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むせ返るような芳香、甘い蜜。蝶のような優雅さで。 そのカラダに鋭い棘を隠して。
はじめに

ようこそ、偽アカシアへ。
こちらは私、朝斗の今までの作品展示室となっております。

過去作品から随時追加予定です。
同じものを掲載していますが、若干の推敲をしている場合もあります。
詳しくは『はじめに』をご一読ください。
2008.5.6 Asato.S
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 それから何日かして、セシルは町を離れていきました。

 この港町での絵を書き終えて、またどこか次の町に行くようです。

 私はあの絵描きがやってくる前の毎日に戻りました。
 今は毎朝セシルの乗る舟が行った海の向こうを眺めるのが、私の習慣。

 ある日、私がふと部屋の隅に目をやると、ベッドの陰に何か光るものが落ちていました。
 なんだろうと近づいてみて、私は目を疑いました。


 それは、青い液体の入った小瓶でした。
 拾い上げて、何度もしたように瓶を傾けてみると、青い色がゆっくりとろりと動きます。


 最初の絵の具は、山で失くしてから見つかっていません。

 そして、二本目の瓶をセシルからもらった記憶はありません。

 

 あの夜以外には。

 

 私にはもう、それを確かめる手段はありません。
 夜の散歩に連れて行ってくれた友達は、もうどこか遠くに行ってしまったのですから。

 でも、それでいいのかもしれないと、心の底で思いました。

 私の手の中には、ちゃんと絵の具の瓶がある。
 それだけで充分なのです。

 待っていよう。
 いつかまたこの町に、あの不思議な旅人がやってくるのを。

 

 それまで私は、あの満月の夜の出来事を忘れない。

Fin.
 * * *

本家では公開していない作品第一弾です。

私の創作小説の原点とも言える作品。
某大学内の文学賞で入賞をしたようなしないような物語に大幅な加筆修正を加えたものです。

いわゆるディレクターズカット版のような?

『童話』として創作したものなので、ですます調でお送りしています。

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