忍者ブログ
むせ返るような芳香、甘い蜜。蝶のような優雅さで。 そのカラダに鋭い棘を隠して。
はじめに

ようこそ、偽アカシアへ。
こちらは私、朝斗の今までの作品展示室となっております。

過去作品から随時追加予定です。
同じものを掲載していますが、若干の推敲をしている場合もあります。
詳しくは『はじめに』をご一読ください。
2008.5.6 Asato.S
[192]  [191]  [190]  [189]  [188]  [187]  [185]  [184]  [183]  [181]  [180
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

 足音が聞こえた気がして顔を上げた。
 ――きっと、破滅の足音だ。





 日の落ちたアーケード街は、また新たな人工光で彩られていた。
 人の行き来は絶えない。夜の到来を忘れたように皆、何食わぬ顔をして日常の中の非日常を楽しんでいる。
 仕事終わりのOLや学校帰りの学生達。生き急ぐ中でふと呼吸をする、そんなひととき。こうして見ると、この世界の表面のなんと平和なことか。
 
 ふいに、少し前をクレープ片手に歩く少女に目を戻す。
 市内の某私立高校の制服。彼女の工夫で襟や袖口にレースがあしらわれた白いセーラー。ウインドウ・ショッピングを楽しむその様子は、この通りを歩く他の人間達と何ら変わらない。
 
 ブランド店のショーウインドウに自分達の影が映る。少女の数歩後ろを無表情でついていく自分の姿、硝子越しに見る少女の横顔。それに一瞬だけ、幻想が過ぎる。
 本当は今も表の世界を生きていて、その中で『彼女』と街の中を歩いている。そんな、自分でも見ていることに気がつかないほどの泡夢。
 俺が今の俺でなく、目の前にいるのは彼女ではなく。

「さ――」
 硝子の中の雑貨に夢中になっている横顔に声をかけようとした。口をつきそうになった名前に思考が停止する。

 違う、今のは夢だ。壊れてしまった夢。
 俺のたった一人の、最後の家族だった人。
 皮肉だと思った。どこか彼女に似た『彼女』と組むことになるなど。

「なにしてるの、黄泉。行くわよ」

 我知らず硝子の向こうの自分を見据えていた。
 彼女の無邪気な笑顔に、甘く苦いものが込み上げる。

 
 

 
 
 西の空まで暗くなって、身を隠す場所に困ることはなかった。
 なんとか逃げ切ったようだが、右の肩の損傷が酷い。あまり遠くまで行くことは出来なそうだ。
 それでも、少しでも遠くへ。彼らの心臓の音が聞こえなくなるくらいは遠くへ。
 
 暗い路地裏に息を潜ませながら生体機能の回復を待つ。息は白く淡い。コンクリートが冷たいのかこの指先が冷たいのか、分からなくなっていた。
 逃げ切れるとは思っていない。『あれ』が俺にとって…俺達にとってどれだけ重要な情報なのかは、自身が良く理解している。
 だからこそ持ち出した。この過ちを終わらせるために。

 俺に生命を教えてくれたひと。
 創られた俺達の、辿り着く先が同じなのかは分からないけれど。
 辿り着く場所があるのかも分からないけれど。
 いや、それは『人間』であっても同じか。
 
 何でもいい。誰でもいい。
 あの子の居ない場所なら、どこだって同じだ。泡のように消えたって。

 ただ――もう少しだけ。
 俺にはやらなきゃいけないことがあるから、もう少しだけ。
 
 待ち受けるのが崩壊で、その前に進むことが出来なくても。
 全てが消えたとしても。

 だから。

「――匿って」
 
 
 その気配を読み取って、俺は顔を上げた。
 



 
 
 胸に耳を押し当てていた。
 あんなに遠ざかりたかった音なのに、今はこんなに温かい。


* * * * *

前作『黎明』のサイドストーリー的扱いになります。
今回は常田ではなく、少年と青年の視点から。

多くを語らない、彼らの心の内。

何を抱えて闇の中を走っているのか。
誰の名前を呼んでいるのか。


行き着く先は、何処なのか。

拍手[0回]

PR
この記事にコメントする
name
title
color
mail
URL
comment
password   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
この記事へのトラックバック
Welcome
冬に包まれる季節。
詳しくはFirstを参照ください。
つぶやき
ブログ内検索

プロフィール
HN:
朝斗 〔あさと〕
性別:
非公開
趣味:
読書、創作、カラオケ、現実逃避
のうない
最古記事
はじめてのかたは此方から。
最新コメント
メモマークは『お返事有り』を表します。
[05/09 彗花]
[05/07 天風 涼]
[05/06 朝斗]
[05/06 朝斗]
[05/06 朝斗]
バーコード
もくそく
Powered by Ninja Blog Photo by COQU118 Template by CHELLCY / 忍者ブログ / [PR]