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むせ返るような芳香、甘い蜜。蝶のような優雅さで。 そのカラダに鋭い棘を隠して。
はじめに

ようこそ、偽アカシアへ。
こちらは私、朝斗の今までの作品展示室となっております。

過去作品から随時追加予定です。
同じものを掲載していますが、若干の推敲をしている場合もあります。
詳しくは『はじめに』をご一読ください。
2008.5.6 Asato.S
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in the past - a year ago

19
カーテンを開けて息を呑む。夕方まで何ともなかった景色が白銀に埋め尽くされていた。それが積雪だと気付くのに時間がかかる。だって、こんな量の雪なんてスキー場でしか見たことない。『今年は異常な寒波が――』天気予報を耳にしながら、きっと『彼』に何かあるのだと思い耽った。
posted at 00:36:09 09/12/20


20
突然の雪に交通網は停止、学校は休みになった。潰え無く降りしきる細雪の中、私は母に止められるのも聞かず家を出る。行き先は言い訳のコンビニではなく冬の王の元へ。何が出来るか分からないけど、行かなければならないと自分が言っている。だって、他の人に彼は見えないのだから。
posted at 16:44:49 09/12/20


21
困惑で溢れた街も、公園は別世界の様に静まっていた。何日も会うことのない冬の王。けれど今日は見つけられる気がしていた。風に乗り雪が踊る。無音の風は壁となり行く手を阻む。私はそれに逆らう。そして流れが途切れた先には白銀の髪に寂しい枯野色。凍った湖の中央に、彼は佇む。
posted at 01:39:20 09/12/21


22
雪の静寂が声を消す。迷いはなかった。深く曇る氷に踏み出してもう一度。呼応に振り向いた瞳は寂しく見えて、喉奥がチクリと痛む。あの瞳は人間を見ない。冬だけを守り、そこに住む人間を見る事はない。なのに何故泣きそうな顔をしているの?「ねぇ、「帰れ」容赦ない声が距離を遮る
posted at 23:41:09 09/12/21

at present - this year

23
「っくしゅ!」盛大に顔を背け、振り仰げば待っている冬の王の苦笑。「だから寒いと言ったろう」「大丈夫よ。ほら」たった今手に入れてきた果物を袋から披露する。「ほう、用意が良いな」「でしょう?それから」今度は反対の鞄から「かぼちゃのケーキを作ったんだけど、食べない?」
posted at 23:55:44 09/12/22


24
「おはよう」コートに顔を埋めて私は彼に会いに行く。何故だか首を傾げるので「どうかした?」「お前はガクセイだろう?ガッコウはいいのか」クスリと笑うと、冬の王の眉が僅かに上下する。「だって、もう冬休みだもの」だからもっと会いに来るよ。不服そうだけど断られなかった。
posted at 17:54:25 09/12/23


25
今日は何の日?ふわふわの高揚感で冬の王に尋ねる。「降誕祭前夜か」「なんだ、つまんないの」彼がふふ、と笑う「私は冬だ。人間の催す節目とはいえ、冬中に知らぬ物は無い」「じゃあプレゼントね」手渡したのは雪色マフラー。彼の微笑を見れただけで、ここ数日の徹夜が浮かばれる。
posted at 22:50:41 09/12/24


26
午前零時を廻った途端、窓ガラスを何かが叩く。カーテンの先には普段に増して真白な冬の王。「どうしたの?」「いいから、ほら」誘われるまま手を取ると、いつの間にか空の上。頭上に満天の星、足許には街の光。彼は首のマフラーを指し「これの礼だ。それと、『メリークリスマス』」
posted at 00:00:04 09/12/25

in the past - a year ago

27
「聞こえなかったか。帰れ」その瞳は私が入り込むのを良しとしていない。けれど「…嫌よ」苛々が膨らむのと比例して雪の粒が大きく冷たくなっていく。嗚呼、彼は冬だ。だけど彼は一度でも私を見てくれた。今はそれを忘れたくない。「ねぇ、貴方が私達を嫌いでも、私は貴方が好きよ」
posted at 00:43:00 09/12/26


28
僅かに雪が弱まる。狭い視野に呆然と私を見る瞳が映った。「冬が人間を見限っても、私には貴方が見える。だから、どうか」それ以上何を言おうとしたのか自分でも分からない。声が届いたのかさえ、白い息で見えない。足元に亀裂が入る。落ちる。その覚悟を繋ぎ止める何かが在った。
posted at 23:03:21 09/12/26


29
体を包んだのは身を裂く湖水ではなくて、ひやりと柔らかい風。そっと開けた目には私の腕をとる白い掌があった。「愚かな人の子だ」銀の目が揺れる「冬は脅威だ。それでも尚、私を見るというのか」「見るわ」私は精一杯微笑む。冬の王は重ねて愚かだと嘆き、静かに目を伏せた。
posted at 23:41:37 09/12/27


30
帰り道に公園を抜けるのは既に日課。時間があれば毎日のように冬の王に会いに行く。「こんにちは」「…懲りない奴だな」溜息と共に睨まれても私は気付いていた。いつしか言葉を返してくれる様になったのが嬉しくて、たったそれだけの為に用もなく、私は今日も冬空の下を歩いていく。
posted at 23:15:38 09/12/28


→31 

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