ようこそ、偽アカシアへ。
こちらは私、朝斗の今までの作品展示室となっております。
過去作品から随時追加予定です。
同じものを掲載していますが、若干の推敲をしている場合もあります。
詳しくは『はじめに』をご一読ください。
at present - this year
31
研ぎ澄まされる寒さの中、幼い頃から通う神社の石段を登る。鳥居の先は橙の灯、どこか遠くで百八の鐘の音。「どうかした?」「なんでもないよ」本当は湖の側に居る銀色の彼のことを思う。初詣で会えないし、年賀状も届かない。陽が登ったら真っ先に会いに行こう。さあ、年が変わる。
posted at 23:34:26 09/12/31
32
霜の下りた芝生をゆっくり渡っていく。早朝の公園はやっぱり人気がないけれど、私が会いに行くのはたったひとり。「おはよう!」銀色の瞳に安堵しながら私は言葉を訂正する。「じゃ、なかった。あけましておめでとう、イヴェール」「おめでとう、ヒナ」新たな年の始まりを祝って。
posted at 14:44:35 10/01/01
***
33
「冬の王のくせに暇そうね」何だかんだでお喋りに付き合ってくれる彼は、いつも街の片隅で佇むのを伺うばかり。「何を言う、平和だからこその平穏だろう」それから思い直し「明日は雪だ。充分気をつけるといい」幾分得意気だけど、そんなの今朝の天気予報から知ってる。少し微笑む。
posted at 22:14:08 10/01/05
34
「冬休みも終わっちゃうね」マフラーを巻いてぽつり呟く。「私達はもう学校に来てる訳だけど」「それでも、授業がないのは重大ね」友人の言葉に深く頷いた。「ところで、冬は何処か行ったんだっけ?」「私はいつも通りだよ」いつも通りふらり立ち寄って、のんびり冬の王とお喋り。
posted at 23:16:24 10/01/06
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「今日も寒いなぁ」音楽室の鍵を閉め、冬木立を眺め廊下をゆく中、階段の踊り場ですれ違う人影。「やぁ、部活帰り?頑張るね」丁寧に頭を下げると彼は柔らかに笑う。「先輩こそ、本番までもう少しですね」「じゃあお互い頑張ろうか」エールを送って別れる。冬は、決意をくれる季節。
posted at 23:19:52 10/01/07
in the past - a year ago
36
冬枯れの中、挨拶が成立したのを良い事に今度は会話を成立させようと通い詰める日々。「ねぇねぇ冬の王様」「何だその妙な呼び方は」「だって、貴方は冬の化身か何かでしょう」我ながら変なことを口走る娘だと思う。刹那、銀の瞳が私を見る。「本当に、妙な者に見つかったものだ」
posted at 23:32:39 10/01/08
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「冬の王様は物を食べたりしないの?」寒さの中で味わう至福の時を楽しみつつ問いかける。「栄養を摂取する必要がないから、嗜好品だな」私は少し考えてから肉まんを二つに割る。「はい。嗜好品ってことは、食べられない訳ではないんでしょう?」次の日は心なしか太陽が暖かかった。
posted at 22:41:47 10/01/10
38
冬の王が私を僅かに『見る』ようになってからは、天候も異常を来すことはなくなった。彼の元へ通うのも以前みたいに毎日ではないけれど、週に数度窺う彼の顔は随分落ち着いて見える。『あれ』が何を示すのかを今は考えない。ただ今は彼に会い、少しでも笑ってくれたらそれでいい。
posted at 00:10:00 10/01/12
at present - this year
39
今日は部活がないから早々と荷物を纏める。天気も良いし、久々にイヴェールの所に遊びに行こうか。その様子が顔に出ていたのか、友人が笑って「寄り道?」と声をかけてくる。まあね、言葉を濁らせて教室を後にする。仲の良い彼女の瞳が何かを言っていたので、大丈夫だよと手を振る。
posted at 23:55:07 10/01/12
40
今日も公園のベンチに腰掛けて、ココアをお供に冬の王とお喋り。「どうかしたのか」「何も。ただちょっと、思い出してただけだよ」軽く首を振り文庫本のページを捲る。そう、あれは去年の今頃だった。最初にあの子に言われた時は驚いたけれど、今となっては笑みが溢れる出来事。
posted at 23:31:50 10/01/13
in the past - a year ago
41
「あんたいつも公園で何見てるの」帰り支度をしていると、ふいに親友に声をかけられた。「何って、本を読みながら白鳥を」勿論それは外見上で、本当は「そうじゃなくて」首を振って遮られる。「あの銀髪の男。人間じゃないでしょう」彼女の真っ直ぐな瞳に、息が詰まった。
posted at 23:48:08 10/01/14
42
「会いたいと言う者が居る?」「そう。私の友達なんだけど、一度話してみたいって」「そうか、私を見れる者もまだ多いのだな」よく聞こえずに首を傾げる。冬の王は顔を上げ「好きにするといい」珍しく素直なのは単に興味が無いだけなのか。とりあえず面会は明日の放課後に決まった。
posted at 23:35:22 10/01/15
43
噴水池に行くと約束通り冬の王が待っていた。銀色の横顔は関心が無さそうなまま、親友の優希はじっと彼を見る。「何か買ってくるね」「あたしも行こうか」「大丈夫!」手を振って近くの自動販売機に走る。二人がどんな話をするのか興味もあるけれど、間が持たなそうなので急ごう。
posted at 23:27:02 10/01/16
44
駆けていく後ろ姿を見送り、池の前に残されたのは二人。冬温い天候の中、少女は傍らに存在する『冬の王』を横目で見やる。あの子の様子が妙だと気づいたのは去年の暮れ、何度か公園で見たのも程無くしてからだ。相手が…人でないと気づいたのも。沈黙を破ったのは少女のほうだった。
posted at 00:53:36 10/01/18
45
「貴方は、冬の遣いね」優希の言葉に冬の王は肯定を示す「あの子は一緒にいて平気?煩くない?」「煩わしい時もあるが害は無い」「じゃあ好き?」「それは」「他の生き物と同等に」「…それなりに」ならいいけど、と真摯な瞳で睨む「陽菜を苛めたり泣かせたりしたら、許さないから」
posted at 01:04:20 10/01/18
46
ココアを両手に戻れば、妙なことに冬の王だけがその場所にいる。「優希は?」「先に帰る、と」「そう…」肩を落とすと、何故か慌て出す冬の王。「何か言ってた?」尋ねても返ってくるのは生返事。けれど彼の機嫌も悪くなさそうだし、今日は常盤木の青色に免じて納得してあげよう。
posted at 23:35:27 10/01/18
at present - this year
「よくそんな事を覚えていたな」感心しているのか呆れているのか、冬の王は静かに頷く。「だって、親友で貴方が見える人のことだもの。それで?」「ん?」「あの時、何を話していたの」見上げたのに、銀色の目は揺るがないまま。「忘れてしまった」今日も冬の空は掠れたように青い。
posted at 23:40:11 10/01/20
48
「それで、今日も行くの?」イヴェールのことを言っているのだと察して頷くと、親友は苦笑い。「冬が好きなら、いいよ」どこか困ったような微笑の意味が分からずに。けれど、どうしても頷き返さないといけない気がして真剣に首を縦に振る。一月も半ば。どんどん冬が深まっていく。
posted at 23:58:29 10/01/21
49
「旅行をする?」そうなの、だから来週まで来れないの。告げると冬の王は、気にしない様子で生返事を返してくる。「一緒に行けると楽しいのにね」「そうだろうか」やっぱり人間とは感覚が違うんだろうなぁ。少しだけ淋しいけど、冬の間はここに来れば会えるのだから我慢しよう。
posted at 23:55:40 10/01/22