むせ返るような芳香、甘い蜜。蝶のような優雅さで。 そのカラダに鋭い棘を隠して。
はじめに
ようこそ、偽アカシアへ。
こちらは私、朝斗の今までの作品展示室となっております。
過去作品から随時追加予定です。
同じものを掲載していますが、若干の推敲をしている場合もあります。
詳しくは『はじめに』をご一読ください。
2008.5.6 Asato.S
くらり。
霧の夜が歪みました。
「見ておいで、八重」
声につられて、私は姫様の…立華の見る先に目を遣りました。
そこには変わらず白い闇。しかし、その向こうがまたくらりと震えました。
そして次の瞬間。霧の向こうから、男がつまずくようにして転び出て来ました。
「なんだ、ここは」
外套をまとい、それなりに身綺麗にした男。父様より少し若いくらいの精悍な顔立ち。手にはしっかりと落とさぬように、紫の風呂敷包みを抱えていました。
彼は酷く怯えていました。
季節外れの蜜柑の花、白い曼珠沙華。男が不審に思うのも無理はないと思いました。
「おい、お嬢ちゃん。ひとりで何をしているんだ」
ひとりで?
私は思わず立華を振り返りました。しかし彼女は微笑んで口許に人指をあてるだけ。
戸惑っていると、男は一人で話を続けました。
「ここに居ちゃいけない。ここは何だか嫌な場所だ。俺と一緒に帰ろう」
何かに焦っているような。しかし、それが何かは分かっていない様子でした。おそらく彼の本能が知らせているのでしょう。
あるいは、もっと他の、何かに怯えざるを得ない理由が。
「さぁ早く。早く帰らないと」
「帰るって、どこにだい」
唐突に言ったのは立華でした。
私も、対峙している男も、驚いて彼女を見つめました。
しかし私よりも驚いているのは若い男。彼は目を見開きました。
「あんた…どこから…」
今まで居なかったはずだ、そう呟いて彼女を睨むように見つめました。額にはうっすら、冷たい汗を滲ませています。
「お前には帰る場所があるのかい」
先刻私に向けられたそれとは違う、嘲るような問い詰めるような声音。男はびくりと身を縮めました。
なにを。声にならない声を口の中で呟きます。ああ、その汗はどうやら、怯えている所為だけではないようです。
「逃げてきたんだろう? 随分と必死にね。お前は自分の欲のためだけに人の人生を食い潰したんだろう」
「違う!!」
立華の声を、悲痛な叫びが遮ります。
今にも泣き伏せってしまいそうな、男の様子。
拒絶でした。彼が拒もうと必死なのは、目の前の女性か、それとも、私には知り得ない真実か。
尚も漆黒の姫は嗤います。
「その中には、何が入っているんだろうねぇ」
霧の夜が歪みました。
「見ておいで、八重」
声につられて、私は姫様の…立華の見る先に目を遣りました。
そこには変わらず白い闇。しかし、その向こうがまたくらりと震えました。
そして次の瞬間。霧の向こうから、男がつまずくようにして転び出て来ました。
「なんだ、ここは」
外套をまとい、それなりに身綺麗にした男。父様より少し若いくらいの精悍な顔立ち。手にはしっかりと落とさぬように、紫の風呂敷包みを抱えていました。
彼は酷く怯えていました。
季節外れの蜜柑の花、白い曼珠沙華。男が不審に思うのも無理はないと思いました。
「おい、お嬢ちゃん。ひとりで何をしているんだ」
ひとりで?
私は思わず立華を振り返りました。しかし彼女は微笑んで口許に人指をあてるだけ。
戸惑っていると、男は一人で話を続けました。
「ここに居ちゃいけない。ここは何だか嫌な場所だ。俺と一緒に帰ろう」
何かに焦っているような。しかし、それが何かは分かっていない様子でした。おそらく彼の本能が知らせているのでしょう。
あるいは、もっと他の、何かに怯えざるを得ない理由が。
「さぁ早く。早く帰らないと」
「帰るって、どこにだい」
唐突に言ったのは立華でした。
私も、対峙している男も、驚いて彼女を見つめました。
しかし私よりも驚いているのは若い男。彼は目を見開きました。
「あんた…どこから…」
今まで居なかったはずだ、そう呟いて彼女を睨むように見つめました。額にはうっすら、冷たい汗を滲ませています。
「お前には帰る場所があるのかい」
先刻私に向けられたそれとは違う、嘲るような問い詰めるような声音。男はびくりと身を縮めました。
なにを。声にならない声を口の中で呟きます。ああ、その汗はどうやら、怯えている所為だけではないようです。
「逃げてきたんだろう? 随分と必死にね。お前は自分の欲のためだけに人の人生を食い潰したんだろう」
「違う!!」
立華の声を、悲痛な叫びが遮ります。
今にも泣き伏せってしまいそうな、男の様子。
拒絶でした。彼が拒もうと必死なのは、目の前の女性か、それとも、私には知り得ない真実か。
尚も漆黒の姫は嗤います。
「その中には、何が入っているんだろうねぇ」
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詳しくはFirstを参照ください。
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