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むせ返るような芳香、甘い蜜。蝶のような優雅さで。 そのカラダに鋭い棘を隠して。
はじめに

ようこそ、偽アカシアへ。
こちらは私、朝斗の今までの作品展示室となっております。

過去作品から随時追加予定です。
同じものを掲載していますが、若干の推敲をしている場合もあります。
詳しくは『はじめに』をご一読ください。
2008.5.6 Asato.S
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at present - this year
 

85
「お疲れ」振り向けば何度目かの先輩の姿。最近よく会うなと思いながら微笑を返した。「今日は暖かいね。そろそろ春が近いかな」何気ない言葉に表情が曇る。「ヒナちゃん?」「あ…いえ」慌てて首を振るけれど、自然に振舞えたかどうか。最近過敏になって駄目だな。冬がまだ恋しい。
posted at 22:56:17 10/02/23


86
「そうだ。調理実習だったんですけど食べませんか?」マフィンを眺めながら「ヒナちゃんは器用だよね」「そんなことは」「あるよ」ふいに真面目に頷かれる。「バレンタインも手作りだったんでしょう。俺も欲しかったな」意味を取りかねて言葉を失う。先輩は笑いながら、歩いていく。
posted at 23:24:51 10/02/23


87
太陽のせいなのか公園には人が多い。私は唯一散歩ではなく、のんびり彼の元。湖面の白鳥も随分少なくなった。「春はもう近いの?」「どうだろうな」自分のことなのに変なの。「そうだ、マフィン食べる?」「要らない。それよりバレンタインが先だろう」今回はやけに根に持つのね。
posted at 23:53:04 10/02/24


88
「何見てるの」教室で雑誌を開いていると優希がやってきた。「お菓子作り。チョコの何を作ろうかと思って」「バレンタインは終わったわよ」「だって、食べたいって言うんだもの」「『彼』が?」頷くと何故か納得顔。それから真剣な目付きになって「ねぇ、絶対にあげなさい。絶対よ」
posted at 22:50:56 10/02/25


89
太陽の光が揚々と制服に溜まる。今日こそはと小さな包みを片手に彼を探す。「イヴェール」思わず呼びかけるのに反応がない。湖面の白鳥も殆どいない。まさか。「ヒナ」よぎった途端、冬の王が顔を出す。私は安堵の息を零し「ねぇ。帰る時は私に教えてくれる?」目は逸らさないまま。
posted at 23:45:25 10/02/27


90
「今日はどうした」丘の上のベンチに座って彼を見上げる。凛とした銀の髪に、瞳。枯野色の外套。私は寝る間も惜しんで作ったガナッシュを渡した。バレンタインは終わったから、お返しはいらないよ。そう付け加えたのに、静かに微笑むだけ。「聞いてるの?」「ああ」あと何度逢える?
posted at 00:30:37 10/02/2


91
卒業式。胸に白い花を咲かせた先輩達の旅立ちを、私もまた体育館の隅で見守っていた。その中には勿論、笹倉先輩もいる。あの帰り道以来、彼と会うことは一度もなかった。言葉の意味を確かめることも出来ていない。一瞬だけ目が合った気がしたけれど、微笑の中にやはり答えはない。
posted at 23:52:53 10/03/01
 

***
 

92
カーテンを開ければ魔法のように雪景色。冬の王に尋ねれば「調整だ」と奇妙なことを言う。「それに、まだ二月が終わったばかりだろう」けれどやっぱり、雪の中で見る彼の姿はずっと神聖で。太陽でじわじわと薄れてゆく銀化粧を眺めながら、溶けなければいいのにと白い息を吐いた。
posted at 23:29:13 10/03/02


93
「今日はお前の日だな」銀色の瞳が和らぐのに苦笑する。「だから、私のことじゃないってば」弁明するのに冬の王は納得してくれない。「雛っていうのは…ええと、王女様のことだよ」「では、お前もヒナではなくヒメか」全くもう。どれだけ説明したら雛祭りを理解してくれるのだろう。
posted at 23:14:26 10/03/03


94
土曜日の午後、帰宅を待っていた様に携帯が鳴る。誰かな、液晶の名前に驚嘆する。『もしもし、ヒナちゃん?』「先輩…?」それは二年間聞き慣れた声。『今から買い物に付き合ってくれないかな』「どうして…」私は思わず問い返す。『どうしてって、その方が楽しいと思ったからだよ』
posted at 22:44:22 10/03/04


95
服を着替えて、思わず街へ出て来てしまった。改札で待ち合わせた笹倉先輩も勿論私服。フランネルシャツの先輩を見て、私達が制服姿しか知らない間柄だったのだと不思議な気分になった。「急にごめんね」以前と変わらない優しい微笑。私はそわそわしながら控えめに首を振った。
posted at 23:50:25 10/03/04


96
「とりあえず楽器店と雑貨屋と…あと行きたい所はある?」歩幅を合わせてくれているのに気づいた瞬間、向こうで歩行信号が点滅した。「あ」「え?」「急いで」曳かれた指先が温かい。安心するひとのぬくもりだ。それなのに思い出すのは、硝子の様にひやりとした誰かの手のひら。
posted at 23:20:52 10/03/05


97
アーケードを歩くうちに、私は度々目の前の先輩と『彼』を重ねていることに気が付いた。もし彼が人であったら、一緒にこうして歩けたら。有り得ることのないもしもの話。先輩を好きになれば苦しまずに済んだだろうか?そこまで考えて、私の名を呼ぶ声が懐かしくなって苦笑する。
posted at 13:21:43 10/03/05


98
学校へ行くと優希が待っていて、真っ先に私を窘める。「どういうつもりなの」声色で怒っているのだと気付く「貴女は、誰が好きなの」「だって…分かんないよ」返される溜息。彼女は知ってる。先輩と出かけた事も、休み中に何度も冬の王を訪れた事も。「…見損なったわ」哀しげな瞳。
posted at 22:38:05 10/03/06


99
「私が貴方を好きだって言ったら、どうする?」すっかり少なくなった渡り鳥を眺め、尋ねる。ぼんやりと独り言のよう。冬の王は目を眇めるだけ。「じゃあ、私が貴方を嫌いだと言ったら?」「…そうか」僅かに顰められる眉に微笑。ああ、困らせてどうするの。私は何がしたいのだろう。
posted at 00:53:57 10/03/08


100
緑の目立ち出す風景の中、枯野色の外套を纏う姿。蕾の色付く桜並木に彼は何を思うのか。と、道を塞ぐ影がある。制服に身を包んだ少女だった。その顔には覚えがある。「優希、だったか」「あら。憶えてくれてたの」睨む様な瞳は元来のもの。少女は淡々と「話を聞きに来たの。陽菜の」
posted at 23:23:31 10/03/08

 

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