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むせ返るような芳香、甘い蜜。蝶のような優雅さで。 そのカラダに鋭い棘を隠して。
はじめに

ようこそ、偽アカシアへ。
こちらは私、朝斗の今までの作品展示室となっております。

過去作品から随時追加予定です。
同じものを掲載していますが、若干の推敲をしている場合もあります。
詳しくは『はじめに』をご一読ください。
2008.5.6 Asato.S
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 そして男は、ぷつりと事切れました。

 足元から崩れるようにして真白の曼珠沙華の上に倒れ、そのまま動かなくなりました。
 刹那、どこかで、硝子の割れるような音がしました。
 
 私は息を呑みました。
 今まで聞こえていた男の息遣いがしない。近付いて確認することは出来ないけれど、彼が『死』を迎えたことは痛いほどに理解しました。
 
 
 ゆらり。何度目かの白い夜の揺らぎ。
 するとそれに共鳴するように男の身体が揺れました。
 
 ゆらり、くらり。
 静かに静かに、輪郭が薄れて消えてゆきます。
 星が瞬く様に揺れ、夜露の様に輝きながら。
 少しずつ霧の中に溶け出して。
 
 
 幾許かの後に、男の身体はすっかり見えなくなりました。
 
 何が起こったのか、よく分かりません。
 しかしそれは…

 やがて、立華が嘆息を漏らしました。
 
 
「魂が放(はな)れるさまはいつ見ても美しいねぇ」
 
 
 うっとりと見惚れるように、今まで男の体躯が横たわっていた草原の上を眺めていました。
 一方の私は、やっと声を絞り出せただけ。
 
「あたしは…怖い」
 
「綺麗なものというのは、得てして畏ろしいものさ」

 
 そう。怖いのです。綺麗で恐ろしい。
 
 人の最期なのに。
 美しく思っている自分が怖い。
 
 掻き消えた男の魂も、妖しく嗤う立華も、震えながら羨望に似た眼差しで見つめるだけ。
 
 しかし心は、氷の塊のように澄んでいました。

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