むせ返るような芳香、甘い蜜。蝶のような優雅さで。 そのカラダに鋭い棘を隠して。
はじめに
ようこそ、偽アカシアへ。
こちらは私、朝斗の今までの作品展示室となっております。
過去作品から随時追加予定です。
同じものを掲載していますが、若干の推敲をしている場合もあります。
詳しくは『はじめに』をご一読ください。
2008.5.6 Asato.S
城壁の中の少女
Closed “Alice” Girl is Endless.
Closed “Alice” Girl is Endless.
「どうして私なの」
高い城壁に守られた城。晴天に向かって伸びた塔の上。
その一角、一際荘厳で華やかな部屋のバルコニーに少女はいた。
不安を含んだ面持で、何を着ても構わないと言われた服装は西洋の城に不釣り合いのセーラー服のまま。
まるで要塞のようだと思ったのは連れて来られた最初の日だった。
そこから見下ろす『街』。あの場所に暮らす誰もが自分の知らない人々という事実は、果たして幸福なことなのか。
少女はちらりと背後に目をやった。長椅子の傍に、厳かに青年が控えていた。
少女とは対照的に室内に溶け込むような落ち着いた洋装。それは彼が、この城に仕える人間の一人だという証でもあった。
顔色一つ変えない彼を見て、少女は力なく不満を訴える。
「どうして私を連れて来たの」
それは何度も繰り返された問答だった。
泣き枯らしたような乾いた声と瞳。顔には既に諦めが色濃く映し出されていた。
「お願いだから放っておいて。元の場所に返してよ…」
しかし青年は笑顔を崩さない。子供をあやす母のように見守る者の瞳をたたえたまま。
「大丈夫だよ、『アリス』。貴女は椅子に座っているだけでいいんだから」
彼は、少女をこの場所に縛り付けた張本人だった。
相手は自分のことを知っているのに、自分はこの場所も、彼の事も何一つ分からない。抵抗するには充分の状況なのに、訴えても青年は一向に聞き入れてくれない。
「だったら尚更よ。何故私でなければいけなかったの」
「僕が選んだのだから、間違いはない」
歩み寄りを見せない二人の対話は会話として機能していない。
青年は明確な答えを返さず、少女が溜め息を吐いて、問答は終わるはずだった。
自らを『白ウサギ』だと名乗る男。なんと現実味のない話だろう。それはまるで、遠い異国の童話のようだ。
答えを求めることもなく、『アリス』の少女は小さく呟いた。
「理不尽よ」
しかし、そのときだけは違った。
一拍の後、青年の瞳が、すっと細められる。
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