ようこそ、偽アカシアへ。
こちらは私、朝斗の今までの作品展示室となっております。
過去作品から随時追加予定です。
同じものを掲載していますが、若干の推敲をしている場合もあります。
詳しくは『はじめに』をご一読ください。
そこで私は目を開けた。
気がつくと電車の中で揺られていた。
先頭の車両に乗っていた。私の他に人影は無い。
随分遠くまで来たらしい。外には夕焼けに染まった草原の風景がどこまでも広がっていた。
そのまましばらく座っていたが、すぐに奇妙な事に気付いた。
景色はいつまでも夕暮れの草原で、次の駅に着かない。5分立っても、10分立っても、一向に駅に辿り着く気配が無い。
そのうちに、列車はカーブに差し掛かった。黄金色の田園を大きく曲がると、後ろに連なる車両が見えた。
そしてその目を疑った。
終わりがない。
車両は遥か後ろに伸びている。
いつまでも。
いつまでも。
途切れる事無く。
私は思わず立ち上がった。窓に張り付いて、どうにか最後尾を見ようとした。
でも、見えないのだ。
車両の果てを知りたかった。自分の目で、その終わりを確かめたかった。
次の車両へ続くドアを開けた。そして、揺らぐ車両を、終わりに向けて歩き出した。
揺れて歩き辛い電車の中を、おぼつかない足取りで歩く。次のドアを目指して。そして、また次の車両のドアを開ける。
「一体いつまで続くんだ!!」
どれくらいドアを開けただろう。いくつ車両を来ただろう。それでも他の乗車客はなく、列車の果てにつく事もない。
そんな中、私は最後尾の車両を目指す。
それから何十回とも分からないほど戸を開けた時、ドアの向こうの世界が初めて変化した。
重い戸を開けると暗い世界が広がった。先刻まで夕焼けだった世界が、一瞬にして闇に変わった。開け放たれたドアから室内に風が吹き込む。足下に広がるレールが遥然と向こうに去って行く。
そこが電車の終わりだった。
驚いて後ずさる。
なんだ、これは。全てはここで終わりなのか。
唐突に跡形もなく、終わってしまうものなのか。
すると突然、誰もいないはずの車内から声が響いた。
「もう、終わりにする?」
それは知らない声だった。そして知らない顔だった。
でも、懐かしさを感じた。私よりいくらか年若い、少年。
「列車はまだ続いている。君がこの先に進みたいと想うなら」
彼は指さした。
暗闇の向こうを。
レールの消え行くほうを。
「どうする?」
彼は私に尋ねる。
私は彼を見る。
「どうする?」
電車がレールを滑る音の合間を裂いて、もう一度、彼の声が響いた。
私は息を呑んだ。
そして、強く強く拳を握る。
「私は」
そう。
まだ見つかっていないんだ。私の探すものは。
そして、私は。振り向いて。
その闇の中に身を投じた。
――ここはまだ、終わりじゃない。
飛び降りた先は、きっと、現実。