不思議なことばかり起こります。
それとも夜の世界とはこういうものなのかしら。
「さっきの人は?あのひとも竜?」
「いや。あれは森の精霊だ。もっとも、竜も霊のようなものだけどね」
セシルは少し難しそうなことを言いました。
私にはよく分からなかったけれど。
聞きたいことは山積みでした。
どうしてセシルは竜や精霊を知っているのだろう?
まるで、昼間に聞いた物語のようだわ。
「さあ、次は海だ。少し急がないと。もうじき夜が明ける」