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むせ返るような芳香、甘い蜜。蝶のような優雅さで。 そのカラダに鋭い棘を隠して。
はじめに

ようこそ、偽アカシアへ。
こちらは私、朝斗の今までの作品展示室となっております。

過去作品から随時追加予定です。
同じものを掲載していますが、若干の推敲をしている場合もあります。
詳しくは『はじめに』をご一読ください。
2008.5.6 Asato.S
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冬の王と少女の話

Overture 


銀杏の色が掠れ大地を覆い数日、防寒した人々が苛々急ぐ道を反対へかけていく。一足先にやってきた木枯らしが彼の所在を教えてくれたのだ。見えたのは銀の髪に瞳、枯野色の外套。そして一年ぶりの、日差しの様に柔らかな微笑み。「お帰りなさい!」腕の中に堪えきれずに飛び込んだ。
posted at 02:21:45 09/12/08



「今年は少し早かったのね」丘の上のベンチに並んで座り、ミルクティを啜る。彼は相変わらず穏やかに笑って「そうだろうか」「そうよ。でも、早く逢えて嬉しい」応えると雪の様な頬に僅かな緋色。袖間に隠れる指先をそっと包む。そして私は、一年ぶりに彼の名前を呼ぶ。
posted at 22:50:44 09/12/08


in the past - a year ago


冬の王に初めて逢ったのは昨年の十二月。その年は気候が不安定で、特に冬は急激な寒さと暖かさを繰り返していた。その日の気温は都心部でも息が凍る様な氷点下。交通網は見事に麻痺。私はスケートリンク同然の帰路を切々と踏み締めていた。銀色の後ろ姿を見たのは、そんな夕刻。
posted at 23:54:00 09/12/08



細かな雪が落ちる空模様に、普段は賑わう公園も人影は近道に使う私くらい。だから分かった。銀の髪、雪と同色の白い横顔、柔らかな枯野色のコート。憂いを帯びた表情も寒さに苛立つ人々とは異なる。気づいた瞬間には声をかけていた。「こんにちは」振り向いた瞳の美しさに息を呑む。
posted at 01:39:00 09/12/09



「人の子か」冬の象徴その物のそのひとは独り言の様に呟いた。私を気に留めてもいない。それでも挫けたりはしなかった。それより彼の存在に興味を持ったから。「どうかしたの?」掻き消える溜息を見てもう一度、今度は視線さえ寄越してくれない。どうしたら振り向いてくれるのか。
posted at 22:43:38 09/12/09



次の日もその次の日も天気は思わしくない。電車やバスが復旧しても、私は彼に一目会いたくて公園を歩いていた。霜の降りた芝生の、楢の側に銀の後姿。「こんにちは」通りかかって声をかけるだけ。返されるのは無言か無視か溜息ばかり。他は誰ひとり、彼に気付いていないようだった。
posted at 00:05:51 09/12/10


at present - this year


「寒くはないか」気遣いに思わず苦笑して「それ、貴方が言うの?」「それもそうか」冬の王は困って首を傾げる。「けれど、身体が冷える前に帰った方がいい」「そうね、有難う」本当はもう少し一緒に居たいけど今日は許してあげよう。だってこれからは、貴方を連れ回す冬なのだから。
posted at 00:32:06 09/12/10



改札を出ると、冬の王が楠の木の下でぼんやりしていた。声をかけたところ冬の具合を見て回っているのだという。人嫌いが珍しいと笑う私の、肩を掠めスーツの男が通り過ぎる。曇天を仰ぎ、白い息に苛付きながら襟を合わせて。ねぇ、冬の王。たとえ誰が嫌っても、私だけは貴方が好き。
posted at 23:21:43 09/12/08


in the past - a year ago


いつも通りに公園を通りかかると、いつもの場所に冬の王がいない。幹の裏側に回り込むと、そこに銀色のシルエット。「なんだ、いるじゃない」「うるさい」どことなく決まり悪そうに目をそらす。もしかして、私が来るから隠れてた?それに気づいて微笑むと、またうるさいと叱られた。
posted at 00:53:50 09/12/11


10
いつも通りに公園を通りかかると、いつもの場所にまた冬の王がいない。枝の間を見上げると、そこに銀色のシルエット。「こんにちは」声を張り呼びかけても反応はない。とは言っても顔を顰めたので聞かない振りはバレバレだ。それに気づいて微笑むと、ややあってうるさいと叱られた。
posted at 23:11:18 09/12/11


11
かくれんぼに飽きたのか、数日ののち彼は再び姿を見せるようになっていた。けれど冷たいのは相変わらず、何気ない挨拶も横滑り。もっとどうにかならないかと一瞬考えもしたけれど、冷静になれば彼は冬の王なので冷たいのは当たり前、滑るのも冬だから仕方ない。悴む手に息をかける。
posted at 01:18:21 09/12/12


12
その日は一段と寒く、制服の上にコートを重ねて学校へ向かった。通勤と通学の混雑。急ぎ足が交差する向こうに銀色の影を見る。静かな無表情は周囲の人に見えないだけでなく、彼からも人間の存在が見えていない様な自然さがあった。帰り道の公園は案の定、彼の姿はどこにも無かった。
posted at 23:03:22 09/12/12


at present - this year

13
湖にはとうに白鳥達が飛来している。彼らの羽ばたきを眺めながら「ねぇ、貴方も同じ場所から来るの?」「否、私は冬そのものだから、同じ場所であり同じ場所ではない」冬の王はふわり湖面を進む。その様子を目の当たりにすると、私と彼は別のものだと分かって不思議な気分になる。
posted at 01:16:54 09/12/13


14
「今日は一段と冷えるね」こんな会話は冬の王には意味が無いかと思ったけど、彼は頷き返してくれる。「それはそうだ、なんと言っても今日は」「あ」言葉の端に降りかかる小さな白色。やがて深々と、音もなく空からやって来る。「積もるかな」満足気な横顔。この冬初めての雪だった。
posted at 17:23:25 09/12/13


15
「どっちを見れば良いの?」深夜の自然公園の真中、私は冬の王を振り向く。「何処でも。放射点から離れた方が軌跡は長い」「あ!」「見えたか?」「でも、願い事出来なかったよ」肩を落とすとクスリ笑う声。けれどこんなにはしゃいでるのは、何も流れ星のせいだけじゃない。
posted at 00:14:28 09/12/15


16
十二月も半ばに差し掛かりいよいよ寒さに本腰が入ってきた。ぬくぬくのお布団からのそり起き上がり、何かに追われるように身支度をして扉の外へ。見上げた空が冷たく冴えていても、この寒さが彼の到来に寄るものと思えばどうってことない。柔らかな銀の影。今日も彼に会いに行こう。
posted at 00:17:30 09/12/17


in the past - a year ago

17
街中で冬の王を見たあの日以来、彼の姿を見ることはなかった。しつこくし過ぎて面倒に思われたかもしれない。そうでないと思いたくても、あの氷雪の横顔を浮かべるだけで心許なくなる。けれど、私には見えるのだ。彼の存在がただそこに。だから今日も、銀色の影を求め公園を横切る。
posted at 23:40:54 09/12/18


18
厚い雪雲の合間のささやかな太陽。久々の陽気は私の心の中まで温めてくれた。今日なら冬の王に会えるかもしれない。そんな期待を抱きつつ、帰り道の途中で公園へ。しかし天気とは裏腹に彼の姿はない。私は気付かなかっただけなのだ。それがいわゆる嵐の前の静けさだということに。
posted at 00:41:10 09/12/19


to be continued,
→19

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