むせ返るような芳香、甘い蜜。蝶のような優雅さで。 そのカラダに鋭い棘を隠して。
はじめに
ようこそ、偽アカシアへ。
こちらは私、朝斗の今までの作品展示室となっております。
過去作品から随時追加予定です。
同じものを掲載していますが、若干の推敲をしている場合もあります。
詳しくは『はじめに』をご一読ください。
2008.5.6 Asato.S
かすかに曇った闇の中を、懐中電灯を手に進んだ。
古びた大きな屋敷。手入れされなくなって久しい、埃の痕跡。
自分の足音以外は何も聞こえない。
誰も居ない、板張りの廊下。
――お姉ちゃん。
囁く声で、どこかに居る筈の姉を呼ぶ。
赤色の蝶を追いかけて、いなくなってしまった姉。
導かれるように行ってしまった。古い屋敷の奥へ奥へと。
止める声も、聞こえていないようだった。
観音開きの扉を開ける。
こんなに立派な家屋なのに、住人らしきひとには遭っていない。
それどころかこの村には、もう人が住んでいる様子はない。
けれど、ずっと。
誰かに見られている気がする。
早くここを出なきゃ。
手の震えや、背筋に張り付く冷たさを、頭を振って振り払って。
お姉ちゃん。何処へ行ったの?
今、追いつくから。
だから。
今度こそ。
「今度こそ、いつまでも一緒にいよう」
少女は違和感に口元を抑えた。
…どうして。
今、どうして、『一緒に帰ろう』じゃなかったんだろう。
けれどその疑問も、ほどなく不安の霧に紛れて掻き消えてしまった。
とにかく今は、姉を探さなければ。
少女はふと格子戸の外を見上げた。
浮かぶ真円の月。その傍らに、紅い蝶を見た気がした。
――もう、おいて行かないで。
二人きりの、双子の姉妹。
少女達は鳥居をくぐったあの瞬間から、終わることのない夜の中を彷徨っている。
End.
『零~紅い蝶~』のあとに
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冬に包まれる季節。
詳しくはFirstを参照ください。
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