ようこそ、偽アカシアへ。
こちらは私、朝斗の今までの作品展示室となっております。
過去作品から随時追加予定です。
同じものを掲載していますが、若干の推敲をしている場合もあります。
詳しくは『はじめに』をご一読ください。
私は目を開けました。
窓から入ってくる日差しが眩しくて、ふと気づくと、私は自分のベッドの上で寝ていました。
さっきまで入り江にいたはずなのに。
「あれ……?」
外を見ると、太陽はもう随分高く昇っていました。
私は慌てて階段を駆け下りました。
玄関を出る時に、朝の支度をするお母さんとすれ違いました。
「アリシア? どうしたの、ご飯は……」
「ちょっと出掛けてくる!」
私はまず、すぐそばの宿屋に行きました。
しかし、会いたい『彼』はいませんでした。
走って走って、次の場所へ向かいます。
すると、やはり友達はあの原っぱで絵を描いていました。
「セシル!」
「おはよう、アリシア。そんなに急いでどうしたんだい?」
彼の目印のような笑顔を浮かべて、振り返ります。
息の上がった私を見て、セシルは面白そうに笑いました。
「だって、きのう、昨日のこと」
「ああ、絵の具のことかな? 確かに失くしてしまったのは残念だけど、もう一本持っているから、気にしなくていいよ」
私は急に不安になりました。
なぜだか、セシルと会話がかみ合っていない気がするからです。
どきどきと、心臓の音が不安に響きます。
「違うの。そうじゃなくて、ゆうべのことよ」
おそるおそる、私はセシルの顔を覗きます。
すると彼は少し怪訝そうに眉を寄せるだけ。まるでいたずらする小さな子をたしなめるように、苦い笑いを浮かべます。
「ゆうべ? まさかひとりでここに来たんじゃないだろうね。だめだよ、いくら良く知った場所でも、夜の山は危ないんだから」
なんだかよく分からなくなってきたわ。
どきどきと揺れた心が、音を立ててしぼんでいきます。
そしてそれと一緒に、自分がどうしてこんなに必死になっているのか、不思議な心地が膨らんでいきます。
あれは夢だったのかしら?
そうなのかもしれない。だって、目が覚めたらちゃんと自分の部屋にいたんだから。
結局その時は、あのすべてが夢だったのだろうと思い直すしかありませんでした。
セシルは覚えてないようだし、大体、本当に竜や人魚がいるなんて聞いたこともないのですから。
やっぱり…全部夢物語だったんだ。
全ては幻想。夜の中に浮かんだファンタジア。