忍者ブログ
むせ返るような芳香、甘い蜜。蝶のような優雅さで。 そのカラダに鋭い棘を隠して。
はじめに

ようこそ、偽アカシアへ。
こちらは私、朝斗の今までの作品展示室となっております。

過去作品から随時追加予定です。
同じものを掲載していますが、若干の推敲をしている場合もあります。
詳しくは『はじめに』をご一読ください。
2008.5.6 Asato.S
[47]  [48]  [49]  [50]  [51]  [52]  [53]  [54]  [55]  [56]  [57
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

 そして男は、ぷつりと事切れました。

 足元から崩れるようにして真白の曼珠沙華の上に倒れ、そのまま動かなくなりました。
 刹那、どこかで、硝子の割れるような音がしました。
 
 私は息を呑みました。
 今まで聞こえていた男の息遣いがしない。近付いて確認することは出来ないけれど、彼が『死』を迎えたことは痛いほどに理解しました。
 
 
 ゆらり。何度目かの白い夜の揺らぎ。
 するとそれに共鳴するように男の身体が揺れました。
 
 ゆらり、くらり。
 静かに静かに、輪郭が薄れて消えてゆきます。
 星が瞬く様に揺れ、夜露の様に輝きながら。
 少しずつ霧の中に溶け出して。
 
 
 幾許かの後に、男の身体はすっかり見えなくなりました。
 
 何が起こったのか、よく分かりません。
 しかしそれは…

 やがて、立華が嘆息を漏らしました。
 
 
「魂が放(はな)れるさまはいつ見ても美しいねぇ」
 
 
 うっとりと見惚れるように、今まで男の体躯が横たわっていた草原の上を眺めていました。
 一方の私は、やっと声を絞り出せただけ。
 
「あたしは…怖い」
 
「綺麗なものというのは、得てして畏ろしいものさ」

 
 そう。怖いのです。綺麗で恐ろしい。
 
 人の最期なのに。
 美しく思っている自分が怖い。
 
 掻き消えた男の魂も、妖しく嗤う立華も、震えながら羨望に似た眼差しで見つめるだけ。
 
 しかし心は、氷の塊のように澄んでいました。

拍手[0回]

PR
「おはよう、結衣」 
 月曜日の朝。私は教室で智美と顔を合わせた。 
「あ…おはよ」 
 意味ありげな表情で私の元へやってくる。 
 そしてこちらに右の手のひらを見せる。まるで誰かの仕草みたいで、一瞬ぎくりとした。彼女はニヤリと笑った。 
「ケーキ代」 

 智美の話によると、土曜日、紛れもなく私は彼女達と会ったらしい。カフェのテラスで外国人の少女とケーキを食べていたと。 

 つまりあれは、あの出来事はやっぱり現実。 

 空の破片を探す少女に会って、冬から破片を取り返して。空に昇って、破片を元に戻して。挙句の果てには空を落ちた。 
 目まぐるしかったけど、死ぬかもと思ったけど、あれが全て夢だとは思いたくなかった。 
 むしろ、絶対に経験できないことをたくさん出来て楽しかった。 
 確かに、たいへんではあったけれど。 



「今日も、空は綺麗」 

 あれからもう1ヶ月。季節はとっくに夏に変わっていた。 
 広い空には入道雲。焼け付くような太陽の陽射し。夕方になれば、鮮やかな夕陽。 
 私は、いつものように家に帰りついた。 

 今日も平和だ。空に比べれば、少しスリルに欠けるけど。 
 今頃、どうしてるかな? 
 夏の仕事で忙しかったりするのかな。 

 玄関の前にやってきてドアノブに手をかける。すると、背後から誰かが私を呼んだ。 

「サキ」 

 私は弾かれたように振り返る。 
 聞き覚えのある声、聞き覚えのある妙な呼び方。 
「うそ…っ!」 
 私の顔を見るなり、彼女は微笑んだ。懐かしい顔だった。 

「どうして、ここに?」 
「挨拶はないの? まったく、相変わらずなってないわね」 
 少し気の強そうな態度と、鈴を転がす声。 
 空色の長い髪、夕陽色の瞳。紺色のワンピース。そしてその肩には、一羽の真っ白なハト。 
「冗談だよ」 
 私もクスリと笑い返した。そして、ノブに伸ばしていた手をそっと下ろした。 
 それから時計を見る。うん、あのカフェが閉まるまでは、まだ時間がある。 


「じゃあとりあえず、ケーキでもどう?」 


Fin.

Thanks to your reading. 

≪Back

拍手[0回]

 息が苦しい。
 最初は、どうして苦しいのか分からなかった。強い風にあおられているかのように、服や髪がはためいた。
 目の前の景色が、雲一面から街の上空に変わった。
 そこで気がつく。
「落ち…てる…っ!?」
 え?え?どうして?
 さっきまで、ふわふわと浮いていられたのに!

 その時、誰かが私の右手を掴んだ。目まぐるしく変化していた景色が速度を落とす。
「うっかりしてたわ。人間は飛べないのよね」
 鈴を転がしたような澄んだ声。右手の先を見ると、カナリアが私の手を握っていた。
「どうして、急にっ」
 私は空気を体内に取り込みながら、切れ切れに聞いた。
「破片を放したからよ」カナリアは澄まして言う。
「だったら、先に行ってよ!」
「だからうっかりしてたのよ」
 もう抗議する気にもなれなかった。
 とにかく、彼女と手を繋いでいる限りは大丈夫みたいだ。今はゆっくりと下降している。
「ちょっと待ってて」

 ふいに彼女が開いている手を上にかざした。
 空に向かって、そこにある何かを撫でるような仕草。

 すると、さらさらと雨が降り出した。
 どしゃ降りではないけれど、はっきり雫が見て取れるほどの大粒の雨。晴れているのに雨が降る。キツネの嫁入りだ。
「よし。ちゃんと繋がってるわね」
 彼女が手を下ろすと、すぐに雨は止んだ。そうして満足そうに頷く。
「これで、完全に元通りね。お疲れ様」
「カナリアも、お疲れさま」
 すると少女は私の両手をしっかりと握った。真っ直ぐに目を見つめる。

「あとは、空がどうなるかは、あなた達にかかっているのよ」
 私は頷いた。

 うん。同じ空の下にいて、カナリアを、イヴェールの気持ちを裏切らないように。
 みんなの空だから、みんなで大切にしなきゃいけない。

 彼女は繋ぐ手をまた片手に戻す。
「帰りはあそこから帰りなさい」
 雨上がりの空に、七色の橋がかかっていた。カナリアはその橋を示した。
「虹…?」
 でも、どこを歩けばいいんだろう。行きの透明階段みたいに、実態がなくても大丈夫なのかな。
 もう少しで虹に手が届く、という距離まで来ると、突然カナリアは手を放した。私は虹めがけてまた落下する。

「じゃあね、サキ。またどこかでね」

「え、ちょっと、待っ…!」
 慌ててもう一度手を伸ばすものの、彼女が私の手を握り返す様子はない。空中に停止したままで手を振っていた。
「ケーキ、美味しかったわ。ありがとう」
 彼女の満面の笑みに見送られながら、私は虹の上に着地した。良かった、やっぱり歩けるんだ、と安堵したのも束の間。

 すべった。滑り台だった。
「階段じゃ…ないのっ!?」
 カナリアの笑顔が段々と遠ざかる。その側に白いハトが飛んでくるのが、かろうじて確認できた。
 滑るすべる。というよりはもう、落ちる。ほとんど真っ逆さまに落ちている。さっきのヒモなしバンジーより速度は遅いものの、安全性は微塵も感じられない。
 私、しぬ?
 下の透ける虹の間から、私は次第に近づく街の景色を見ていた。
まさかね。あんなファンタジーな体験しておいて、最後だけ現実的な展開が待ってたりしないよね?

 …しないよね?
 うんって言ってよ、カナリアっ!

 思わず目を閉じたその時。

 突然、何の前触れもなく地面が現れた。
 べしゃ、という効果音のもと、私は地面に倒れた。というか、転んだ。
「いたぁ…」
 前のめりだったから、ヒザや手が痛い。打ち付けたところをさすりながら体を起こすと、誰かが私の名前を呼んだ。

「結衣?」

 驚いて辺りを見回す。すると、母親がジョウロを持ったままで首をかしげている。
「お帰り。なにしてるの? そんなところで」
「何って…あれ?」
 落ち着いて、もう一度辺りを見る。

 すると。
 私がいたのは、私の家の玄関先だった。
 とっさに空を見上げる。


 そこには、色の薄れた虹がかかっていた。

Next is the last.

拍手[0回]

Welcome
冬に包まれる季節。
詳しくはFirstを参照ください。
つぶやき
ブログ内検索

プロフィール
HN:
朝斗 〔あさと〕
性別:
非公開
趣味:
読書、創作、カラオケ、現実逃避
のうない
最古記事
はじめてのかたは此方から。
最新コメント
メモマークは『お返事有り』を表します。
[05/09 彗花]
[05/07 天風 涼]
[05/06 朝斗]
[05/06 朝斗]
[05/06 朝斗]
バーコード
もくそく
Powered by Ninja Blog Photo by COQU118 Template by CHELLCY / 忍者ブログ / [PR]