ようこそ、偽アカシアへ。
こちらは私、朝斗の今までの作品展示室となっております。
過去作品から随時追加予定です。
同じものを掲載していますが、若干の推敲をしている場合もあります。
詳しくは『はじめに』をご一読ください。
プラグインにもリンクは並んでいますが、説明も兼ねて改めて紹介を。
そらごとAurora 朝斗
私の雑記・創作ごちゃまぜのブログです。ここを別館とすると本館扱いになります。
基本は日記です。ここに更新していない小説も多々あります。
携帯特化ですがPCからも見易いのでどうぞ。
nAKEd AKE
現実でも電脳世界でも御友達のAKEちゃんの創作ブログです。
彼女の作品は私のものより地に足の着いた創りになっていますので、落ち着いた作品を読みたい方はこちらへ。
背筋の寒くなる幻想的ファンタジーを得意としています。
いつもは昼過ぎまで眠る土曜の朝。空は快晴。玄関で靴を履いていると、お母さんが背後から不思議そうに声をかけてきた。
「早いわね。出かけるの?」
「ああ…うん。ちょっと買い物に行ってくるね」
勿論買い物ではないのだけれど。それでもお母さんには微塵も疑う様子はない。
「お昼は?」
そう聞かれて、少しの間考える。お昼まで帰れるかどうかはパズルを取り戻せるかにかかってる。
「うーん…もしかしたら食べてくるかも?」
私はこれ以上いるとボロが出ると思い、急いで玄関を出た。
公園には10分で到着した。そこでは近所の子供達が遊具で遊んでいたけれど、さすがにその中にあの少女の姿はなかった。
そういえば、時間の約束をしていなかったな。
藤棚の下に腰掛けて、腕時計を見ようとして気がついた。
どうするんだろう? 彼女が来るまで、私はずっと公園で時間を潰さないといけないのかな?
しかし、それは杞憂だった。
なぜならそれから幾らもしないうちに、彼女がやってきたからだ。
「サキ」
聞き覚えのある、ちょっと気の強そうな声。そして妙な呼び方。きっとカナリアだ。声のしたほうを見る。
そして呆然とした。
そう。確かにそこに彼女はいた。しかし、それは地上の話ではなかった。
彼女は空中に浮いていたのだ。
正しく言うと、どこかから下降してきた感じだ。おそらくは、空の上から。
「少し待たせたかしらね」
彼女はふわりと地面に下り立った。服の乱れを直していると、続いて白ハトが降りて来て肩に留まった。
登場の仕方にもびっくりしたけれど、更に驚いたのは彼女の容姿だった。
「カナリア…?」
太陽の下で見る彼女は、青空色の髪と夕空色の瞳をしていた。きらきらと輝くような晴れ空。透けるような、薄い青色だった。それと対を成すような、黄金にも近い橙色。少し青色がかっているように見えるのは、やはり夕空を模したものだからなのかもしれない。
そしてワンピースは紺。もしかしたら、夜空を彩った色なのだろうか。所々にレースが施されていて、その色のお陰でどことなく大人っぽく優雅に見える。髪の色とよく合っていた。
全身で、空の全てを表したような色遣い。
今までにカナリアには二回会っていたけれど、どちらも夕闇の中で気がつかなかった。
「その色…ホンモノなの?」
つまりは、地毛で、天然でその色なのかということだ。カナリアはこくりと頷く。
「そうよ。空を任された者は、空と同じ色を持つの」
彼女は白ハトの羽を撫でた。
それにしても、昨日の『証拠』よりも、今の登場の仕方とこちら容姿の方が見た目分かりやすかった気がする。
私の心中などつゆ知らず、彼女は今日の本題に入った。
「『冬』についての情報を集めてくるのに少しかかったの。それから、彼のことをどうするかも評議してきたわ」
評議。どうやら空を任された者というのは大勢いるらしい。
「やはりサキが出会った冬は日本の指揮みたいね」
どうでもいいけど四季を指揮するって言葉としてややこしいな。
「破片を自由に使えない彼はまだこの近くにいる可能性が高いわ。そして暖かいのは苦手だから、涼しい場所か高い場所に潜んでいるというのが話し合った結果よ」
「この辺で涼しい場所か高い場所…今の時期はクーラーもまだ入っていないし…」
私が考え込んでいると、カナリアの白ハトが鳴いた。それを聞いて顔を上げる。するとハトは私のほうを向いてクルルと声を発していた。
カナリアはその頭を撫でた。
「だいたいは、この子が空を追ってくれるから分かるわ」
「わ…私は持ってないよ?」
「分かってるわよ」
一応断ってみたけど、彼女の言い方は容赦ない。それから、私の背後を指さして言う。
「冬は向こう。ここから南東のほうにいるのよ」
南東。それは明らかに、繁華街がある方向だった。
ごめんねお母さん。やっぱりお昼までには帰れそうにない。
そうして私たちは町の東にある入り江にたどり着きました。
ローリエさんによれば、ここで青の絵の具は見つかるということでした。
でも、どうしたら見つかるんだろう?
こんなに広い海で、小川から流れた水がどこにたどり着くかも分からないのに。
すると、セシルが打ち寄せる波に向かって大声で呼びかけました。
「マロウ、いるんだろう? 僕だよ。セシル・ルクリアだ。顔を出してくれないか」
誰が、と聞き返そうとしたとき、波の合間から女の人が姿を現しました。
綺麗な女の人でした。
ただ、足の変わりに青く輝く尾ヒレがついています。
それは人魚でした。
どこからどう見ても、絵本で見た人魚そのものでした。
物語の中でしか知らない人魚が、私の目の前にいました。
「セシルではありませんか。どうしました」
海と同じ澄んだ色の髪と瞳。
その声も、硝子のように透き通っていました。
「ちょっと探し物をしていてね。この辺の事は君がよく知ってる。このぐらいの、小さなガラスの小瓶を知らないかい。中に海の青が入っているんだが」
「分かりました、探してみましょう。少し、待っていてください」
そういい残すと、人魚は再び海に消えていきました。
「今のは人魚でしょ? 本当にいるのね、すごい!」
私は興奮気味にセシルに尋ねました。
山で会ったクインスも、森で会ったローリエも。
あの人たちを見た時は信じられなかったけど、これで本当に分かりました。
セシルの言う事は全て本当の事なのだと。
「山には竜、森には精霊、海には人魚がいる。なかなか会えるものじゃない。今日は良い体験だったね」
セシルは頷くと、私の頭をそっと撫でました。
「ねえ、どうしてセシルは人魚や竜と知り合いなの?よくわからないけど、神様とか、本当はそういうすごい人なの?」
「そんなことはない。僕はただの絵描きだよ」
なんだかうまくごまかされた気がしました。
ちゃんと問いただそうとしたとき、水面からさっきのマロウという人魚が顔を出しました。
「ありましたよ、セシル。ですが」
人魚は大事そうに握っていた手を開きました。
中には空っぽの絵の具の瓶が入っていました。
どうやら中身はこぼれてしまったようです。
けれどセシルは驚くこともなく、ただ一度頷きました。
「ああ、やはりね。どうもありがとう」
マロウは小瓶をセシルに渡し、そのまま海へと帰っていきました。