むせ返るような芳香、甘い蜜。蝶のような優雅さで。 そのカラダに鋭い棘を隠して。
はじめに
ようこそ、偽アカシアへ。
こちらは私、朝斗の今までの作品展示室となっております。
過去作品から随時追加予定です。
同じものを掲載していますが、若干の推敲をしている場合もあります。
詳しくは『はじめに』をご一読ください。
2008.5.6 Asato.S
約束通り、薊堂の面々が夏端家を訪れたのは翌日の昼過ぎのことだった。
夏を呼ぶ強い日差しの下、家に住まう親族を揃えて彼らを迎えた。
夏端家は都会と山麓の混じり合う町の…いや、人間が自然を侵食し果てた境目に位置していた。薊堂のある都市からは電車で2時間はかかる場所だった。
「遅くなって申し訳ありません」
「いいえ、時間通りですよ。お待ちしていました」
七変化の青く染まる庭先で彼らは向かい合う。
丁寧に頭を下げる常葉の後ろには、純白のセーラー服に身を包んだ少女。黒い髪に黒い瞳。青年の影にすっぽりと収まるその姿はまるで蔵の奥で眠る人形のようだ。
「貴方が夏端さんね。今日はよろしく」
「こちらこそ、お手数をお掛けします」
少女は昨日と打って変わって元気が良かった。片手にラムネの瓶、もう片手に林檎飴を持っている所を見ると、どうやら駅前の露店を覗いて来たらしい。反対に青年、常葉のほうがげんなりしているのは気のせいだろうか。
少女――翠仙(スイセン)と言うらしい――は、林檎飴をくわえようとした手をぴたりと止めた。耳をそばだてるように、家の縁を取り囲む騒々と揺れる森に目を向ける。
「常葉」
短く呼ぶ声に常葉は居住まいを正した。心得たように振り向いて、言葉を待つ。
「なんかこのへん、気持ちわるい」
「妖(あやかし)の仕業かな」
「分かんないけど、似た臭いがする」
翠仙は眉をひそめると、空になったラムネ瓶を常葉に手渡した。カラリ、と涼やかな音が洩れる。
「ちょっと見てくる」
「気をつけるんだよ」
家の裏手につま先を向けながら、彼の言葉に一瞬だけ振り返る。
そして大分大儀そうに笑った。
「あたしを誰だと思ってんの。閻魔大王だって黙り込む翠仙様だよ?」
――『薊堂は狐憑き』。
跳ねる様に駆けて行く後姿を見送りながら、夏端は、もしや彼女がそうなのだろうかと予感した。
蒼天に高く、夏雲と蝉の声が木霊していた。
依頼主の人間を常葉に任せて、翠仙は歪んだ気配を辿り夏端家の裏手の山を登った。
山と言っても地図に名前が残るほどの大きなものではない。頂上まで行くのにもせいぜい半時。それにどうやら『気配』が残るのは中腹辺りで、それこそ数分もしないうちに辿り着くことができそうだった。
ひらひらと、スカートの裾が閃くのもお構いなしに駆けていく。常葉には『はしたない』とお小言を言われるだろうが、幸い彼は今側にいない。
大体、常葉は口煩過ぎるのだ。人間の形(なり)で何を言うのか。
そう、ぶつぶつと想い巡らせながら。
足元の崩れて斜面と同化した階段道は、石やコンクリートで補強されている様子もない。手入れが行き届いていないというのは本当なのだろう。これでは仕方無いと思いながら、翠仙は『そこ』に行き着いた。
夏を呼ぶ強い日差しの下、家に住まう親族を揃えて彼らを迎えた。
夏端家は都会と山麓の混じり合う町の…いや、人間が自然を侵食し果てた境目に位置していた。薊堂のある都市からは電車で2時間はかかる場所だった。
「遅くなって申し訳ありません」
「いいえ、時間通りですよ。お待ちしていました」
七変化の青く染まる庭先で彼らは向かい合う。
丁寧に頭を下げる常葉の後ろには、純白のセーラー服に身を包んだ少女。黒い髪に黒い瞳。青年の影にすっぽりと収まるその姿はまるで蔵の奥で眠る人形のようだ。
「貴方が夏端さんね。今日はよろしく」
「こちらこそ、お手数をお掛けします」
少女は昨日と打って変わって元気が良かった。片手にラムネの瓶、もう片手に林檎飴を持っている所を見ると、どうやら駅前の露店を覗いて来たらしい。反対に青年、常葉のほうがげんなりしているのは気のせいだろうか。
少女――翠仙(スイセン)と言うらしい――は、林檎飴をくわえようとした手をぴたりと止めた。耳をそばだてるように、家の縁を取り囲む騒々と揺れる森に目を向ける。
「常葉」
短く呼ぶ声に常葉は居住まいを正した。心得たように振り向いて、言葉を待つ。
「なんかこのへん、気持ちわるい」
「妖(あやかし)の仕業かな」
「分かんないけど、似た臭いがする」
翠仙は眉をひそめると、空になったラムネ瓶を常葉に手渡した。カラリ、と涼やかな音が洩れる。
「ちょっと見てくる」
「気をつけるんだよ」
家の裏手につま先を向けながら、彼の言葉に一瞬だけ振り返る。
そして大分大儀そうに笑った。
「あたしを誰だと思ってんの。閻魔大王だって黙り込む翠仙様だよ?」
――『薊堂は狐憑き』。
跳ねる様に駆けて行く後姿を見送りながら、夏端は、もしや彼女がそうなのだろうかと予感した。
蒼天に高く、夏雲と蝉の声が木霊していた。
依頼主の人間を常葉に任せて、翠仙は歪んだ気配を辿り夏端家の裏手の山を登った。
山と言っても地図に名前が残るほどの大きなものではない。頂上まで行くのにもせいぜい半時。それにどうやら『気配』が残るのは中腹辺りで、それこそ数分もしないうちに辿り着くことができそうだった。
ひらひらと、スカートの裾が閃くのもお構いなしに駆けていく。常葉には『はしたない』とお小言を言われるだろうが、幸い彼は今側にいない。
大体、常葉は口煩過ぎるのだ。人間の形(なり)で何を言うのか。
そう、ぶつぶつと想い巡らせながら。
足元の崩れて斜面と同化した階段道は、石やコンクリートで補強されている様子もない。手入れが行き届いていないというのは本当なのだろう。これでは仕方無いと思いながら、翠仙は『そこ』に行き着いた。
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