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むせ返るような芳香、甘い蜜。蝶のような優雅さで。 そのカラダに鋭い棘を隠して。
はじめに

ようこそ、偽アカシアへ。
こちらは私、朝斗の今までの作品展示室となっております。

過去作品から随時追加予定です。
同じものを掲載していますが、若干の推敲をしている場合もあります。
詳しくは『はじめに』をご一読ください。
2008.5.6 Asato.S
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at present - this year

50
「一年中貴方に会うにはもっと寒い処に行けばいいのかな。シベリア?北欧?」「それでは私が日本に居る間は会えないだろう」「じゃあ、冬だけ日本に戻ってくるよ」笑い合う冬の王は戯言だと思うかもしれないけれど、私は結構本気だった。会う時間は少しでも多い方が楽しいでしょう?
posted at 23:47:03 10/01/24


51
週が明けて最初に会いに行った冬の王は、先週と比べ目に見えて元気がない。元々穏やかなひとではあったけれど…私は何か拙いことをしてしまっただろうか?声をかけそびれ自分を責めると、静かに振り向く彼。「おかえり」やわらかな笑みにも不安は消えない。只々、微笑みを返す。
posted at 00:05:47 10/01/26


52
公園で会う以外でも冬の王の姿を見ることは多々ある。冬立つ空の下、冷たい風の中。色を失う木々の傍や、反対に色付く街の片隅で。けれど決まって見つけてしまうのは、遥か北の空を望む、透明な透明な銀色。『何を見ているの』。尋ねれば応えてくれるだろうか。その淋しさが積る。
posted at 23:40:27 10/01/26


53
「一緒に帰ろう」声をかけただけなのに優希は怪訝な顔をした。「公園は?」「うーん。毎週行くわけじゃないし」「会いたくないの」曖昧なままの私、友人の溜め息。「…気になることは聞いておいた方がいいんじゃない?」『冬は去ってしまうのよ』。その言葉が心に棘を刺した。
posted at 22:29:44 10/01/29


54
「イヴェール」公園で会う貴方は普段と変わらないように見える。声をかける前から私に気付いて、冬の陽射しの微笑をくれる。「どうかしたのか」そして、私の僅かな心の機微さえも見出してくれて。「ううん、ちょっと疲れただけ」通い合っている筈の、この擦れ違いの意味は何だろう。
posted at 23:44:35 10/01/29


55
「久方振りに会いに来たな」「そうかな」言いながら、直接ここに来たのは2週間ぶりだと分かっていた。声を聞くだけで胸が一杯になってしまってどうしようもない。けれど聞かなきゃ。あの憂愁の訳を、冬の王が心に仕舞っている何かを。私はいつかの楢の下で彼を見上げる。「あのね」
posted at 21:47:04 10/01/30


56
意を決した途端、湖の白鳥達が一斉に空へ舞った。何事かと振り仰ぐ空は見たこともないような賑やかさ。身構えれば庇う様に冬の王の背が見える。「怖いのか」「こ、怖くないよ」虚勢に微笑み。つられて笑うと、彼の表情が和らぐ。それに後押しされて口にする「聞きたいことがあるの」
posted at 23:43:09 10/01/31


57
「聞きたいこと?」「そう。何かあったんでしょう?」彼が垣間見せた哀しさが、たちまち目の前に浮かぶ。様子がおかしいのは、何も私だけじゃないでしょう?「何も。ただ、思い出していた」「何を?」「ある冬の日のことを」見上げる遥か北の空。私はぎゅっと掌を握る。「教えて」
posted at 23:23:36 10/02/01


58
何も面白い話ではないと、イヴェールは前置きした。聞かれたくない話なのかもしれない。不安になって言葉を探していると、彼のほうから続きの言葉を紡いだ。私が知らない、冬の話。それにとてもとても心が揺らされて、興味と焦燥がごちゃ混ぜになって押し寄せる。銀色の瞳が語る。
posted at 23:44:43 10/02/02



in retrospect - once upon a time

59
それは冬の精霊の話。まだ彼に名称がなく、季節と季節の合間から生まれた存在でしかなかった頃の話。冬の欠片はある大地の片隅に在った。夏が短く冬の長い特異な国。そこで欠片は出会う。ひとりの人間、ひとりの娘。しかし娘にはひとつ蔭りがあった。重い病に侵されて居たのである。
posted at 23:58:41 10/02/03


60
娘は暖かいガラスの内側から銀世界を望んでいた。冬になって以来外に出たことはおろか、離れの部屋からも出ることはない。時折調子が良ければ足を下ろし、家族が居ない隙に窓を開ける。ひやりと染み入る凍えた風は、自分が生きていることの証の様に思えた。そして欠片に気付いた。
posted at 22:45:50 10/02/04


61
「誰?」冬の化身は突然のことに木陰へ姿を隠した。けれど窓辺の娘は変わらずこちらを見ている。この姿を見れば驚いて逃げるだろう、そう計り娘へと近付くが身じろぎもしない。奇妙に思い、ふわりと娘の傍へ。「誰かいるのね」目の前に手を翳して察する。その視界は閉ざされている。
posted at 23:29:21 10/02/04


62
「病なのか」思わず言葉を発すれば娘はふわりと笑う。「良かった。話せるのね」表情は到底そうと思えぬ生き生きとしたもので、声の方を見た瞳が冬の欠片を捉えていた。夏空の如き澄んだ青。それが冷たい銀色を見詰めるかの様。「貴方は誰?それとも、名前は無いのかしら」息を呑む。
posted at 23:29:42 10/02/05


63
「見えなくても判るわ。貴方、ヒトじゃないのでしょう」どうして。聞くのを躊躇ううちに彼女は続ける「私に会いに来る人間なんて、もう家族以外には居ないものね」瞳は宝石のように美しく、すっと持ち上がった指先を咄嗟に受け取る。「だからとても嬉しいの」微笑みは太陽のよう。
posted at 00:25:51 10/02/06


64
以来冬はあの青色が忘れられず何度も顔を出した。見えぬ筈の娘も、何故か冬の化身の到来を悟り窓をあけた。それは奇跡のような、たった数時の遣り取り。喜ばれれば更に来訪を重ね、娘もそれを歓迎した。そうして長い冬は悠然と過ぎる。同時に時を刻んでいるものがあった。命だった。
posted at 21:02:24 10/02/06


65
「分かるの。長くないわ」白い唇が言葉を紡ぐ。「そんなことは無い」「ありがとう」消えそうな微笑に、冬の化身は『その瞬間』を察する。それは決意。彼女の魂を少しでも繋ぐために何をすれば良いか。季節は凍える冬。暖かい春が来れば負担は弱まるだろう。春が、来れば。別離が。
posted at 23:13:55 10/02/07


66
今日は調子がいいと娘が笑うので、答える代わりにその指先に触れる。「いい天気ね」頬に当たる束の間の陽光。「ねぇ、明日も来てくれる?」首を傾げ、問う。その声色は普段と相違無い様に聞こえながら、どこか不安が籠っていた。冬の欠片は答えない。答えぬまま、細い手を握り返す。
posted at 01:08:11 10/02/08


67
朝が来て娘は見えぬ目を開く。僅かに感じられる明暗と頬に注ぐ暖かさ。そろりと窓を開けば、はたはたと氷柱の溶ける音。太陽が照らす気配、新芽の匂い。そして鳥の囀り。「春だわ――」その日以来、応えることのない窓辺の声。あの冷たく優しい掌を求めても、触れることは無いまま。
posted at 23:27:55 10/02/08



at present - this year

68
「――その人にはまた会えたの?」枯れかけた喉を絞り聞く。「それ以降、会いに行ったことはない」欠片は冬を越え精霊になった、だから自由に行き来することはなくなった、と。名を知らぬ少女と姿を知らぬ冬の話。語り終えた表情は穏やかで。真直ぐに見詰められないのは、どうして。
posted at 22:50:24 10/02/09


69
公園を出たところで耐えられずに足早になる。分かった、分かってしまった。好きだ。種を超えた友達としてではなく、私の知らない貴方の過去を羨む程に。いつの間にこうなってしまったんだろう。どうすればいいんだろう。好き。イヴェール。目尻を擦りながら貴方の名前を呼ぶ。
posted at 23:54:16 10/02/10


70

黄昏に銀色が滲む。彼は思う。何故あの話をしようと思ったのか解らぬと。実の所は昔ほど懐かしんでいないのだ。何百年と経った今、人間の命の儚さを憂うなど無意味なのだから。なのに何故口をついたのか。何故彼女へ伝えねばならぬと思ったか。相手なき懺悔を求め、切々と雪は降る。
posted at 01:04:50 10/02/11


→71

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at present - this year

31
研ぎ澄まされる寒さの中、幼い頃から通う神社の石段を登る。鳥居の先は橙の灯、どこか遠くで百八の鐘の音。「どうかした?」「なんでもないよ」本当は湖の側に居る銀色の彼のことを思う。初詣で会えないし、年賀状も届かない。陽が登ったら真っ先に会いに行こう。さあ、年が変わる。
posted at 23:34:26 09/12/31


32
霜の下りた芝生をゆっくり渡っていく。早朝の公園はやっぱり人気がないけれど、私が会いに行くのはたったひとり。「おはよう!」銀色の瞳に安堵しながら私は言葉を訂正する。「じゃ、なかった。あけましておめでとう、イヴェール」「おめでとう、ヒナ」新たな年の始まりを祝って。
posted at 14:44:35 10/01/01

*** 

33
「冬の王のくせに暇そうね」何だかんだでお喋りに付き合ってくれる彼は、いつも街の片隅で佇むのを伺うばかり。「何を言う、平和だからこその平穏だろう」それから思い直し「明日は雪だ。充分気をつけるといい」幾分得意気だけど、そんなの今朝の天気予報から知ってる。少し微笑む。
posted at 22:14:08 10/01/05


34
「冬休みも終わっちゃうね」マフラーを巻いてぽつり呟く。「私達はもう学校に来てる訳だけど」「それでも、授業がないのは重大ね」友人の言葉に深く頷いた。「ところで、冬は何処か行ったんだっけ?」「私はいつも通りだよ」いつも通りふらり立ち寄って、のんびり冬の王とお喋り。
posted at 23:16:24 10/01/06


35
「今日も寒いなぁ」音楽室の鍵を閉め、冬木立を眺め廊下をゆく中、階段の踊り場ですれ違う人影。「やぁ、部活帰り?頑張るね」丁寧に頭を下げると彼は柔らかに笑う。「先輩こそ、本番までもう少しですね」「じゃあお互い頑張ろうか」エールを送って別れる。冬は、決意をくれる季節。
posted at 23:19:52 10/01/07



in the past - a year ago

36
冬枯れの中、挨拶が成立したのを良い事に今度は会話を成立させようと通い詰める日々。「ねぇねぇ冬の王様」「何だその妙な呼び方は」「だって、貴方は冬の化身か何かでしょう」我ながら変なことを口走る娘だと思う。刹那、銀の瞳が私を見る。「本当に、妙な者に見つかったものだ」
posted at 23:32:39 10/01/08


37
「冬の王様は物を食べたりしないの?」寒さの中で味わう至福の時を楽しみつつ問いかける。「栄養を摂取する必要がないから、嗜好品だな」私は少し考えてから肉まんを二つに割る。「はい。嗜好品ってことは、食べられない訳ではないんでしょう?」次の日は心なしか太陽が暖かかった。
posted at 22:41:47 10/01/10


38
冬の王が私を僅かに『見る』ようになってからは、天候も異常を来すことはなくなった。彼の元へ通うのも以前みたいに毎日ではないけれど、週に数度窺う彼の顔は随分落ち着いて見える。『あれ』が何を示すのかを今は考えない。ただ今は彼に会い、少しでも笑ってくれたらそれでいい。
posted at 00:10:00 10/01/12



at present - this year

39
今日は部活がないから早々と荷物を纏める。天気も良いし、久々にイヴェールの所に遊びに行こうか。その様子が顔に出ていたのか、友人が笑って「寄り道?」と声をかけてくる。まあね、言葉を濁らせて教室を後にする。仲の良い彼女の瞳が何かを言っていたので、大丈夫だよと手を振る。
posted at 23:55:07 10/01/12


40
今日も公園のベンチに腰掛けて、ココアをお供に冬の王とお喋り。「どうかしたのか」「何も。ただちょっと、思い出してただけだよ」軽く首を振り文庫本のページを捲る。そう、あれは去年の今頃だった。最初にあの子に言われた時は驚いたけれど、今となっては笑みが溢れる出来事。
posted at 23:31:50 10/01/13



in the past - a year ago

 

41
「あんたいつも公園で何見てるの」帰り支度をしていると、ふいに親友に声をかけられた。「何って、本を読みながら白鳥を」勿論それは外見上で、本当は「そうじゃなくて」首を振って遮られる。「あの銀髪の男。人間じゃないでしょう」彼女の真っ直ぐな瞳に、息が詰まった。
posted at 23:48:08 10/01/14


42
「会いたいと言う者が居る?」「そう。私の友達なんだけど、一度話してみたいって」「そうか、私を見れる者もまだ多いのだな」よく聞こえずに首を傾げる。冬の王は顔を上げ「好きにするといい」珍しく素直なのは単に興味が無いだけなのか。とりあえず面会は明日の放課後に決まった。
posted at 23:35:22 10/01/15


43
噴水池に行くと約束通り冬の王が待っていた。銀色の横顔は関心が無さそうなまま、親友の優希はじっと彼を見る。「何か買ってくるね」「あたしも行こうか」「大丈夫!」手を振って近くの自動販売機に走る。二人がどんな話をするのか興味もあるけれど、間が持たなそうなので急ごう。
posted at 23:27:02 10/01/16


44
駆けていく後ろ姿を見送り、池の前に残されたのは二人。冬温い天候の中、少女は傍らに存在する『冬の王』を横目で見やる。あの子の様子が妙だと気づいたのは去年の暮れ、何度か公園で見たのも程無くしてからだ。相手が…人でないと気づいたのも。沈黙を破ったのは少女のほうだった。
posted at 00:53:36 10/01/18


45
「貴方は、冬の遣いね」優希の言葉に冬の王は肯定を示す「あの子は一緒にいて平気?煩くない?」「煩わしい時もあるが害は無い」「じゃあ好き?」「それは」「他の生き物と同等に」「…それなりに」ならいいけど、と真摯な瞳で睨む「陽菜を苛めたり泣かせたりしたら、許さないから」
posted at 01:04:20 10/01/18


46
ココアを両手に戻れば、妙なことに冬の王だけがその場所にいる。「優希は?」「先に帰る、と」「そう…」肩を落とすと、何故か慌て出す冬の王。「何か言ってた?」尋ねても返ってくるのは生返事。けれど彼の機嫌も悪くなさそうだし、今日は常盤木の青色に免じて納得してあげよう。
posted at 23:35:27 10/01/18 



at present - this year

47
「よくそんな事を覚えていたな」感心しているのか呆れているのか、冬の王は静かに頷く。「だって、親友で貴方が見える人のことだもの。それで?」「ん?」「あの時、何を話していたの」見上げたのに、銀色の目は揺るがないまま。「忘れてしまった」今日も冬の空は掠れたように青い。
posted at 23:40:11 10/01/20


48
「それで、今日も行くの?」イヴェールのことを言っているのだと察して頷くと、親友は苦笑い。「冬が好きなら、いいよ」どこか困ったような微笑の意味が分からずに。けれど、どうしても頷き返さないといけない気がして真剣に首を縦に振る。一月も半ば。どんどん冬が深まっていく。
posted at 23:58:29 10/01/21


49
「旅行をする?」そうなの、だから来週まで来れないの。告げると冬の王は、気にしない様子で生返事を返してくる。「一緒に行けると楽しいのにね」「そうだろうか」やっぱり人間とは感覚が違うんだろうなぁ。少しだけ淋しいけど、冬の間はここに来れば会えるのだから我慢しよう。
posted at 23:55:40 10/01/22


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2010年01月01日(金)

新しき 一年のさき 潤え夢 選びうかして おくるひととせ
   あたらしき いちねんのさき うるえゆめ えらびうかして おくるひととせ
posted at 14:42:46


2010年01月02日(土)

返す返す 君の名前を口にして 険しい心 言葉にならずに
   かえすがえす きみのなまえをくちにして けわしいこころ ことばにならずに
posted at 18:32:04


2010年01月04日(月)

錆び付いた 知らぬ横顔すまし顔 責められぬまま 背ける羨望
   さびついた しらぬよこがおすましがお せめられぬまま そむけるせんぼう
posted at 18:59:52


2010年01月05日(火)

退屈をちぎり彩る釣鐘の 手に開く花 問うても答えず
   たいくつをちぎりいろどるつりがねの てにひらくはな とうてもこたえず
posted at 00:39:23


2010年01月06日(水)

長雨の滲む夜風の鵺のこえ 寝入るふりして覗き入る顔
   ながあめのにじむよかぜのぬえのこえ ねいるふりしてのぞきいるかお
posted at 20:44:38


2010年01月08日(金)

吐き出した日陰のぬくもり ふるひかり 平穏求め 歩は進む、空
   はきだしたひかげのぬくもり ふるひかり へいおんもとめ ほはすすむ、そら
posted at 19:45:27


2010年01月09日(土)

巻き戻る 磨きかがやく 無垢な笑み 目を閉じたって もうかえらない
   まきもどる みがきかがやく むくなえみ めをとじたって もうかえらない
posted at 16:27:32


2010年01月12日(火)

やがてふる いのちのながめは 雪となり 栄華きわめて 音きえゆかん
   やがてふる いのちのながめは ゆきとなり えいがきわめて をときえゆかん
posted at 23:26:41

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冬に包まれる季節。
詳しくはFirstを参照ください。
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朝斗 〔あさと〕
性別:
非公開
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読書、創作、カラオケ、現実逃避
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