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むせ返るような芳香、甘い蜜。蝶のような優雅さで。 そのカラダに鋭い棘を隠して。
はじめに

ようこそ、偽アカシアへ。
こちらは私、朝斗の今までの作品展示室となっております。

過去作品から随時追加予定です。
同じものを掲載していますが、若干の推敲をしている場合もあります。
詳しくは『はじめに』をご一読ください。
2008.5.6 Asato.S
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at present - this year

 
71
「おはよう」笑いかけると、優希は一瞬眉をひそめた。その眼差しにどきりとして思わず目を逸らす。大丈夫、目の赤色は一晩で消えたはずだから。努めていつも通り、寒いね、なんて話を続ける。彼女の表情も元に戻る。「それで、平気なのよね?」「平気だよ」ゆるりと首を振りながら。
posted at 22:55:22 10/02/11


72
帰り道は銀色の彼の元へ。ふっと笑いかけてくれたから安心してその側に寄る。私の心が変わってしまっても、どうしようもないのはもう分かってる。それならこのまま、この距離だけは変えずに居よう。私の好きが彼の好きとは違っても。朝目覚めて逢いたいと思う気持ちに嘘はないから。
posted at 23:18:47 10/02/11


73
良かった、と冬の王は少なからず安堵する。人間の少女…ヒナは最近元気がないように見えた。少しだけ、二度と会いに来てくれぬのではとも思った。理由は分からない、けれど今はこれで良い気がした。冬が明け春が来るまでは平和が有る。――その原因が己にあると、彼は気づかぬまま。
posted at 23:22:39 10/02/12
 


* * *

 
74
教室の女の子達が華やいでいる。そうか、もうバレンタインね。昨年は友達にケーキを振舞ったけど今年は作る気分になれない。その訳を噛み締める。「陽菜はどうするの」「私は…」真直ぐな瞳。「作りなさい」何も言わなくても理解してくれる彼女は凄い。でも、きっとあげられないよ。
posted at 00:17:44 10/02/13


75
結局、用意したのは市販のチョコレート。包装紙を見つめながら苦笑い。気づかなければあげられたのにな。変わるというのは怖い。変化に気づいてしまうというのは。そして、こんなチョコ一つをあげるのにどうしようもなく焦っている自分が恥ずかしい。明日は普通で居られますように。
posted at 21:56:51 10/02/13


76
「はい、ハッピーバレンタイン」何気なさを装って手渡した鮮やかなラッピング。冬の王はその中身をじっと確かめている。「普段とは違うな」「なに?」「こういう場合、ヒナは自分で作るだろう」銀色の視線にぎくりとする。どうしてこんな時ばかり鋭いのかな。「それはまた今度、ね」
posted at 19:01:16 10/02/14


77
「三年生送別会?」そうだよ、頷く部活仲間。「進路も決まったようだし、卒業式に先駆けてね」日時と場所、下準備の連絡を聞いて音楽室を後にする。そうか、春が来れば私も受験生なんだな。見下ろす窓際に見覚えある後姿が見える。先輩だ、思い当たった瞬間に振り向いて目が合う。
posted at 01:02:22 10/02/16


78
昇降口に下りるとまだ先輩がいた。「合格おめでとうございます」「ヒナちゃんに祝って貰えると嬉しいね」尊敬する同じ楽器の先輩。彼なら問題ないと漠然と思っていたけれど。先輩が歩き出すので、何となく速度に合わせて歩を進める。まるでパート練習みたいだと一人懐かしみながら。
posted at 23:01:46 10/02/16


79
「まだ元気がないな」心配そうに顔を覗き込まれて慌てて首を振る。「違うの、ただ、暖かくなったなぁって」言葉にして余計苦しくなる。「春は早い方がいいだろう」私の気持ちも知らずに、何事もなく答える冬の王。二月末。公園に寄り道する習慣は変わらない。春は、きっとかなしい。
posted at 23:47:27 10/02/16


80
考えるのはたったひとつ。すぐ側まで来ている冬の終わりを、いかに楽しく過ごすかということだった。春の訪れを忘れる為にイヴェールの元へ。私の来訪が少しだけ増えたのに彼は気づいているだろうか?気づいて欲しい、欲しくないと葛藤して、それでも微笑を見れば全て薄れてしまう。
posted at 23:26:57 10/02/17


81
「ヒナちゃん」振り向けば先輩が追いついてくる。「まだ学校あるんですね」「授業は無いんだ。でも名残惜しいから」ちらり校舎を振り返る。それから駅までの道、部活の近況を話しながら歩いた。「あ」「どうかした?」視線の先に銀色の瞳。珍しいなと思いながら先輩に別れを告げる。
posted at 23:34:27 10/02/18


82
「イヴェール」久々に街中で会えたのが嬉しくて駆け寄ったけれど、冬の王はどこか渋い顔。仕方なく歩くうちに口を開いてくれた。瞳は遥か後ろへ「…あれは」視線の先を探し首を傾げる。「部活の先輩?途中で一緒になったの」問われたと思って応えたのに、彼は再び黙ってしまった。
posted at 01:13:04 10/02/19


83
「忙しかった?」憮然とした様子に尋ねれば依然強張った口調。それに気づいたのか、改めて私を見る。「そんな事は無い」「ならいいけど…」腑に落ちなくて銀色を盗み見る。途端、ピタリと止まる彼。「この間の」「え」「今度作ると言ったろう」頷きながらも、困惑は深まるばかり。
posted at 23:32:06 10/02/19


84
「陽菜のは綺麗だよね。美味しいし」期末後の息抜きのような実習。余りものは持ち帰るようにと言われ、皆で作ったマフィンを包む。昨日のこともあるし、折角だからイヴェールにあげようか。考えていると優希と目が合う。「陽菜はそのほうがいいよ」私も、本当はこのままでいたいよ。
posted at 00:07:52 10/02/21

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