むせ返るような芳香、甘い蜜。蝶のような優雅さで。 そのカラダに鋭い棘を隠して。
はじめに
ようこそ、偽アカシアへ。
こちらは私、朝斗の今までの作品展示室となっております。
過去作品から随時追加予定です。
同じものを掲載していますが、若干の推敲をしている場合もあります。
詳しくは『はじめに』をご一読ください。
2008.5.6 Asato.S
「結衣?」
いつもは昼過ぎまで眠る土曜の朝。空は快晴。玄関で靴を履いていると、お母さんが背後から不思議そうに声をかけてきた。
「早いわね。出かけるの?」
「ああ…うん。ちょっと買い物に行ってくるね」
勿論買い物ではないのだけれど。それでもお母さんには微塵も疑う様子はない。
「お昼は?」
そう聞かれて、少しの間考える。お昼まで帰れるかどうかはパズルを取り戻せるかにかかってる。
「うーん…もしかしたら食べてくるかも?」
私はこれ以上いるとボロが出ると思い、急いで玄関を出た。
公園には10分で到着した。そこでは近所の子供達が遊具で遊んでいたけれど、さすがにその中にあの少女の姿はなかった。
そういえば、時間の約束をしていなかったな。
藤棚の下に腰掛けて、腕時計を見ようとして気がついた。
どうするんだろう? 彼女が来るまで、私はずっと公園で時間を潰さないといけないのかな?
しかし、それは杞憂だった。
なぜならそれから幾らもしないうちに、彼女がやってきたからだ。
「サキ」
聞き覚えのある、ちょっと気の強そうな声。そして妙な呼び方。きっとカナリアだ。声のしたほうを見る。
そして呆然とした。
そう。確かにそこに彼女はいた。しかし、それは地上の話ではなかった。
彼女は空中に浮いていたのだ。
正しく言うと、どこかから下降してきた感じだ。おそらくは、空の上から。
「少し待たせたかしらね」
彼女はふわりと地面に下り立った。服の乱れを直していると、続いて白ハトが降りて来て肩に留まった。
登場の仕方にもびっくりしたけれど、更に驚いたのは彼女の容姿だった。
「カナリア…?」
太陽の下で見る彼女は、青空色の髪と夕空色の瞳をしていた。きらきらと輝くような晴れ空。透けるような、薄い青色だった。それと対を成すような、黄金にも近い橙色。少し青色がかっているように見えるのは、やはり夕空を模したものだからなのかもしれない。
そしてワンピースは紺。もしかしたら、夜空を彩った色なのだろうか。所々にレースが施されていて、その色のお陰でどことなく大人っぽく優雅に見える。髪の色とよく合っていた。
全身で、空の全てを表したような色遣い。
今までにカナリアには二回会っていたけれど、どちらも夕闇の中で気がつかなかった。
「その色…ホンモノなの?」
つまりは、地毛で、天然でその色なのかということだ。カナリアはこくりと頷く。
「そうよ。空を任された者は、空と同じ色を持つの」
彼女は白ハトの羽を撫でた。
それにしても、昨日の『証拠』よりも、今の登場の仕方とこちら容姿の方が見た目分かりやすかった気がする。
私の心中などつゆ知らず、彼女は今日の本題に入った。
「『冬』についての情報を集めてくるのに少しかかったの。それから、彼のことをどうするかも評議してきたわ」
評議。どうやら空を任された者というのは大勢いるらしい。
「やはりサキが出会った冬は日本の指揮みたいね」
どうでもいいけど四季を指揮するって言葉としてややこしいな。
「破片を自由に使えない彼はまだこの近くにいる可能性が高いわ。そして暖かいのは苦手だから、涼しい場所か高い場所に潜んでいるというのが話し合った結果よ」
「この辺で涼しい場所か高い場所…今の時期はクーラーもまだ入っていないし…」
私が考え込んでいると、カナリアの白ハトが鳴いた。それを聞いて顔を上げる。するとハトは私のほうを向いてクルルと声を発していた。
カナリアはその頭を撫でた。
「だいたいは、この子が空を追ってくれるから分かるわ」
「わ…私は持ってないよ?」
「分かってるわよ」
一応断ってみたけど、彼女の言い方は容赦ない。それから、私の背後を指さして言う。
「冬は向こう。ここから南東のほうにいるのよ」
南東。それは明らかに、繁華街がある方向だった。
ごめんねお母さん。やっぱりお昼までには帰れそうにない。
いつもは昼過ぎまで眠る土曜の朝。空は快晴。玄関で靴を履いていると、お母さんが背後から不思議そうに声をかけてきた。
「早いわね。出かけるの?」
「ああ…うん。ちょっと買い物に行ってくるね」
勿論買い物ではないのだけれど。それでもお母さんには微塵も疑う様子はない。
「お昼は?」
そう聞かれて、少しの間考える。お昼まで帰れるかどうかはパズルを取り戻せるかにかかってる。
「うーん…もしかしたら食べてくるかも?」
私はこれ以上いるとボロが出ると思い、急いで玄関を出た。
公園には10分で到着した。そこでは近所の子供達が遊具で遊んでいたけれど、さすがにその中にあの少女の姿はなかった。
そういえば、時間の約束をしていなかったな。
藤棚の下に腰掛けて、腕時計を見ようとして気がついた。
どうするんだろう? 彼女が来るまで、私はずっと公園で時間を潰さないといけないのかな?
しかし、それは杞憂だった。
なぜならそれから幾らもしないうちに、彼女がやってきたからだ。
「サキ」
聞き覚えのある、ちょっと気の強そうな声。そして妙な呼び方。きっとカナリアだ。声のしたほうを見る。
そして呆然とした。
そう。確かにそこに彼女はいた。しかし、それは地上の話ではなかった。
彼女は空中に浮いていたのだ。
正しく言うと、どこかから下降してきた感じだ。おそらくは、空の上から。
「少し待たせたかしらね」
彼女はふわりと地面に下り立った。服の乱れを直していると、続いて白ハトが降りて来て肩に留まった。
登場の仕方にもびっくりしたけれど、更に驚いたのは彼女の容姿だった。
「カナリア…?」
太陽の下で見る彼女は、青空色の髪と夕空色の瞳をしていた。きらきらと輝くような晴れ空。透けるような、薄い青色だった。それと対を成すような、黄金にも近い橙色。少し青色がかっているように見えるのは、やはり夕空を模したものだからなのかもしれない。
そしてワンピースは紺。もしかしたら、夜空を彩った色なのだろうか。所々にレースが施されていて、その色のお陰でどことなく大人っぽく優雅に見える。髪の色とよく合っていた。
全身で、空の全てを表したような色遣い。
今までにカナリアには二回会っていたけれど、どちらも夕闇の中で気がつかなかった。
「その色…ホンモノなの?」
つまりは、地毛で、天然でその色なのかということだ。カナリアはこくりと頷く。
「そうよ。空を任された者は、空と同じ色を持つの」
彼女は白ハトの羽を撫でた。
それにしても、昨日の『証拠』よりも、今の登場の仕方とこちら容姿の方が見た目分かりやすかった気がする。
私の心中などつゆ知らず、彼女は今日の本題に入った。
「『冬』についての情報を集めてくるのに少しかかったの。それから、彼のことをどうするかも評議してきたわ」
評議。どうやら空を任された者というのは大勢いるらしい。
「やはりサキが出会った冬は日本の指揮みたいね」
どうでもいいけど四季を指揮するって言葉としてややこしいな。
「破片を自由に使えない彼はまだこの近くにいる可能性が高いわ。そして暖かいのは苦手だから、涼しい場所か高い場所に潜んでいるというのが話し合った結果よ」
「この辺で涼しい場所か高い場所…今の時期はクーラーもまだ入っていないし…」
私が考え込んでいると、カナリアの白ハトが鳴いた。それを聞いて顔を上げる。するとハトは私のほうを向いてクルルと声を発していた。
カナリアはその頭を撫でた。
「だいたいは、この子が空を追ってくれるから分かるわ」
「わ…私は持ってないよ?」
「分かってるわよ」
一応断ってみたけど、彼女の言い方は容赦ない。それから、私の背後を指さして言う。
「冬は向こう。ここから南東のほうにいるのよ」
南東。それは明らかに、繁華街がある方向だった。
ごめんねお母さん。やっぱりお昼までには帰れそうにない。
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