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むせ返るような芳香、甘い蜜。蝶のような優雅さで。 そのカラダに鋭い棘を隠して。
はじめに

ようこそ、偽アカシアへ。
こちらは私、朝斗の今までの作品展示室となっております。

過去作品から随時追加予定です。
同じものを掲載していますが、若干の推敲をしている場合もあります。
詳しくは『はじめに』をご一読ください。
2008.5.6 Asato.S
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カテゴリー《Story》内にある短~中編の目次番外編になります。
安里とアサトと程良く魔王。あと栞。随時追加予定。
1話目にオンマウスで説明が出ます。

  ↑Old New↓ *印は本家未公開作品。
  Sight 憧憬と空想物書きの物語
→“Light” ”Night”


 花電車にて
  
  迎えに来たのは花電車。混沌式擬似宴会開催。

 終幕 ~兵どもは夢の中
  
 幕間 ~向かひて白秋の栄華
   
  戦は広きキャンパスの中。混沌式学園祭開催。 

 花緑青の想ひ
  ■
  乙女の集う園に影法師。混沌櫻花祭開催。

 混沌印は乙女キッスV
  前 後
  苦労性の探偵と、混沌式美人戦士。

 湖面漂う水草のように
  上 中 下
  華やぐ水底に熱帯魚。混沌式古本市開催。

 空想物書きの構想
  序 1 2 3 4 5 6 7 終 // 鍵
  彼女にとっては悪夢のようで、彼女にとっては夢のよう。
  四周年の足跡。

 永遠のせつな 起 承 鋪 叙 結
 後書:永遠の刹那

 ある安里嬢の倦怠的な一日 前 後
 番外:ある携帯電話の変則的な一日 ◆

 青時雨 前 後

 白雨の夜と 迷 寧
 

私はあなたになれるけど、

貴方はわたしにはなれない。

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 それから数刻の後、祠を片付けて二人は夏端家邸宅へと向かった。
 屋敷に蔓延していた眷属も平和的且つ合法的にお帰り頂いた。御神体、『刀』の切れ端は新しく布を丁寧に巻き直し、翠仙がしたためた符札と共に祠に納めた。
 奉るということは、こういうことである。

 手際良く全てを終わらせた二人を、感心と猜疑が混じった目で見つめる。
 けれど夏端家の者達は、確かに家の中が清められた気配を感じていた。足音も障子の影も、異形の列が跋扈する夢さえももう見ることはないのだと、漠然と理解していた。

「以上で、私共の仕事は終わりです。あとは何年かに一度、あの祠の手入れを怠らなければ悪いことは起こらないでしょう」
 厳粛に、常葉は頭を下げた。その後ろには相変わらず影に隠れるように少女が潜んでいたが、夏端はもう何も奇妙に思うことはなかった。そろそろ飽き始めているらしい横顔も、今では神々しく、また微笑ましく見える。

「ありがとうございました」

 頭を垂れる。瞳を潤ませながら感謝の意を唱える母と妻の姿に、夏端はこの上ない幸福と安堵を憶えた。
 こんなにも早く解放されるなら、何故もっと早く彼らを頼らなかったのか。否、今となっては変わらぬ話だ。ただ我が家に戻ってきた平穏を噛み締めながら、その真っ白な後姿を見送った。

 
 彼が再び薊堂を訪れたのは、二人が夏端家を治めた一週間後のことである。
「お陰様で妙な事も起こらなくなりました。祠も毎年掃除をするように取り決めました」
 前と同じように二階の洋室に通され、よく冷えた麦茶を勧められながら礼を述べる。少女は眠りこそしていなかったが、やはり長いソファの上で寝そべっていた。
「お役に立てたようで何よりです」
 常葉が心から喜ばしげに微笑む。値段があまりに良心的だったため少々不安に思っていたが、どうやら正しいらしい。夏端は思い出したように、携えてきた袋を常葉に差し出した。

「そうだ、これ」
 テーブルの上に揚げられた白い紙袋。常葉は一瞬だけ怪訝な顔をして、勧められるままにそれを受け取る。取り出してみると、更に紙で包まれた箱が入っていた。

「あの、この油揚げをお嬢ちゃんに」
 その言葉に、常葉が驚嘆の表情を浮かべる。
「戴いても宜しいんですか」
「ええ。ウチは代々にがり屋なもので」

 言い訳染みた言葉ではあったが、夏端の家が豆富屋であることは事実だった。それにやはり、狐には油揚げが良いと考えたのだ。ちらりと青年の後ろに目をやると、少女もまた首をもたげてこちらを見ていた。
 それから幾度と礼を述べる常葉に暇を告げ、夏端は薊堂を後にした。

「またお困りのことがあれば、どうぞ薊堂へ」
 深く下げられた頭に会釈を返す。きっとここに来ることはもうないのだろう。そう思うと嬉しくもあり、少し淋しくもあった。
 
 

 夏端が扉を出て行ったのを見送って、常葉はソファの上の少女を振り返った。
「翠仙、油揚げを貰ったよ。どうしようか」
 何やらそわそわと落ち着きを欠いた動向。いつもより喜色の強い微笑みに翠仙は溜め息を吐く。
「どうしようも何も」
 暫く不満げにその様子を見ていたが、やがて目を逸らして呆れた顔。それから面倒臭そうに彼の名前を呼んだ。

「…常葉」
「なにかな?」
「しっぽ出てる」

 うきうきとした言葉を断ち切るように。常葉はとっさに自らの尻を隠す仕草をして、まるで犬が自分のそれを追いかけるようにくるりと体を回した。
「嘘よ。冗談」
 視界の端でそれを追いながら、翠仙は益々呆れたように肘掛に頬杖をついた。
 

 時刻は丁度お八つ時。
 結局、煮浸しにした油揚げを全部常葉にやって、少女は静かに麦茶で喉を潤していた。
 こうも至福そうに食べる姿を見ると、油揚げはそんなにまで美味しいものだったかと錯覚する。
「ほんとに…人間の真似、上手いよねぇ」
 滅多に座らない執務机に向かい、薊堂の主人・浅見翠仙は感心したように言葉を洩らした。
 それに何を思ったか、常葉は得意げに胸を張る。

「まぁまぁ。それもこれも妖のなせる業だよ」

 そう言って悪戯っぽく片目を瞑ってみせるが、嬉しそうに油揚げを頬張る後では到底格好もつかないと、少女は重ねて思うのだった。
完.

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「これが祠かぁ」

 話に聞いた、何を奉っているとも知れない小さな祠。けれどそれがただの飾りでないことは、張り巡らされた注連縄と頑丈な石の造りから見て取れる。

「御狐様ではないみたいだけど」
 翠仙は四方八方から遠慮なしに祠を眺めた。歪んだ気は確かに感じるが、ここに来る間に随分薄れてしまったので正体がよく判らない。立ったりしゃがんだりと、奇妙な所がないかと探し回る。時折手を伸ばしながら。
「あれ。なんだろ」
 祠の厨子が開いて中が見える。その中には傷付き風雨に汚れた御神体が転がっていた。
 文字通り転がっているのだ。ボロボロの布に包まれた何かが正しい場所に納まるでもなく、扉の内側に倒れ込んでいる。翠仙はそれを拾い上げようとして、何かを察して指先を宙で止める。

「翠仙!」
 傾斜を見下ろすと、数メートル下に常葉の姿があった。足場の悪い道をそろりそろりと登ってくる。
「あら、貴方まで来たの? 別にいいのに」
 翠仙は林檎飴のついていた割り箸を袋に仕舞うと、スカートのポケットに押し込んだ。常葉の到着を待たずに何かを唱える。

 時の流れのような、滾々(こんこん)と湧きいずる言葉の鎖。それは祝詞のようでも真言のようでもあった。
 そして鎖の終わりにはっきりと、喉の奥から言葉を発する。
「臨兵闘者皆陣列在前」
 両の手で結ぶのは九文字の印。曰く、『兵に臨みて闘ふ者は皆陣列の前に在り』と。いかなる敵でさえ恐れるに足りないのだと、つまりは挑発だった。
 最後の一文字を結び終わるか終わらないかのうちに、彼女の体を突風が包む。
 風の源は、厨子の中だった。風と共に声が鳴る。

『知った口を聞くな、小娘』

 腹の底、脳の奥に直接響くような『声』。男とも女とも、子供とも老人ともつかぬ、それでいて憤りの感情だけは籠った声だった。
 それでも少女が怯む筈は無く。

「小娘じゃないわ。翠仙よ」

 むしろ堂々と祠の主を見上げる。また別の風が、翠仙を守るように包み込む。
 ふいに声の調子が変わった。
『おや…その気配、人の姿はしているが人ではないな』
 ちょっと興が削がれたような顔つきの翠仙と、その傍らに静かに佇む常葉を見て、声の主が嗤う。
 そして何かを透かし見るように、
『承知、承知。人間の側に寝返った狐が居ると聞いたことがあるぞ』
 暗闇とも陽炎とも判らない、網膜に映りこまないその何か。けれど翠仙の瞳は真っ直ぐに声の主を見据えていた。彼女には『見えて』いるのだ。
「寝返ったわけじゃないわよ。元々はヒトも妖怪も、助け合って生きてきたでしょう」
 誰かの真似をして、つまらなそうに肩をすくめる仕草をする。それから、にやりと表情を改めて傍らの青年に視線をやる。
「――なんて。そんなこと、どうでもいいんだけどね。ねぇ、常葉?」
「そうだね。僕も翠仙も、自分の居たい場所に居るのだから何も問題はない」
 少女に応えるように青年もくすりと微笑する。
 その言葉に益々気を良くしたのか、翠仙はにいっと笑った。

「それこそ、誰かにとやかく言われる必要もね」

 日の光の下だというのに、少女の眼光が鋭く色付いたように見えた。

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冬に包まれる季節。
詳しくはFirstを参照ください。
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