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むせ返るような芳香、甘い蜜。蝶のような優雅さで。 そのカラダに鋭い棘を隠して。
はじめに

ようこそ、偽アカシアへ。
こちらは私、朝斗の今までの作品展示室となっております。

過去作品から随時追加予定です。
同じものを掲載していますが、若干の推敲をしている場合もあります。
詳しくは『はじめに』をご一読ください。
2008.5.6 Asato.S
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「はい。では、次のかたどうぞ」

 しずしずと部屋に入っていくと、中央に大きなテーブルがひとつ。その向こうに、白衣を着た女性が座っていた。日本人らしい艶やかな黒髪を後ろで束ね、細い銀の縁の眼鏡をかけていた。きっと、このひとがここのお医者さん。

――よろしくお願いします。

 彼女に向かい合うように空いた椅子がひとつ。
 僕は、薦められるままにその椅子に座った。

「あら、随分変わったお客様だこと」

――え、分かります?

 女性は暗い顔をしている僕を見て、手にしていたボードに何か書き込んだ。
 その手元は伺えなかった。

「分かりますよ。一目瞭然です。それで?今日はどんなご相談で?」

――実は。家族にあまり相手にして貰えなくて。

「あらまぁ、どうして?」

 彼女はただ淡々と問いかえしてきた。
 愛想笑いも、過剰な同情もしないその様子に好感を持った。だから安心して、胸の内を語る。

――さあ…私にはまったく心当たりが無いんです。
 昔はもっと皆優しくしてくれたんですよ?よくお喋りだってしたし。一緒に遊んだり、一緒に寝たりもしました。

――それなのに最近は食事の時間も別々で。話しかけてもあっちに行ってろだの、あとでにしてだの。つれないったら。
 昨日も怒られたばかりで。アレですかねぇ…雨降ってるのに外に飛び出して、泥だらけで帰ってきたのがまずかったですかねぇ。

「そんなことを?」

 僕の話を聞きながら、彼女はさらさらと何か書き加えていく。手元は見ずに、僕の顔を見つめている。
 随分手馴れているようだ。

――はい。でも、仕方なかったんです。カサも無かったし。ちょちょっと濡れないように走って帰ってきた、つもりだったんですけどねぇ。
 でもお詫びのつもりで出したお土産を、そのままゴミ箱に捨てることはないと思いません?私だって、せっかく喜んでもらおうと思ったのに。

――嫌われてるんですかねぇ。

 自信なく呟くと、彼女ははじめて彼女の意見を言った。

「それは無いと思いますよ。大丈夫」

 断言に近かった。
 もしかして、僕のような事例は少なくないのかもしれない。

――え?本当ですか?

 きっと皆、家族関係で悩んでいるのだろう。そう思っただけで、少し気が軽くなった。
 僕だけじゃないのだと。
 思わず、耳の裏をカリカリと擦る。


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