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むせ返るような芳香、甘い蜜。蝶のような優雅さで。 そのカラダに鋭い棘を隠して。
はじめに

ようこそ、偽アカシアへ。
こちらは私、朝斗の今までの作品展示室となっております。

過去作品から随時追加予定です。
同じものを掲載していますが、若干の推敲をしている場合もあります。
詳しくは『はじめに』をご一読ください。
2008.5.6 Asato.S
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at present - this year

101
空は珍しく雨。傘なんて持っていなくて、懸命に並木道を走る。雫の冷たさはまだ冬。けれどきっと雪はもう降らないだろう。逃げ込んだ本屋の軒下で携帯電話を開く。そういえば、冬の王はいつまで居られるんだろう。カレンダーは既に三月の二週目。焦燥と愛しさと、苦しさが交差する。
posted at 00:52:27 10/03/09 


102
彼に会ったのは本当に偶然だった。なんだか目が覚めて一時間も早く出た朝。近道に通り抜ける公園で、期待せずに目を遣れば丘の上に枯野色。「イヴェール?」「…ヒナか」気だるげな声、深い眉間のシワ、憂う微笑。「…どうかしたの」何も、と答える彼は目に見えて憔悴している。
posted at 23:49:30 10/03/09


103
思い過ごしと言い張るにはあまりに明確すぎた。平静を装う冬の王の姿も、気づいてしまえば無理をしていると分かる。いつからと巡らし、思い当たるのはあの陽射しの輝く日。「どうして」「なに、暑いのが苦手なだけだ」言葉の意味が分からない訳じゃない。「いつまでこの街に居るの」
posted at 01:23:07 10/03/10


104
『冬が終われば』。冬の王はそれ以上語ろうとはしなかった。彼が辛そうにするのを見たくないのと、会えなくなることへの淋しさが葛藤する。足早に公園へ向かう。今日は姿がない。どうして、と固く手を結ぶ私の耳に、誰かの声が届く。「まだ帰らないのね、冬は」振り向いて息を飲む。
posted at 00:56:47 10/03/11


105
それは少女だった。紺のワンピース、柔らかにうねる髪は黄金。十代初め程の少女が宙に浮いている。「純色の司者には辛いでしょうに」彼女はふわり大地に下り立つ。「あなたは…」尋ねるまでもなかった。姿と気配に冬と同等の存在だと察する。日傘を閉じ、興味深そうに私を見つめた。
posted at 01:28:33 10/03/11


106
「惑わすと知っているのにね」「私が?」「違うわ。貴女を」ふと空を見上げ、「けれど、冬が決めた事。それを果たすだけの力をあれは持っている」金糸雀色の瞳が揺れる。「春が来るまでまだ間があるわ。それまでは消えない。安心しなさい」少女は春風の様に悪戯に笑い、宙に消えた。
posted at 23:31:11 10/03/11


107
授業が終わってもぼんやりと窓の外を眺めている。勿論、彼が横切る事はなくて。今頃は木陰で苦しさを紛らわしているのかな。「冬がどうして帰らないか、分かる?」目の前に影が落ちる。真っ直ぐな瞳は私の心を読むようで。答えあぐねれば閉じる目蓋。冬薔薇が花壇に色を添えている。
posted at 00:37:46 10/03/12


108
携帯電話を開くと先輩からメールが入っていた。内容を確認した後も私は返信ボタンを押せずにいた。ベッドに寝転がったまま青空を見上げる。ああ、冬の王に会おう。ぼんやりと呟くけど、強い眠気と発熱を知らせる体温計を無視することは出来ずに。あいたいな。痺れる頭で思う。想う。
posted at 23:54:13 10/03/12



in the past - a year ago

109
思い出すのは去年の事。まだ私達が視線を交差したばかりで、偶然見ることのできた人間の少女と、不機嫌そうな冬の象徴でしかなかった頃。彼の心の不満を写し取った吹雪から数日、束の間の蒼天が人々を癒していた。冬の王の表情は落ち着いて見えたけど、何処か暗いものを含んでいて。
posted at 00:11:33 10/03/13



at present - this year

110
「もう大丈夫なの?」病み上がりで出席した送別会で、久々に笹倉先輩と顔を合わせた。「心配かけてすみません」頭を下げるとくすりと笑って、ならいいんだと、席に戻ろうと立ち上がる。「あの」聞かなくちゃ、その袖を引き止める。きっとこれが最後だから。先輩の目が私を見透かす。
posted at 02:01:04 10/03/13


111
「先輩はどうしてあの時……」それだけで伝わったらしい。あの帰り道、カップケーキ。言葉。「ヒナちゃん泣きそうだったから。それに、突然じゃないんだ。ずっと考えてた。本気だったよ」気づいてた?その目は真直ぐで。それから静かに首を振り、「でもね、もう忘れてくれていい」
posted at 18:59:06 10/03/13


112
「どうして」思わず聞き返す。これが答えを突き返す者の台詞でないと知りながら。先輩は私の目を見詰める。「だって、好きな人、いるでしょう」淋しげな柔らかさに息が詰まる。自分がどれだけ酷い人間なのか、やっと分かった。「…ごめんなさい」「謝らないでよ」泣き出したかった。
posted at 23:43:28 10/03/13


113
会場の出入口に彼女が待っている。「そろそろ終わりね」「…うん」「もう決めた?」「うん」何をと尋ねることはない。その表情が少し和らぐ。「帰りましょう」「うん。ごめんね」もう一度頷いて並び歩く。ありがとう。見損なったと言いながら、見捨てずに居てくれる優希が好きだよ。
posted at 00:55:55 10/03/14


 * * *
 

114
「いた!イヴェール!」元気良く手を振るヒナは何か袋を提げていた。「これは?」「アイス」暑い時は内側から冷やすと楽じゃない?敵わず笑えば頬を膨らせる。「これ位しか思いつかなかったんだもん」「有難う」そして、意を決した様に真直ぐな瞳で「…大好きよ」「――ありがとう」
posted at 22:47:46 10/03/14

 

to be continued,

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