むせ返るような芳香、甘い蜜。蝶のような優雅さで。 そのカラダに鋭い棘を隠して。
はじめに
ようこそ、偽アカシアへ。
こちらは私、朝斗の今までの作品展示室となっております。
過去作品から随時追加予定です。
同じものを掲載していますが、若干の推敲をしている場合もあります。
詳しくは『はじめに』をご一読ください。
2008.5.6 Asato.S
エレベーターの扉が開いた。
同時に声が少女を迎える。
「お帰りなさいませ」
聞きなれた執事の声。アンジェリアは緋毛氈の廊下を歩き、執務室へ入った。そのまま中央に据え置かれた机へ向かう。
紺碧のドレスに映えた、金の髪、蒼の瞳。陶磁器のような透き通った肌が美しい、女性と呼ぶには早すぎるその少女。
「紅茶を」
革張りのチェアに座ると、すぐにティーセットが用意された。執事は彼女に長年仕える初老の男で、手際良く茶器を並べる。
「本日はいかがでしたか」
「駄目よ。話にならないわ」
穏やかな執事の声。
アンジェリアは苦虫を噛んだような顔で、苛々と語った。
「誰も皆、自分の欲ばかり。いっそ清々しいくらいよ。特にあの男、アディントン家の嫡子様」
闇社会で顔が訊くと噂される男の顔を思い出して眉をひそめる。
「まだうら若きハーヴェイ子女には荷が重過ぎましょう、ですって。私の代わりに経営を取り仕切ってくれるそうよ。手際の良いことに出所の知れぬ書類まで揃えて」
「それは困りますね。早急に手を考えなければ」
興奮さめやらぬ様子に苦笑を浮かべる執事。主人が息をついたその絶妙のタイミングでミルクティーを差し出す。途端にアンジェリアの表情が緩む。
「良い香りね。今日はウヴァ?」
見上げてくる蒼の瞳に、こくりと頷く。
「アンジェリア様の御心身が共に心配です。あまり無理はなさいませんよう」
「ありがとうユリエル。でも私は大丈夫よ」
名を呼ばれ、執事は主人の顔を見つめた。
「家も土地も会社も。お爺様の残してくださった財産(モノ)だもの。何があっても守り抜いてみせるわ」
それは若干17歳の少女とは思えない凛々しい顔つきだった。泣き虫だった幼子の面影はなく、まさにハーヴェイ家当主としての表情をしていた。
ユリエルにはそれが誇らしくもあり、淋しくもあった。
彼は微笑んで、白髪の混じり始めた頭を丁寧に下げた。それから一通の封筒を取り出した。
「ところでお嬢様。本日は晩餐会への招待状を受け取っております」
「へぇ、どちらから?」
「アディントン卿のご招待です」
ティーカップを口許に運ぶその指が一瞬止まった。感慨深そうに目を細める。
「…そう…あの男が」
「いかがいたしますか」
「いいわ。伺いましょう」
曇り空から目を放し、振り返る。ためらいも無く頷いて。
「これだけお世話になったんですもの。相応のお礼はさせていただかなければね」
そう言って、妖艶さを秘めて嗤う。
執事は軽く微笑み、改めて頭を下げた。
「Yes,my lady」
つまり、
はい。ご主人様、と。
同時に声が少女を迎える。
「お帰りなさいませ」
聞きなれた執事の声。アンジェリアは緋毛氈の廊下を歩き、執務室へ入った。そのまま中央に据え置かれた机へ向かう。
紺碧のドレスに映えた、金の髪、蒼の瞳。陶磁器のような透き通った肌が美しい、女性と呼ぶには早すぎるその少女。
「紅茶を」
革張りのチェアに座ると、すぐにティーセットが用意された。執事は彼女に長年仕える初老の男で、手際良く茶器を並べる。
「本日はいかがでしたか」
「駄目よ。話にならないわ」
穏やかな執事の声。
アンジェリアは苦虫を噛んだような顔で、苛々と語った。
「誰も皆、自分の欲ばかり。いっそ清々しいくらいよ。特にあの男、アディントン家の嫡子様」
闇社会で顔が訊くと噂される男の顔を思い出して眉をひそめる。
「まだうら若きハーヴェイ子女には荷が重過ぎましょう、ですって。私の代わりに経営を取り仕切ってくれるそうよ。手際の良いことに出所の知れぬ書類まで揃えて」
「それは困りますね。早急に手を考えなければ」
興奮さめやらぬ様子に苦笑を浮かべる執事。主人が息をついたその絶妙のタイミングでミルクティーを差し出す。途端にアンジェリアの表情が緩む。
「良い香りね。今日はウヴァ?」
見上げてくる蒼の瞳に、こくりと頷く。
「アンジェリア様の御心身が共に心配です。あまり無理はなさいませんよう」
「ありがとうユリエル。でも私は大丈夫よ」
名を呼ばれ、執事は主人の顔を見つめた。
「家も土地も会社も。お爺様の残してくださった財産(モノ)だもの。何があっても守り抜いてみせるわ」
それは若干17歳の少女とは思えない凛々しい顔つきだった。泣き虫だった幼子の面影はなく、まさにハーヴェイ家当主としての表情をしていた。
ユリエルにはそれが誇らしくもあり、淋しくもあった。
彼は微笑んで、白髪の混じり始めた頭を丁寧に下げた。それから一通の封筒を取り出した。
「ところでお嬢様。本日は晩餐会への招待状を受け取っております」
「へぇ、どちらから?」
「アディントン卿のご招待です」
ティーカップを口許に運ぶその指が一瞬止まった。感慨深そうに目を細める。
「…そう…あの男が」
「いかがいたしますか」
「いいわ。伺いましょう」
曇り空から目を放し、振り返る。ためらいも無く頷いて。
「これだけお世話になったんですもの。相応のお礼はさせていただかなければね」
そう言って、妖艶さを秘めて嗤う。
執事は軽く微笑み、改めて頭を下げた。
「Yes,my lady」
つまり、
はい。ご主人様、と。
End.
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