忍者ブログ
むせ返るような芳香、甘い蜜。蝶のような優雅さで。 そのカラダに鋭い棘を隠して。
はじめに

ようこそ、偽アカシアへ。
こちらは私、朝斗の今までの作品展示室となっております。

過去作品から随時追加予定です。
同じものを掲載していますが、若干の推敲をしている場合もあります。
詳しくは『はじめに』をご一読ください。
2008.5.6 Asato.S
[116]  [114]  [112]  [111]  [110]  [109]  [108]  [107]  [106]  [105]  [104
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

 カナリアは。
 後先のことは考えていなかった。

 ただ一心に、その鳥を救おうと必死だったのだ。
 傷の癒えきっていない鳥は、羽ばたくことが満足に出来ない。いつかは治るかもしれない。けれど、まだ、その時期まできていないのだ。
 
 自分も飛ぶ術を持たないことも忘れて。

 まだ『見習い』の彼女は、空を自由に行き来する方法を持ち合わせていない。いくら空の民だといっても、地上に叩きつけられれば消えてしまうのに。
 
 それでも、少女は。
 まだ飛べないその鳥に、手を伸ばした。
 
「大丈夫、大丈夫よ」
 目まぐるしく世界が変わる落下の中。しっかりと、その小さな命を抱きしめて。クルル、と。大気が擦れる中で、鳥が鳴く声が聞こえた。

「大丈夫だから…」

 優しく語り掛けて。もう離してしまわぬように。
 そして、なす術も無く落ちてゆく。
 
 
 どうしよう。
 どうしよう。

 少女は唐突に、今置かれている状況を悟る。
 このまま、落ちて消えるのだろうか。
 せっかく救おうと思った命さえ、私の腕の中で消えるのだろうか。
 
 大地って、どんなところだろう。
 落ちたら、痛いのかな。
 もう二度と、あの雲の上には戻れないのだろうか。
 まだ、仕事も覚え始めたばかりだったのに。
 
 ぎゅっと目を閉じて、いつか辿り付く、まだ見ぬ地上の事を思った。
 それから、ハルと、ジェイドのことを。
 
 
 

 そのとき。

 ふわりと、落下速度が遅くなって、カナリアを何か温かいものが包み込んだ。
 もう消えてしまったのか、と恐る恐る目を開ける。
 飛び込んできたのは、優しい若葉色。

「ハル…!」

 その腕に抱きしめられながら、彼の顔を見つめた。カナリアの顔に、安堵の色が浮かぶ。
 ハルは少女に優しく微笑んで、そして、放してしまわない様に抱え直した。

「しっかり掴まって。このまま、門の場所まで戻る」




 ジェイドはひとり、門の前で待っていた。

 彼は歯噛みする。
 こんな時でさえ、門番はここを離れられない。ハルが飛び出して行ってからも、ただそわそわと待っていることしか出来なかった。

「カナリア!」

 いくらもしないうちに二人は戻ってきた。
 心臓を縛っていた鎖が取れたように溜め息を吐いた。

「良かった…」
 雲の上に降り立ったカナリアは、放してもらってすぐにジェイドの元へ駆け出した。

「ジェイド――」
 彼の顔を見て、再び安心したように微笑む。

 カナリアに手を伸ばす彼。
 少女が取ろうとしたその腕を、遮る者がいた。
 ハルだ。無表情のままで、二人の間に割って入る。

 そして、
 ぱしん、と小気味良い音が空に響いた。

「ハル!?」

 驚いたカナリアが声をあげる。
 門番は、赤く色のついた頬のまま、ハルを見つめ返した。

 ハルが、ジェイドを叩いたのだ。

 

NextBack

拍手[0回]

PR
この記事にコメントする
name
title
color
mail
URL
comment
password   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
この記事へのトラックバック
Welcome
冬に包まれる季節。
詳しくはFirstを参照ください。
つぶやき
ブログ内検索

プロフィール
HN:
朝斗 〔あさと〕
性別:
非公開
趣味:
読書、創作、カラオケ、現実逃避
のうない
最古記事
はじめてのかたは此方から。
最新コメント
メモマークは『お返事有り』を表します。
[05/09 彗花]
[05/07 天風 涼]
[05/06 朝斗]
[05/06 朝斗]
[05/06 朝斗]
バーコード
もくそく
Powered by Ninja Blog Photo by COQU118 Template by CHELLCY / 忍者ブログ / [PR]