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むせ返るような芳香、甘い蜜。蝶のような優雅さで。 そのカラダに鋭い棘を隠して。
はじめに

ようこそ、偽アカシアへ。
こちらは私、朝斗の今までの作品展示室となっております。

過去作品から随時追加予定です。
同じものを掲載していますが、若干の推敲をしている場合もあります。
詳しくは『はじめに』をご一読ください。
2008.5.6 Asato.S
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足早に抜ける舗装道
ざわめく喧騒の中で見失う

明日と今日の隙間の
過去と夢の違いを

違うわ 目を覚まして
空に浮かぶのは月だけじゃない

この青い星の上
生まれたことさえも奇跡

高い高い空に向けて
精一杯手を伸ばすの

届かなくても
どんなにちっぽけでも


* * *

童話シリーズ第6弾。


おやゆび姫。
サンベリーナ。
これは絵本のほかに、ディズニーの作品で見た気がします。
あまり有名じゃないかもしれないけれど。

お盆に水を張って、花びらで船遊びっていうのが羨ましかった。

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 それは、この大地の出来事ではなく、遥か天上にある空の街の話。

 雲上に隠されたその街の入口には、大きな門がある。出るのは自由な街だが、入るにはその門をくぐる他に方法はない。
 ある年、新たな門番が役職に就いた。鮮やかな翡翠色の髪と瞳を持つ青年である。

「さて…今日もいい空だなぁ」
 人間界の尺度で言うと見た目18~9歳の彼は、数年の見習い期間を経て、今季から正式にこの門を守る門番になった。

 彼の名をジェイド。
 その髪と瞳に相応しい、宝石の名を持つ青年だ。
 
 
 中央に純白の宮殿を据えたその街は、空を司る場所。
 雨を降らせ、雲を流し、風を吹かせ、陽光を照らす。滞りなく季節を廻らすのが、街に住まう者の役目。

「しっかり仕事してるみたいだな」

 ジェイドが鳥の数の確認をしていると、宮殿の方から一人の青年がやってきて、彼に声をかけた。
「ハル!もう冬からの引継ぎは終わったのかい」
 若葉色の髪を後ろで束ねたその青年は、ハル。春を司る者の一人で、ジェイドの昔からの友人でもある。
 ハルは呆れたように彼を見た。
「数日前にな。『冬』が帰るところを見なかったのか?」
「ああそういえば、冬の鳥も残らず返っていたかな」
 ジェイドは、門の鍵となる『鳥』達が既に飛び去った後だったのを思い出した。彼の暢気さに溜め息をつく春の司者。
「お前はイマイチ詰めが甘い」

 ふと、ハルの背後で紺色の何かがひらひらと動いた。
 それに目をやって、ジェイドが尋ねる。

「その子は…?」

 馴染みの春の司者の後ろに、小さな少女が隠れていた。空色のゆるいウェーブ髪とカナリア色の瞳。揺れていた紺色は、彼女が纏っていたワンピースの色だった。幼い少女は、人間で言う所の10歳前後といったところか。

「空の見習いだ。将来は春夏のサポートの役目に就く」
「で、キミが世話係というわけか」
 ハルは背後から少女を引っ張り出して、ジェイドに紹介した。
「綺麗な瞳だね。鮮やかなカナリア色だ」
 空見習いの少女は、目の前に立つ門番を見て緊張したまま動かない。そんな彼女にジェイドはにこりと笑いかける。

「ほら、挨拶は?」
 それでも黙ったままの少女を、ハルが促した。すると、やっと小さな声が発せられる。

「…はじめまして…」

 大人しい少女を警戒させないよう、ジェイドは目線を合わせ、優しく笑いかけた。
 するとやっと、少女もはにかむ様に微笑んだのだ。

「初めまして。僕は門番のジェイドだよ。君の名前は?」
 
「…カナリア」

 
 新米の門番と、小さな空の司者。
 それが、二人の出会いだった。

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 ガラスの向こうの彼は、楽しげに笑っていた。

 ブースの中からの、スピーカーを通して、彼の声を聞く。バスというよりテノールの、耳に心地良い澄んだ声。
 それはいつもと同じ。ラジオの前で正座する水曜の夜と同じ。
 でも違うのは、すぐ目の前に彼がいる。

 ガラスを一枚隔てたその場所で、聞き慣れた声で。子供っぽさを残した無邪気さで、身振り手振りを交えながら。
 目の前で、誰かのメールを読み上げる。
 私は呆然と立ち尽くした。
 
 ――今日はたくさんのリスナーさんが見に来てくれてまーす。
 
 そう言って、こちらに手を振る。
 沸き上がる歓声。
 
 胸の奥がゴウと熱くなった。
 あぁ、もういいや。
 あの笑顔が私だけのものじゃないと分かってるけど、それでもいいや。

 
 瞬きをするあいだのような、あっという間の30分。まだ夢から覚めていない心地のままで、私は人の波の中に居た。
 ビルから外に出ると街の喧騒が広がる。夏を目前に控えた都会の夕刻は、じわりと暑かった。

 
 人の波を縫う様に擦り抜けて、待ち合わせ場所へ。
 駅前のドトールで、女友達はコーヒーを飲んでいた。
 席に着くなり、ニヤリ笑顔が向けられる。

 
「どうだった?」

 一息をつく間もないまま、私は答える。


「よかった」

 胸がいっぱいすぎて、それしか言えなかった。

 この気持ちをどうして表現すればいいのだろう。
 目を閉じればまだ彼の姿が焼き付いているのに、耳の奥で彼の声が木霊しているのに。それを伝える言葉を、私は持ち合わせていない。
 
「よかった。凄くよかった。素敵だった」

 似たような言葉ばかりを並べて、でもやっぱり言い表せなくて。
 興奮したままの私の言葉に、彼女は優しく微笑んだ。
 そっか。

「それは良かったじゃない」

「うん」


 うん、うんと必死に頷いて。
 もう声すら出せなかった。
 からり。
 グラスの中で氷が音を立てた。
 よく澄んだ、涼しげな音だった。


「それじゃ、次はライブに行かなきゃね」


 泣きそうな私の頭をくしゃりと撫でてくれて。
 また、壊れた人形のように何度も頷くしかできなくて。

 
 よかったよ。
 すごくすごく、良かった。
 出逢えて良かった。
 

 涙を零す瞼の中の暗闇で、あの人は今も無邪気に微笑んでいた。
 
 そうして私は、ますます彼のファンになる。

Fin.

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Welcome
冬に包まれる季節。
詳しくはFirstを参照ください。
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