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むせ返るような芳香、甘い蜜。蝶のような優雅さで。 そのカラダに鋭い棘を隠して。
はじめに

ようこそ、偽アカシアへ。
こちらは私、朝斗の今までの作品展示室となっております。

過去作品から随時追加予定です。
同じものを掲載していますが、若干の推敲をしている場合もあります。
詳しくは『はじめに』をご一読ください。
2008.5.6 Asato.S
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 広い草原の中に居て、僕はひとりだった。


 陽射しが焼けるように暑い。
 重くなって来た頭を、なんとか太陽に向けようと持ち上げる。
 
 どれくらいこうしているだろう。
 先刻までは紺色の空に白銀の月が浮かんでいた筈なのに、今はもう何度目かの黄金の太陽が南天から見下ろしている。
 
 大丈夫。大丈夫。
 明日になれば全て夢になる。
 明日を迎えることが出来さえすれば、きっと、変わらない日常が待っている。
 
 紫詰草の葉に頼るように縋る掌が強い赤に染まっている。
 おそらくこの色は、僕の全身を覆っているのだろう。それなのに胸の内側は澄んで、ただ頭の中だけがざりざりと靄がかっている。
 
 だだっ広い草原は、幼い頃に駆け回った草千里に似ていた。
 
 明日になったら、もう一度あの場所に行こう。そうして、空を見上げて、また新しい明日を待つんだ。素晴らしいじゃないか。
 ふいに下ろした視線に、一輪の花が映り込んだ。藍色の美しい花。釣鐘型の花弁が僕と同じように太陽を見ている。もう寿命が近いのだろうか、株の中にひとつだけ辛うじて花が残っていた。
 

「嗚呼、」

 
 僕はかすかに口元に微笑みを浮かべる。
 この広大な草原の中で、静かに明日を待つもの同士だ。
 それを噛み締めるように、鉛のような右手を持ち上げる。じりじりと伸ばす手が、視界の中で歪んで。ふっと世界が暗がりを呼んだ。

 ああ、また夜が来る。
 そして夜露に濡れた体から雫が落ちた。
 



 
 
『どうしてこの花にしたの?』

 友人に問われて、彼女は本棚のフォトスタンドを振り返る。
 飾られているのは一輪の花。藍色が鮮やかな釣鐘型の花弁で作られた押し花だった。

「もっと瑞々しくて咲いたばかりの、元気な花も一杯あったじゃない」
 
 だって、この花が一番綺麗だったんだもの。
 女性は絵筆を置いて、ふいに微笑みを浮かべた。 


 ずっと昔から、何年も何百年も昔から広がっていた草の海原。その片隅に背を伸ばして咲いていた野花を見て、ああ、この花も賢明に時を越えているのだと心に感じた。
 あまり長くない一生の中で何を見ただろう。何を見守ってきただろう。
 そして生を終えようとしている姿はひどく綺麗だった。

 次の季節には、同じ株からまた新たな花が咲くのだろうか。


「それに、何故かしらね。一人ぼっちで淋しそうに見えたのよ」

 窓の外で、七色の虹が空に光っていた。
 
 
END
* * * *

LightとNightのどちらに入れようかと迷った作品。
まぁ私の小説はそんな傾向が多いのですが。

実を言うと、かくれホラーです。

もう一度ゆっくり読んで貰うと分かるかもしれませんが、文章の中に矛盾している言葉の流れがありますよね。

さっきまで夜だったはずなのに、今は既に昼過ぎ。
夜が来るといいながら、その身体は夜露に濡れて。

そして彼が『見て』いた花に引き寄せられてしまった女性。


彼が残したのは、希望か、それとも。

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