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むせ返るような芳香、甘い蜜。蝶のような優雅さで。 そのカラダに鋭い棘を隠して。
はじめに

ようこそ、偽アカシアへ。
こちらは私、朝斗の今までの作品展示室となっております。

過去作品から随時追加予定です。
同じものを掲載していますが、若干の推敲をしている場合もあります。
詳しくは『はじめに』をご一読ください。
2008.5.6 Asato.S
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 この色は見た事がありました。
 私がなくした青の色。セシルの、あの青の絵の具と同じ色をしていました。

 最初に絵の具を見せてもらった時、まるで海や森の色をそのまま閉じ込めたみたいだと思ったことを思い出しました。
 あれは、どうやら私の思い込みではなかったようです。

 きっと青だけじゃない。
 他の緑や橙も、水色も。
 同じようにしてどこかの森や夕日や空の色なんかを瓶に入れたんだわ。

「さあ、これが海の青色。朝焼けに染まった海の青だよ」

 キラキラと輝く、とれたての海の色。
 私はその色に目を奪われながら、かろうじてセシルに声をかけました。

「よかった。これでまた絵が描けるね」

 するとセシルは、その瓶を私の手に預けました。

「これは君にあげよう。一生懸命がんばったごほうびだ」

 私は瓶を傾けてみました。
 やはり、ただの海水とは違ってゆっくりとろとろと動きました。

 あの絵の具と同じように。

「きれい…ありがとう、セシル」

 私が笑うと、セシルもいつも通りの温かい笑顔をくれました。

 それから私たちは、浜辺に座って、太陽が完全に顔を出すのを見ていました。
 ゆっくりと昇っていくまあるい光。
 けれどそれが空に昇りきる前に、私のからだがふわふわしはじめました。

 安心したらだんだん眠くなってきたわ。
 夜じゅう歩き回ったせいかしら。

 目を開けていられなくて、私は自分でも気がつかない間にうとうとし始めました。

 そのうちに、ふわりと体が浮かぶ感じがしました。
 まるで波の上にいるよう。そして波よりもやさしくて、あたたかい。

 波の音も遠くなる中、最後にセシルの声が聞こえました。

 

「アリシア。今日の事を決して忘れてはいけないよ」


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