忍者ブログ
むせ返るような芳香、甘い蜜。蝶のような優雅さで。 そのカラダに鋭い棘を隠して。
はじめに

ようこそ、偽アカシアへ。
こちらは私、朝斗の今までの作品展示室となっております。

過去作品から随時追加予定です。
同じものを掲載していますが、若干の推敲をしている場合もあります。
詳しくは『はじめに』をご一読ください。
2008.5.6 Asato.S
[121]  [120]  [119]  [118]  [116]  [114]  [112]  [111]  [110]  [109]  [108
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


城壁の中の少女
Closed “Alice” Girl is Endless.


「どうして私なの」

 高い城壁に守られた城。晴天に向かって伸びた塔の上。
 その一角、一際荘厳で華やかな部屋のバルコニーに少女はいた。

 不安を含んだ面持で、何を着ても構わないと言われた服装は西洋の城に不釣り合いのセーラー服のまま。
 まるで要塞のようだと思ったのは連れて来られた最初の日だった。
 そこから見下ろす『街』。あの場所に暮らす誰もが自分の知らない人々という事実は、果たして幸福なことなのか。
 少女はちらりと背後に目をやった。長椅子の傍に、厳かに青年が控えていた。
 少女とは対照的に室内に溶け込むような落ち着いた洋装。それは彼が、この城に仕える人間の一人だという証でもあった。
 顔色一つ変えない彼を見て、少女は力なく不満を訴える。


「どうして私を連れて来たの」

 それは何度も繰り返された問答だった。
 泣き枯らしたような乾いた声と瞳。顔には既に諦めが色濃く映し出されていた。

「お願いだから放っておいて。元の場所に返してよ…」

 しかし青年は笑顔を崩さない。子供をあやす母のように見守る者の瞳をたたえたまま。

「大丈夫だよ、『アリス』。貴女は椅子に座っているだけでいいんだから」

 彼は、少女をこの場所に縛り付けた張本人だった。 
 相手は自分のことを知っているのに、自分はこの場所も、彼の事も何一つ分からない。抵抗するには充分の状況なのに、訴えても青年は一向に聞き入れてくれない。

「だったら尚更よ。何故私でなければいけなかったの」

「僕が選んだのだから、間違いはない」

 歩み寄りを見せない二人の対話は会話として機能していない。
 青年は明確な答えを返さず、少女が溜め息を吐いて、問答は終わるはずだった。

 自らを『白ウサギ』だと名乗る男。なんと現実味のない話だろう。それはまるで、遠い異国の童話のようだ。
 答えを求めることもなく、『アリス』の少女は小さく呟いた。

「理不尽よ」


 しかし、そのときだけは違った。

 一拍の後、青年の瞳が、すっと細められる。

拍手[0回]

PR
この記事にコメントする
name
title
color
mail
URL
comment
password   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
この記事へのトラックバック
Welcome
冬に包まれる季節。
詳しくはFirstを参照ください。
つぶやき
ブログ内検索

プロフィール
HN:
朝斗 〔あさと〕
性別:
非公開
趣味:
読書、創作、カラオケ、現実逃避
のうない
最古記事
はじめてのかたは此方から。
最新コメント
メモマークは『お返事有り』を表します。
[05/09 彗花]
[05/07 天風 涼]
[05/06 朝斗]
[05/06 朝斗]
[05/06 朝斗]
バーコード
もくそく
Powered by Ninja Blog Photo by COQU118 Template by CHELLCY / 忍者ブログ / [PR]