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むせ返るような芳香、甘い蜜。蝶のような優雅さで。 そのカラダに鋭い棘を隠して。
はじめに

ようこそ、偽アカシアへ。
こちらは私、朝斗の今までの作品展示室となっております。

過去作品から随時追加予定です。
同じものを掲載していますが、若干の推敲をしている場合もあります。
詳しくは『はじめに』をご一読ください。
2008.5.6 Asato.S
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 私は目を開けました。

 窓から入ってくる日差しが眩しくて、ふと気づくと、私は自分のベッドの上で寝ていました。
 さっきまで入り江にいたはずなのに。

「あれ……?」

 外を見ると、太陽はもう随分高く昇っていました。
 私は慌てて階段を駆け下りました。
 玄関を出る時に、朝の支度をするお母さんとすれ違いました。

「アリシア? どうしたの、ご飯は……」

「ちょっと出掛けてくる!」

 私はまず、すぐそばの宿屋に行きました。
 しかし、会いたい『彼』はいませんでした。
 走って走って、次の場所へ向かいます。

 すると、やはり友達はあの原っぱで絵を描いていました。

「セシル!」

「おはよう、アリシア。そんなに急いでどうしたんだい?」

 彼の目印のような笑顔を浮かべて、振り返ります。
 息の上がった私を見て、セシルは面白そうに笑いました。

「だって、きのう、昨日のこと」

「ああ、絵の具のことかな? 確かに失くしてしまったのは残念だけど、もう一本持っているから、気にしなくていいよ」

 私は急に不安になりました。
 なぜだか、セシルと会話がかみ合っていない気がするからです。
 どきどきと、心臓の音が不安に響きます。

「違うの。そうじゃなくて、ゆうべのことよ」

 おそるおそる、私はセシルの顔を覗きます。
 すると彼は少し怪訝そうに眉を寄せるだけ。まるでいたずらする小さな子をたしなめるように、苦い笑いを浮かべます。

「ゆうべ? まさかひとりでここに来たんじゃないだろうね。だめだよ、いくら良く知った場所でも、夜の山は危ないんだから」

 なんだかよく分からなくなってきたわ。

 どきどきと揺れた心が、音を立ててしぼんでいきます。
 そしてそれと一緒に、自分がどうしてこんなに必死になっているのか、不思議な心地が膨らんでいきます。

 あれは夢だったのかしら?
 そうなのかもしれない。だって、目が覚めたらちゃんと自分の部屋にいたんだから。


 結局その時は、あのすべてが夢だったのだろうと思い直すしかありませんでした。

 セシルは覚えてないようだし、大体、本当に竜や人魚がいるなんて聞いたこともないのですから。

 

 やっぱり…全部夢物語だったんだ。
 全ては幻想。夜の中に浮かんだファンタジア。

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