忍者ブログ
むせ返るような芳香、甘い蜜。蝶のような優雅さで。 そのカラダに鋭い棘を隠して。
はじめに

ようこそ、偽アカシアへ。
こちらは私、朝斗の今までの作品展示室となっております。

過去作品から随時追加予定です。
同じものを掲載していますが、若干の推敲をしている場合もあります。
詳しくは『はじめに』をご一読ください。
2008.5.6 Asato.S
[76]  [56]  [55]  [54]  [53]  [52]  [51]  [50]  [49]  [48]  [47
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

 エレベーターの扉が開いた。
 
 そこは食料品売り場だった。
 けれど私は降りはしない。包丁もロクに扱えない自分にとって、そこは無意味な場所だからだ。

 ただ黙って、扉が閉まるのを待つ。
 エレベーターは、静かに上昇していく。
 
 チィン。
 
 エレベーターの扉が開いた。
 今度は玩具売り場だった。
 けれど私は降りはしない。あれらではしゃぐことの出来た日々とは、とうの昔に別れを告げた。
 目を輝かせ子供達が降りて行った。
 私は羨望の目差しを投げ、扉が閉まるのを待った。
 
 チィン。
 エレベーターの扉が開いた。
 そこはパーティーホール。
 娯楽も友も無い私は、虚ろな瞳のまま扉が閉まるのを待った。
 
 チィン。
 扉が開いた。
 太陽の眩しい、真夏の砂浜だった。
 若者達が肩を組んで繰り出して行った。
 
 チィン。
 扉が開いた。
 桜の花が咲き染まる、暖かな春の日差しだった。
 
 扉が開いた。
 しとしとと大地を育む、優しい雨だった。
 
 扉が開いた。
 目を焼くほどに美しい、妖艶な夕焼けだった。
 
 エレベーターの扉が、

 チィン。

 エレベーターが、

 幾人もが乗り込み、幾人もが降りて行く。


「あなたはどうですか?」
 ふいに一人が声を掛けてきた。
「いえ、私は」
 
 私はどこでも降りなかった。
 ただ忘れないように、自らの呼吸の数だけを数え続けた。
 
 扉は開き、閉じる。
 閉じては開いた。
 私はボタンを押していない。
 彷徨うだけ。流されるままに上下を繰り返し、開いた先の世界を、灰色の瞳で眺めるだけ。
 長い長い時間を、立ち尽くすことで消費した。
 
 チィン。
 相変わらず、小さな箱は昇降を続ける。
 
 エレベーターの扉が開いた。
 もう顔すらも上げなかった。
 
 エレベーターの扉が開いた。
 涙さえも流れなかった。
 


 私の居場所はどこにも無い。
 

and,over again.
 + + + 

〔後書〕


元々はエレベーターを題材とした三部作の、第一作。

不安と孤独。
作り出した孤独。

その一歩を踏み出せば、独りではないと気付けたかもしれないのに。

でも人間は、後悔の得意な生き物ですから。

拍手[0回]

PR
この記事にコメントする
name
title
color
mail
URL
comment
password   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
この記事へのトラックバック
Welcome
冬に包まれる季節。
詳しくはFirstを参照ください。
つぶやき
ブログ内検索

プロフィール
HN:
朝斗 〔あさと〕
性別:
非公開
趣味:
読書、創作、カラオケ、現実逃避
のうない
最古記事
はじめてのかたは此方から。
最新コメント
メモマークは『お返事有り』を表します。
[05/09 彗花]
[05/07 天風 涼]
[05/06 朝斗]
[05/06 朝斗]
[05/06 朝斗]
バーコード
もくそく
Powered by Ninja Blog Photo by COQU118 Template by CHELLCY / 忍者ブログ / [PR]