忍者ブログ
むせ返るような芳香、甘い蜜。蝶のような優雅さで。 そのカラダに鋭い棘を隠して。
はじめに

ようこそ、偽アカシアへ。
こちらは私、朝斗の今までの作品展示室となっております。

過去作品から随時追加予定です。
同じものを掲載していますが、若干の推敲をしている場合もあります。
詳しくは『はじめに』をご一読ください。
2008.5.6 Asato.S
[4]  [5]  [6]  [7]  [8]  [9]  [10]  [11]  [12]  [13]  [14
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

冬の王と少女の話

Overture 


銀杏の色が掠れ大地を覆い数日、防寒した人々が苛々急ぐ道を反対へかけていく。一足先にやってきた木枯らしが彼の所在を教えてくれたのだ。見えたのは銀の髪に瞳、枯野色の外套。そして一年ぶりの、日差しの様に柔らかな微笑み。「お帰りなさい!」腕の中に堪えきれずに飛び込んだ。
posted at 02:21:45 09/12/08



「今年は少し早かったのね」丘の上のベンチに並んで座り、ミルクティを啜る。彼は相変わらず穏やかに笑って「そうだろうか」「そうよ。でも、早く逢えて嬉しい」応えると雪の様な頬に僅かな緋色。袖間に隠れる指先をそっと包む。そして私は、一年ぶりに彼の名前を呼ぶ。
posted at 22:50:44 09/12/08


in the past - a year ago


冬の王に初めて逢ったのは昨年の十二月。その年は気候が不安定で、特に冬は急激な寒さと暖かさを繰り返していた。その日の気温は都心部でも息が凍る様な氷点下。交通網は見事に麻痺。私はスケートリンク同然の帰路を切々と踏み締めていた。銀色の後ろ姿を見たのは、そんな夕刻。
posted at 23:54:00 09/12/08



細かな雪が落ちる空模様に、普段は賑わう公園も人影は近道に使う私くらい。だから分かった。銀の髪、雪と同色の白い横顔、柔らかな枯野色のコート。憂いを帯びた表情も寒さに苛立つ人々とは異なる。気づいた瞬間には声をかけていた。「こんにちは」振り向いた瞳の美しさに息を呑む。
posted at 01:39:00 09/12/09



「人の子か」冬の象徴その物のそのひとは独り言の様に呟いた。私を気に留めてもいない。それでも挫けたりはしなかった。それより彼の存在に興味を持ったから。「どうかしたの?」掻き消える溜息を見てもう一度、今度は視線さえ寄越してくれない。どうしたら振り向いてくれるのか。
posted at 22:43:38 09/12/09



次の日もその次の日も天気は思わしくない。電車やバスが復旧しても、私は彼に一目会いたくて公園を歩いていた。霜の降りた芝生の、楢の側に銀の後姿。「こんにちは」通りかかって声をかけるだけ。返されるのは無言か無視か溜息ばかり。他は誰ひとり、彼に気付いていないようだった。
posted at 00:05:51 09/12/10


at present - this year


「寒くはないか」気遣いに思わず苦笑して「それ、貴方が言うの?」「それもそうか」冬の王は困って首を傾げる。「けれど、身体が冷える前に帰った方がいい」「そうね、有難う」本当はもう少し一緒に居たいけど今日は許してあげよう。だってこれからは、貴方を連れ回す冬なのだから。
posted at 00:32:06 09/12/10



改札を出ると、冬の王が楠の木の下でぼんやりしていた。声をかけたところ冬の具合を見て回っているのだという。人嫌いが珍しいと笑う私の、肩を掠めスーツの男が通り過ぎる。曇天を仰ぎ、白い息に苛付きながら襟を合わせて。ねぇ、冬の王。たとえ誰が嫌っても、私だけは貴方が好き。
posted at 23:21:43 09/12/08


in the past - a year ago


いつも通りに公園を通りかかると、いつもの場所に冬の王がいない。幹の裏側に回り込むと、そこに銀色のシルエット。「なんだ、いるじゃない」「うるさい」どことなく決まり悪そうに目をそらす。もしかして、私が来るから隠れてた?それに気づいて微笑むと、またうるさいと叱られた。
posted at 00:53:50 09/12/11


10
いつも通りに公園を通りかかると、いつもの場所にまた冬の王がいない。枝の間を見上げると、そこに銀色のシルエット。「こんにちは」声を張り呼びかけても反応はない。とは言っても顔を顰めたので聞かない振りはバレバレだ。それに気づいて微笑むと、ややあってうるさいと叱られた。
posted at 23:11:18 09/12/11


11
かくれんぼに飽きたのか、数日ののち彼は再び姿を見せるようになっていた。けれど冷たいのは相変わらず、何気ない挨拶も横滑り。もっとどうにかならないかと一瞬考えもしたけれど、冷静になれば彼は冬の王なので冷たいのは当たり前、滑るのも冬だから仕方ない。悴む手に息をかける。
posted at 01:18:21 09/12/12


12
その日は一段と寒く、制服の上にコートを重ねて学校へ向かった。通勤と通学の混雑。急ぎ足が交差する向こうに銀色の影を見る。静かな無表情は周囲の人に見えないだけでなく、彼からも人間の存在が見えていない様な自然さがあった。帰り道の公園は案の定、彼の姿はどこにも無かった。
posted at 23:03:22 09/12/12


at present - this year

13
湖にはとうに白鳥達が飛来している。彼らの羽ばたきを眺めながら「ねぇ、貴方も同じ場所から来るの?」「否、私は冬そのものだから、同じ場所であり同じ場所ではない」冬の王はふわり湖面を進む。その様子を目の当たりにすると、私と彼は別のものだと分かって不思議な気分になる。
posted at 01:16:54 09/12/13


14
「今日は一段と冷えるね」こんな会話は冬の王には意味が無いかと思ったけど、彼は頷き返してくれる。「それはそうだ、なんと言っても今日は」「あ」言葉の端に降りかかる小さな白色。やがて深々と、音もなく空からやって来る。「積もるかな」満足気な横顔。この冬初めての雪だった。
posted at 17:23:25 09/12/13


15
「どっちを見れば良いの?」深夜の自然公園の真中、私は冬の王を振り向く。「何処でも。放射点から離れた方が軌跡は長い」「あ!」「見えたか?」「でも、願い事出来なかったよ」肩を落とすとクスリ笑う声。けれどこんなにはしゃいでるのは、何も流れ星のせいだけじゃない。
posted at 00:14:28 09/12/15


16
十二月も半ばに差し掛かりいよいよ寒さに本腰が入ってきた。ぬくぬくのお布団からのそり起き上がり、何かに追われるように身支度をして扉の外へ。見上げた空が冷たく冴えていても、この寒さが彼の到来に寄るものと思えばどうってことない。柔らかな銀の影。今日も彼に会いに行こう。
posted at 00:17:30 09/12/17


in the past - a year ago

17
街中で冬の王を見たあの日以来、彼の姿を見ることはなかった。しつこくし過ぎて面倒に思われたかもしれない。そうでないと思いたくても、あの氷雪の横顔を浮かべるだけで心許なくなる。けれど、私には見えるのだ。彼の存在がただそこに。だから今日も、銀色の影を求め公園を横切る。
posted at 23:40:54 09/12/18


18
厚い雪雲の合間のささやかな太陽。久々の陽気は私の心の中まで温めてくれた。今日なら冬の王に会えるかもしれない。そんな期待を抱きつつ、帰り道の途中で公園へ。しかし天気とは裏腹に彼の姿はない。私は気付かなかっただけなのだ。それがいわゆる嵐の前の静けさだということに。
posted at 00:41:10 09/12/19


to be continued,
→19

拍手[0回]

PR
 並んで座って、寒空の下で缶飲料を飲む。熱に触れる左手がピリピリと痛い。
 ふいに隣を見ると、皐月さんは紅茶が熱いのか四苦八苦していた。口をつけては離す、というのをしきりに繰り返している。

「やっぱり喫茶店のほうが良かったですね」

 山茶花の赤色と、彼女が首に巻いたマフラーが木枯らしに揺れるのを見ながら僕は言った。けれど皐月さんはくすぐったそうに笑うだけ。

「いいえ。こういった場所のほうが落ち着くわ。それに、慣れているから」
「もしかして、よく迷子になるんですか」
 スチールの缶で手を温めながら、彼女は空を見る。薄い青色の空には鱗雲が残っていて、その合間を縫うようにセキレイが横切る。

「じっとしていられない子で。この間なんて、鳩を追いかけて石段を転がり落ちそうになって」

 灰色の群れが砂利の間を突くのを見ながらコーヒーを啜る。これから冬が来るというのに、彼らはなんとも暢気そうだった。
 
 それにしても、彼女の歳で娘さんがいるってことは、うちの所長は婚期を逃しているということだろうか。今頃大した仕事もなく事務所で暇潰しに勤しんでいるだろう姿を想像しながら、ぼんやりと思い廻らせる。
 まあ仕事柄仕方ないのかなとは思うし、それに、あの人なら一人でもやっていけそうだけれど。

「和弘くんは、兄弟はいる?」
 ふいに話題が自身のことに移って、僕は口元から缶を下ろした。
「うちは姉が一人。もう結婚してるから滅多に会わないですけどね。僕も一人暮らしだし」
「離れていて淋しかったりはしない?」
「そうですねぇ。でも、一人じゃなくてよかったなぁって思うことは、よくあります」

 言いながら思い浮かべるのは故郷を離れて暮らす姉の顔。少し口うるさいけれど、最近は笑顔でいることのほうが増えた気がする。先日帰省したときに姉も丁度里帰りをしていて、春に生まれるのよ、と嬉しそうにお腹を撫でていた。

「それに今は、頼りになる兄みたいな人も近くに居るし」
 今度はまた別の人物を思い浮かべた。
 慌しくも満たされた日々。こうして僕が平穏な生活を送れているのも、ひとえに彼らのお陰なのだろう。普段は意識しないけれど、実家からの電話を切る瞬間や、事務所でぼうっと過ごす時なんかによぎったりする。

「幸せなのね」
「そうかもしれませんね」

 自分がどんな表情をしていたのかは定かではない。彼女の目にはどう写ったのだろうか、穏やかに微笑を向けられて、少しだけ面映い気持ちになった。
 
 
「そろそろ行きましょうか」

 皐月さんが傍らに缶を置いたのを見て、僕は底に僅かに残ったコーヒーを飲み干した。
 ベンチの側のゴミ箱に二人分の缶を放って、先を行く彼女の背中を追いかける。

 鳥居の周囲にはまだ鳩が戯れていた。彼女が近付いていくと、あんなにマイペースだった彼らが一斉に逃げて行く。
 多少通りやすくなった石畳を辿って石段を降りる。幸いにもまだ日が暮れるまでは時間がありそうだった。紅茶を飲んで気分が落ち着いた彼女と一緒に、再び娘さん探しを開始する。

 もう少し探して見つからなかったら、今頃事務所で留守番状態の所長に手伝ってもらうことにしよう。

拍手[0回]

2009年12月10日(木)

諦めた 愛しき夢の内側の 永遠求め追いかけた日々
   あきらめた いとしきゆめのうちがわの えいえんもとめおいかけたひび
posted at 16:13:21

掻き毟る 君へ届かぬ 苦しみの けして消えぬは この走り書き
   かきむしる きみへとどかぬ くるしみの けしてきえぬは このはしりがき
posted at 16:13:33


2009年12月11日(金)

さよならの静かな響きをすくい上げ せめて飛ばせよ 空の向こうへ
   さよならのしずかなひびきをすくいあげ せめてとばせよ そらのむこうへ
posted at 15:03:09

たえばたて 散りゆく花は月影の 照り光る夜 遠く奏でて
   たえばたて ちりゆくはなはつきかげの てりひかるよる とおくかなでて
posted at 15:04:50


2009年12月12日(土)

泣き濡つ 虹の面影ぬりわけて 願い込めつつ のぞむ畦道
   なきそぼつ にじのおもかげぬりわけて ねがいこめつつ のぞむあぜみち
posted at 16:09:19

玻璃の中 ひとり覗いた二人の記憶 経て気が付くは 他あらぬ恋
   はりのなか ひとりのぞいたふたりのきおく へてきがつくは ほかあらぬこい
posted at 16:23:21


2009年12月15日(火)

舞い過ぎる みじかきいのち 夢幻のひ 目に鮮やかに燃え落ちる蒼
   まいよぎる みじかきいのち むげんのひ めにあざやかにもえおちるあお
posted at 00:34:34

やわらかに祈るささやき ゆめのはて 得てしかすかな 夜の端から
   やわらかにいのるささやき ゆめのはて えてしかすかな よるのはしから
posted at 00:38:33

我がみちの いとし言の葉 うち捨てて 縁結ばん をかしげな恩
   わがみちの いとしことのは うちすてて えにしむすばん をかしげなおん
posted at 01:20:47

拍手[1回]

Welcome
冬に包まれる季節。
詳しくはFirstを参照ください。
つぶやき
ブログ内検索

プロフィール
HN:
朝斗 〔あさと〕
性別:
非公開
趣味:
読書、創作、カラオケ、現実逃避
のうない
最古記事
はじめてのかたは此方から。
最新コメント
メモマークは『お返事有り』を表します。
[05/09 彗花]
[05/07 天風 涼]
[05/06 朝斗]
[05/06 朝斗]
[05/06 朝斗]
バーコード
もくそく
Powered by Ninja Blog Photo by COQU118 Template by CHELLCY / 忍者ブログ / [PR]