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むせ返るような芳香、甘い蜜。蝶のような優雅さで。 そのカラダに鋭い棘を隠して。
はじめに

ようこそ、偽アカシアへ。
こちらは私、朝斗の今までの作品展示室となっております。

過去作品から随時追加予定です。
同じものを掲載していますが、若干の推敲をしている場合もあります。
詳しくは『はじめに』をご一読ください。
2008.5.6 Asato.S
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 そこで私は目を開けた。

 気がつくと電車の中で揺られていた。
 先頭の車両に乗っていた。私の他に人影は無い。

 随分遠くまで来たらしい。外には夕焼けに染まった草原の風景がどこまでも広がっていた。
 そのまましばらく座っていたが、すぐに奇妙な事に気付いた。
 景色はいつまでも夕暮れの草原で、次の駅に着かない。5分立っても、10分立っても、一向に駅に辿り着く気配が無い。
 そのうちに、列車はカーブに差し掛かった。黄金色の田園を大きく曲がると、後ろに連なる車両が見えた。

 そしてその目を疑った。

 
 終わりがない。

 車両は遥か後ろに伸びている。
 いつまでも。
 いつまでも。
 途切れる事無く。

 
 私は思わず立ち上がった。窓に張り付いて、どうにか最後尾を見ようとした。
 でも、見えないのだ。

 車両の果てを知りたかった。自分の目で、その終わりを確かめたかった。
 次の車両へ続くドアを開けた。そして、揺らぐ車両を、終わりに向けて歩き出した。
 
 揺れて歩き辛い電車の中を、おぼつかない足取りで歩く。次のドアを目指して。そして、また次の車両のドアを開ける。





「一体いつまで続くんだ!!」



  どれくらいドアを開けただろう。いくつ車両を来ただろう。それでも他の乗車客はなく、列車の果てにつく事もない。
 そんな中、私は最後尾の車両を目指す。
 
 それから何十回とも分からないほど戸を開けた時、ドアの向こうの世界が初めて変化した。


 重い戸を開けると暗い世界が広がった。先刻まで夕焼けだった世界が、一瞬にして闇に変わった。開け放たれたドアから室内に風が吹き込む。足下に広がるレールが遥然と向こうに去って行く。

 そこが電車の終わりだった。


 驚いて後ずさる。
 なんだ、これは。全てはここで終わりなのか。
 唐突に跡形もなく、終わってしまうものなのか。

 すると突然、誰もいないはずの車内から声が響いた。


「もう、終わりにする?」

 
 それは知らない声だった。そして知らない顔だった。
 でも、懐かしさを感じた。私よりいくらか年若い、少年。
 
 
「列車はまだ続いている。君がこの先に進みたいと想うなら」
 
 彼は指さした。
 暗闇の向こうを。
 レールの消え行くほうを。

「どうする?」

 彼は私に尋ねる。
 私は彼を見る。


「どうする?」


 電車がレールを滑る音の合間を裂いて、もう一度、彼の声が響いた。
 
 私は息を呑んだ。
 そして、強く強く拳を握る。

 
「私は」
 
 そう。
 まだ見つかっていないんだ。私の探すものは。


 そして、私は。振り向いて。

 その闇の中に身を投じた。


 ――ここはまだ、終わりじゃない。







 飛び降りた先は、きっと、現実。

 

Fin.

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