忍者ブログ
むせ返るような芳香、甘い蜜。蝶のような優雅さで。 そのカラダに鋭い棘を隠して。
はじめに

ようこそ、偽アカシアへ。
こちらは私、朝斗の今までの作品展示室となっております。

過去作品から随時追加予定です。
同じものを掲載していますが、若干の推敲をしている場合もあります。
詳しくは『はじめに』をご一読ください。
2008.5.6 Asato.S
[73]  [72]  [71]  [70]  [69]  [68]  [67]  [66]  [78]  [65]  [64
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

 門をくぐった途端、視界が変わった。 
 それまではただ雲があるだけの場所だったのに、突然街が広がった。 

 真っ白な街だった。壁も屋根も石畳も白。雲の色だ、と直感した。まるで城下町のように賑やかな街並みを突っ切って、その向こうにそびえる宮殿らしき建物を目指した。破片を傷つけないように気をくばりながら。 
 街には他にも人の姿があった。誰もが人間と同じ姿、違うのは髪と瞳の色がカラフルなくらいだった。橙、濃紺、薄紅、浅葱。白い世界で、彼らの色だけが一層鮮やかだった。 

「ここにいるひと達がすべて、空を任された者?」 
「そうよ。ここは日本地域担当の城塞。この場所以外にも世界中に司者がいるわ。そして、中央の宮殿では今春の空を創っている」 

 視界が開けた。宮殿の前は広場になっていた。がらんとした空間の向こうに、銀にも近い白色の扉。 
 カナリアは入り口の前に立つ人物と一言二言交わし、私の所に戻ってきた。 
「今から、あなたを『空』へ連れて行くわ。いい?」 
「そして、私が破片を元に戻すんだね」 
 私は神妙に頷く。 
 戸の前に揃って立つと、ひとりでに扉が開かれた。まるで太陽を直接見たような眩しさが視界を塗り潰す。 

 反転。 
 白から白へ。視界が視界を取り戻す。 
「う…わぁ」 
 そこはまさに『宮殿』だった。一帯白銀の宮殿。真っ直ぐに伸びる回廊。両端には背の高い柱が陳列している。あわせて天井も遠い。 
 私はカナリアに導かれて長い廊下を進む。カツン、カツンと、大理石の上でも歩いているかのように足音が響く。黙るように指示された覚えはないけれど、私は口を閉ざしていた。二人の足音だけが木霊する。 

 体感にして十数分ほど歩いただろうか。目の前にまた観音開きの扉が現れた。 
 カナリアが手をかけると、ゆっくりと両側に戸が開いた。 

 部屋の中央に誰かが立っていた。蓬色の髪をした女性だった。 
「カナリア!」 
 誰だろう、と考える間もなく、彼女はカナリアに抱きついた。床につくほまでに長い髪が揺れる。 
「おかえりなさい!」 
「プリマヴェーラ。只今帰りました」 
 太陽のような笑顔がカナリアを迎え入れる。カナリアもまた気品ある笑顔を返した。それは目上の存在に向ける笑みだった。 
 私は辺りを見渡す。そこは円形の部屋で、壁に等感覚でいくつも扉があった。宮殿の中核だろうか。 
「いかがですか? 空の様子は」 
「破片紛失以外は問題ないわ。今年も無事に夏に引き継げそうよ」 
「プリマヴェーラ」 
 プリマヴェーラがカナリアを解放したところで、扉がひとつ開き、若葉色の髪の男性が呼ぶ。 
「分かっているわ。そろそろ梅雨の出番ね。今指示を出すから」 
 プリマヴェーラの目が一瞬私を捉えた。思わず姿勢を正す。 
「貴女が、破片を拾ってくれたのね」 
「あ、はい」 
「ありがとう。季節の責任者として、御礼申し上げます」 
「そんな、私は何も…」 
 太陽の笑みに、なんとなく照れる。すると女性は首をふるふると横に動かした。 
「いいえ。イヴェールの探索も任せてしまってごめんなさいね。本当は私も探し回らなければいけないのに、今はどうしても立て込んでいてね」 
「プリマヴェーラ!!」 
 その時、先刻のドアが開いて同じ男性が顔を覗かせた。顔つきがさっきより険悪だった。 
「はいはい、今行くわ」 
 そう返して、悪びれもせずに頷く。 
「では、お気をつけてね」 
 彼女は私に笑顔を向けると、部屋の奥へふわふわと歩いて行ってしまった。 
「今の人が、もしかして」 
「そうよ。『春』…プリマヴェーラ。春を指揮する存在」 
 女性の温かさと優しさ溢れる様子を見て、ピンと来た。 
 そして私達は、彼女の後ろ姿を見送ってから、別の扉をくぐった。 


 通されたのは、開放感溢れる部屋だった。 
 天井がない。頭の上には青空が広がっているだけ。 
「ここで待ってて。今空への道を開くから」 
 流れる雲を目で追っていると、カナリアは私を置いてどこかへ行ってしまった。 
 仕方なく空に視線を預けた。風にあおられた雲は、少しずつ形を変える。見ていて飽きることはない。 

 …こんな空の上でも、雲は流れるんだ。 
 私はふと手を伸ばした。勿論、手が届くはずはないのだけれど。 

“結衣” 

 そんな風にぼうっと眺めていると、どこからか声が聞こえた気がした。 
「え?」 
 とっさに視線を部屋の中に戻す。 
 しかしカナリアが帰ってきたわけでも、誰かがいるわけでもなかった。 

拍手[0回]

PR
この記事にコメントする
name
title
color
mail
URL
comment
password   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
この記事へのトラックバック
Welcome
冬に包まれる季節。
詳しくはFirstを参照ください。
つぶやき
ブログ内検索

プロフィール
HN:
朝斗 〔あさと〕
性別:
非公開
趣味:
読書、創作、カラオケ、現実逃避
のうない
最古記事
はじめてのかたは此方から。
最新コメント
メモマークは『お返事有り』を表します。
[05/09 彗花]
[05/07 天風 涼]
[05/06 朝斗]
[05/06 朝斗]
[05/06 朝斗]
バーコード
もくそく
Powered by Ninja Blog Photo by COQU118 Template by CHELLCY / 忍者ブログ / [PR]