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むせ返るような芳香、甘い蜜。蝶のような優雅さで。 そのカラダに鋭い棘を隠して。
はじめに

ようこそ、偽アカシアへ。
こちらは私、朝斗の今までの作品展示室となっております。

過去作品から随時追加予定です。
同じものを掲載していますが、若干の推敲をしている場合もあります。
詳しくは『はじめに』をご一読ください。
2008.5.6 Asato.S
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 私達は近所の公園に場所を移した。 
 夕方の公園はひとけがない。桜も既に散った今は犬の散歩をしている人に会うくらいだった。 
 藤棚の下に座って少女の話を聞く。

「『冬』ね」 
 彼女の結論はこうだった。 
「青白くて銀色の目をしてたんでしょう? 間違いないわ。彼らは彼らなりにこの世界を憂えているのよ」 
 『彼ら』って、誰? と聞き返すと、少女は「だから冬」と答えた。 

「待って。話が全く見えない」 
 私はワンピースの少女に挙手した後、異議を申し立てた。 
「冬、っていうのは、あの人の愛称?」 
「違うわ。冬は冬。季節の冬よ。あなたがさっき会った彼が、冬を呼ぶひとりなの」 
 …何ですって? 
「ちょっと待って。なにそれ、たとえ話?」 
 雨女とか、晴れ男とか、そんな区分で冬男? 寒さを呼ぶ人ってこと? 
 だから、と少女は少し苛々しながら答えた。 

「彼らがいないとこの世界は冬が来ないの。日本では毎年末に寒くなるように、彼らが季節をコントロールしているのよ」 

 黙っていると理解したと取ったようで、次第に落ち着きを取り戻した。しかし実際は、単に頭がついていかないだけ。 

「もちろん、春には春が、夏になるには夏が来て指揮をとるのよ。だってあなた、放っておいただけで世界が寒くなったり暑くなったりすると思う?」 

「でもそれは、地球の地軸に関係があって、太陽までの距離の変化で季節が変わるって、授業で習ったけど」 

「それはニンゲンたちが勝手に跡付けしたヘリクツでしょう」 

 大真面目でそんなことを言った。どうやら、私を笑わせようとしてる訳ではないらしい。 

「待ってよ」 
 こうして会話を中断するのは何度目だろう。でも、一向に理解できないのは私が悪い訳じゃない。 
「もしそれが本当だとして、あなたは何? どうしてそんなことを知っているの?」 
 すると彼女は一端言葉を切って、充分に息を吸い込んでから言った。 


「それは、私が空を任されている身だからよ」 


 思わず両手を挙げる。
 少女が怪訝そうに私を見た。 

「もうだめ。ごめんなさい、ワカラナイです」 
「何よ! 疑ってるっていうの!?」 
 その肩で、白ハトも羽をバタつかせる。ああ、怒っても可愛らしい。声なんてまさに鈴を転がしたよう。人生ってつくづく不平等。 

「疑う疑わないじゃなくて、現実離れした内容で信じられないの」 
 私は諦めて立ち上がった。これ以上この子に付き合ってもきっと進展はない。 

「パズルを勝手にあの人に渡しちゃったのは謝るよ。でも、この後はあなたでなんとかして」 
 何か言いたげな彼女に手を振って去ろうとした。すると、背後で勢い良く立ち上がる気配がした。 

「いいわ。そこまで言うのだったら、証拠を見せてあげる」 


「証拠…?」 
「全てが真実だという証拠。本当はニンゲンに教えてはいけないんだけれど、仕方ないわ」 
 それは私に言ったのではなく、自分に対して言い聞かせたようだった。 
「じゃあ、あそこを見てて」 
 そう言って空の一辺を指差した。電信柱の上の辺り。そこに丸い月が浮かんで、銀色を広げていた。 
「綺麗な満月ね」 
「そうだけど、違うわ。よく見て」 
 なんの変哲もないただの満月だ。数分しないうちに、月がほんの少し角度を変えた。さっきより少しだけ高い位置に動く。 
 そして益々輝かしい光を放ったと思ったそのとき。 

 月が、欠けた。 

 新円だった月が、右上から少しずつ夜の闇に消えた。まるで月が天空を移動するのに合わせたかのように。 
 あれ? 月って一晩のうちに満ち欠けするんだっけ? 
 しかし、ただの満ち欠けじゃないことがすぐ分かった。月の欠けた部分がどうもデコボコだ。尖っている場所と、へこんでいる場所と。 

「なに? あれ」 
 どこかで見た形だ。あれは、そう、ジグソーパズルのピース。完成したパズルの上で、そこだけピース一つぶん空いてしまっているみたいに。 

 それから幾分もしないうちに、満月の真ん中にぽっかりパズル型の闇が開いた。 
 少女はポケットから何かを引っ張り出した。 
 輝く銀色のピース。彼女は隣で空に手を伸ばし、私の目線に合わせてそうっと月の欠けた場所に重ねた。色も形もぴったり。完璧な満月が出来上がる。 

「空の破片って…まさか」 
 目を奪われたまま問う。そうよ。と少女の声がする。 


「これは空の一部。あなたが見ている空は、こうしてパズルのように構成されているの」 


 私がとっさに何も返せなかったのは、言うまでもない。 

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詳しくはFirstを参照ください。
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