むせ返るような芳香、甘い蜜。蝶のような優雅さで。 そのカラダに鋭い棘を隠して。
はじめに
ようこそ、偽アカシアへ。
こちらは私、朝斗の今までの作品展示室となっております。
過去作品から随時追加予定です。
同じものを掲載していますが、若干の推敲をしている場合もあります。
詳しくは『はじめに』をご一読ください。
2008.5.6 Asato.S
門をくぐった途端、視界が変わった。
それまではただ雲があるだけの場所だったのに、突然街が広がった。
真っ白な街だった。壁も屋根も石畳も白。雲の色だ、と直感した。まるで城下町のように賑やかな街並みを突っ切って、その向こうにそびえる宮殿らしき建物を目指した。破片を傷つけないように気をくばりながら。
街には他にも人の姿があった。誰もが人間と同じ姿、違うのは髪と瞳の色がカラフルなくらいだった。橙、濃紺、薄紅、浅葱。白い世界で、彼らの色だけが一層鮮やかだった。
「ここにいるひと達がすべて、空を任された者?」
「そうよ。ここは日本地域担当の城塞。この場所以外にも世界中に司者がいるわ。そして、中央の宮殿では今春の空を創っている」
視界が開けた。宮殿の前は広場になっていた。がらんとした空間の向こうに、銀にも近い白色の扉。
カナリアは入り口の前に立つ人物と一言二言交わし、私の所に戻ってきた。
「今から、あなたを『空』へ連れて行くわ。いい?」
「そして、私が破片を元に戻すんだね」
私は神妙に頷く。
戸の前に揃って立つと、ひとりでに扉が開かれた。まるで太陽を直接見たような眩しさが視界を塗り潰す。
反転。
白から白へ。視界が視界を取り戻す。
「う…わぁ」
そこはまさに『宮殿』だった。一帯白銀の宮殿。真っ直ぐに伸びる回廊。両端には背の高い柱が陳列している。あわせて天井も遠い。
私はカナリアに導かれて長い廊下を進む。カツン、カツンと、大理石の上でも歩いているかのように足音が響く。黙るように指示された覚えはないけれど、私は口を閉ざしていた。二人の足音だけが木霊する。
体感にして十数分ほど歩いただろうか。目の前にまた観音開きの扉が現れた。
カナリアが手をかけると、ゆっくりと両側に戸が開いた。
部屋の中央に誰かが立っていた。蓬色の髪をした女性だった。
「カナリア!」
誰だろう、と考える間もなく、彼女はカナリアに抱きついた。床につくほまでに長い髪が揺れる。
「おかえりなさい!」
「プリマヴェーラ。只今帰りました」
太陽のような笑顔がカナリアを迎え入れる。カナリアもまた気品ある笑顔を返した。それは目上の存在に向ける笑みだった。
私は辺りを見渡す。そこは円形の部屋で、壁に等感覚でいくつも扉があった。宮殿の中核だろうか。
「いかがですか? 空の様子は」
「破片紛失以外は問題ないわ。今年も無事に夏に引き継げそうよ」
「プリマヴェーラ」
プリマヴェーラがカナリアを解放したところで、扉がひとつ開き、若葉色の髪の男性が呼ぶ。
「分かっているわ。そろそろ梅雨の出番ね。今指示を出すから」
プリマヴェーラの目が一瞬私を捉えた。思わず姿勢を正す。
「貴女が、破片を拾ってくれたのね」
「あ、はい」
「ありがとう。季節の責任者として、御礼申し上げます」
「そんな、私は何も…」
太陽の笑みに、なんとなく照れる。すると女性は首をふるふると横に動かした。
「いいえ。イヴェールの探索も任せてしまってごめんなさいね。本当は私も探し回らなければいけないのに、今はどうしても立て込んでいてね」
「プリマヴェーラ!!」
その時、先刻のドアが開いて同じ男性が顔を覗かせた。顔つきがさっきより険悪だった。
「はいはい、今行くわ」
そう返して、悪びれもせずに頷く。
「では、お気をつけてね」
彼女は私に笑顔を向けると、部屋の奥へふわふわと歩いて行ってしまった。
「今の人が、もしかして」
「そうよ。『春』…プリマヴェーラ。春を指揮する存在」
女性の温かさと優しさ溢れる様子を見て、ピンと来た。
そして私達は、彼女の後ろ姿を見送ってから、別の扉をくぐった。
通されたのは、開放感溢れる部屋だった。
天井がない。頭の上には青空が広がっているだけ。
「ここで待ってて。今空への道を開くから」
流れる雲を目で追っていると、カナリアは私を置いてどこかへ行ってしまった。
仕方なく空に視線を預けた。風にあおられた雲は、少しずつ形を変える。見ていて飽きることはない。
…こんな空の上でも、雲は流れるんだ。
私はふと手を伸ばした。勿論、手が届くはずはないのだけれど。
“結衣”
そんな風にぼうっと眺めていると、どこからか声が聞こえた気がした。
「え?」
とっさに視線を部屋の中に戻す。
しかしカナリアが帰ってきたわけでも、誰かがいるわけでもなかった。
それまではただ雲があるだけの場所だったのに、突然街が広がった。
真っ白な街だった。壁も屋根も石畳も白。雲の色だ、と直感した。まるで城下町のように賑やかな街並みを突っ切って、その向こうにそびえる宮殿らしき建物を目指した。破片を傷つけないように気をくばりながら。
街には他にも人の姿があった。誰もが人間と同じ姿、違うのは髪と瞳の色がカラフルなくらいだった。橙、濃紺、薄紅、浅葱。白い世界で、彼らの色だけが一層鮮やかだった。
「ここにいるひと達がすべて、空を任された者?」
「そうよ。ここは日本地域担当の城塞。この場所以外にも世界中に司者がいるわ。そして、中央の宮殿では今春の空を創っている」
視界が開けた。宮殿の前は広場になっていた。がらんとした空間の向こうに、銀にも近い白色の扉。
カナリアは入り口の前に立つ人物と一言二言交わし、私の所に戻ってきた。
「今から、あなたを『空』へ連れて行くわ。いい?」
「そして、私が破片を元に戻すんだね」
私は神妙に頷く。
戸の前に揃って立つと、ひとりでに扉が開かれた。まるで太陽を直接見たような眩しさが視界を塗り潰す。
反転。
白から白へ。視界が視界を取り戻す。
「う…わぁ」
そこはまさに『宮殿』だった。一帯白銀の宮殿。真っ直ぐに伸びる回廊。両端には背の高い柱が陳列している。あわせて天井も遠い。
私はカナリアに導かれて長い廊下を進む。カツン、カツンと、大理石の上でも歩いているかのように足音が響く。黙るように指示された覚えはないけれど、私は口を閉ざしていた。二人の足音だけが木霊する。
体感にして十数分ほど歩いただろうか。目の前にまた観音開きの扉が現れた。
カナリアが手をかけると、ゆっくりと両側に戸が開いた。
部屋の中央に誰かが立っていた。蓬色の髪をした女性だった。
「カナリア!」
誰だろう、と考える間もなく、彼女はカナリアに抱きついた。床につくほまでに長い髪が揺れる。
「おかえりなさい!」
「プリマヴェーラ。只今帰りました」
太陽のような笑顔がカナリアを迎え入れる。カナリアもまた気品ある笑顔を返した。それは目上の存在に向ける笑みだった。
私は辺りを見渡す。そこは円形の部屋で、壁に等感覚でいくつも扉があった。宮殿の中核だろうか。
「いかがですか? 空の様子は」
「破片紛失以外は問題ないわ。今年も無事に夏に引き継げそうよ」
「プリマヴェーラ」
プリマヴェーラがカナリアを解放したところで、扉がひとつ開き、若葉色の髪の男性が呼ぶ。
「分かっているわ。そろそろ梅雨の出番ね。今指示を出すから」
プリマヴェーラの目が一瞬私を捉えた。思わず姿勢を正す。
「貴女が、破片を拾ってくれたのね」
「あ、はい」
「ありがとう。季節の責任者として、御礼申し上げます」
「そんな、私は何も…」
太陽の笑みに、なんとなく照れる。すると女性は首をふるふると横に動かした。
「いいえ。イヴェールの探索も任せてしまってごめんなさいね。本当は私も探し回らなければいけないのに、今はどうしても立て込んでいてね」
「プリマヴェーラ!!」
その時、先刻のドアが開いて同じ男性が顔を覗かせた。顔つきがさっきより険悪だった。
「はいはい、今行くわ」
そう返して、悪びれもせずに頷く。
「では、お気をつけてね」
彼女は私に笑顔を向けると、部屋の奥へふわふわと歩いて行ってしまった。
「今の人が、もしかして」
「そうよ。『春』…プリマヴェーラ。春を指揮する存在」
女性の温かさと優しさ溢れる様子を見て、ピンと来た。
そして私達は、彼女の後ろ姿を見送ってから、別の扉をくぐった。
通されたのは、開放感溢れる部屋だった。
天井がない。頭の上には青空が広がっているだけ。
「ここで待ってて。今空への道を開くから」
流れる雲を目で追っていると、カナリアは私を置いてどこかへ行ってしまった。
仕方なく空に視線を預けた。風にあおられた雲は、少しずつ形を変える。見ていて飽きることはない。
…こんな空の上でも、雲は流れるんだ。
私はふと手を伸ばした。勿論、手が届くはずはないのだけれど。
“結衣”
そんな風にぼうっと眺めていると、どこからか声が聞こえた気がした。
「え?」
とっさに視線を部屋の中に戻す。
しかしカナリアが帰ってきたわけでも、誰かがいるわけでもなかった。
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冬に包まれる季節。
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