むせ返るような芳香、甘い蜜。蝶のような優雅さで。 そのカラダに鋭い棘を隠して。
はじめに
ようこそ、偽アカシアへ。
こちらは私、朝斗の今までの作品展示室となっております。
過去作品から随時追加予定です。
同じものを掲載していますが、若干の推敲をしている場合もあります。
詳しくは『はじめに』をご一読ください。
2008.5.6 Asato.S
その場所を訪れたのは、偶然のことだった。
数分前まで蒼天だった空が瞬く間に曇り出して、これは降るな、と思う間もなく冷たいものが頬に当たった。
今日は朝から天候が安定しない。どしゃ降りになったかと思うとすぐに晴れて、水溜りに鮮やかな青を映し出してばかりいた。
やっぱりさっきの店で傘を借りてくればよかったかと思いもしたけれど、どちらにせよもう遅い。ついにザアザアと音を立てるほどの天気になって、僕は慌てて辺りを見渡した。
大通りに向かうのにいつも横切る石畳の道。両側には煉瓦造りの建物が並んでいて。
定休日の雑貨屋、屋根の畳まれたカフェ。ぽつぽつとある店の、一番手近な軒先に駆け込む。
そこはショーウインドウのある、少々古めかしい店だった。
漆黒の木枠に金のドアノブ。ドアを挟むように大きな窓が二つ。硝子の中には空っぽの鳥籠が飾られている。扉越しでは店の中までは窺えなかった。骨董屋か何かだろうか、見上げた看板に文字はない。
僕はまるで吸い寄せられるようにして、その扉に手をかけていた。
カラン、カラン。
ベルの音が室内に木霊する。
裏通りらしい小さな店だった。大人一人が手を広げれば精一杯。その代わりに間取りは奥へ向けて縦に長い。見ると一番奥に木のカウンターがあって、そこに一人の青年が佇んでいた。
「いらっしゃい」
「あ…すみません」
僕は少し驚きながら、軽く頭を下げた。
おそらくこの店の店主なのだろう。彼は僕を見てかすかに微笑んだ。
「あの…雨宿りさせてもらっていいですか」
「ええ、勿論どうぞ」
静かな印象の人だった。黒のジーンズに薄色のワイシャツ。黒髪の間からは、更に深い色の瞳が覗いていた。
「随分降られたみたいだね」
店主はその場から動くことなく、僕に声をかけた。
僕は周りを眺めながら数歩、更に店の奥へと歩を進める。
数分前まで蒼天だった空が瞬く間に曇り出して、これは降るな、と思う間もなく冷たいものが頬に当たった。
今日は朝から天候が安定しない。どしゃ降りになったかと思うとすぐに晴れて、水溜りに鮮やかな青を映し出してばかりいた。
やっぱりさっきの店で傘を借りてくればよかったかと思いもしたけれど、どちらにせよもう遅い。ついにザアザアと音を立てるほどの天気になって、僕は慌てて辺りを見渡した。
大通りに向かうのにいつも横切る石畳の道。両側には煉瓦造りの建物が並んでいて。
定休日の雑貨屋、屋根の畳まれたカフェ。ぽつぽつとある店の、一番手近な軒先に駆け込む。
そこはショーウインドウのある、少々古めかしい店だった。
漆黒の木枠に金のドアノブ。ドアを挟むように大きな窓が二つ。硝子の中には空っぽの鳥籠が飾られている。扉越しでは店の中までは窺えなかった。骨董屋か何かだろうか、見上げた看板に文字はない。
僕はまるで吸い寄せられるようにして、その扉に手をかけていた。
カラン、カラン。
ベルの音が室内に木霊する。
裏通りらしい小さな店だった。大人一人が手を広げれば精一杯。その代わりに間取りは奥へ向けて縦に長い。見ると一番奥に木のカウンターがあって、そこに一人の青年が佇んでいた。
「いらっしゃい」
「あ…すみません」
僕は少し驚きながら、軽く頭を下げた。
おそらくこの店の店主なのだろう。彼は僕を見てかすかに微笑んだ。
「あの…雨宿りさせてもらっていいですか」
「ええ、勿論どうぞ」
静かな印象の人だった。黒のジーンズに薄色のワイシャツ。黒髪の間からは、更に深い色の瞳が覗いていた。
「随分降られたみたいだね」
店主はその場から動くことなく、僕に声をかけた。
僕は周りを眺めながら数歩、更に店の奥へと歩を進める。
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