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むせ返るような芳香、甘い蜜。蝶のような優雅さで。 そのカラダに鋭い棘を隠して。
はじめに

ようこそ、偽アカシアへ。
こちらは私、朝斗の今までの作品展示室となっております。

過去作品から随時追加予定です。
同じものを掲載していますが、若干の推敲をしている場合もあります。
詳しくは『はじめに』をご一読ください。
2008.5.6 Asato.S
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at present - this year

31
研ぎ澄まされる寒さの中、幼い頃から通う神社の石段を登る。鳥居の先は橙の灯、どこか遠くで百八の鐘の音。「どうかした?」「なんでもないよ」本当は湖の側に居る銀色の彼のことを思う。初詣で会えないし、年賀状も届かない。陽が登ったら真っ先に会いに行こう。さあ、年が変わる。
posted at 23:34:26 09/12/31


32
霜の下りた芝生をゆっくり渡っていく。早朝の公園はやっぱり人気がないけれど、私が会いに行くのはたったひとり。「おはよう!」銀色の瞳に安堵しながら私は言葉を訂正する。「じゃ、なかった。あけましておめでとう、イヴェール」「おめでとう、ヒナ」新たな年の始まりを祝って。
posted at 14:44:35 10/01/01

*** 

33
「冬の王のくせに暇そうね」何だかんだでお喋りに付き合ってくれる彼は、いつも街の片隅で佇むのを伺うばかり。「何を言う、平和だからこその平穏だろう」それから思い直し「明日は雪だ。充分気をつけるといい」幾分得意気だけど、そんなの今朝の天気予報から知ってる。少し微笑む。
posted at 22:14:08 10/01/05


34
「冬休みも終わっちゃうね」マフラーを巻いてぽつり呟く。「私達はもう学校に来てる訳だけど」「それでも、授業がないのは重大ね」友人の言葉に深く頷いた。「ところで、冬は何処か行ったんだっけ?」「私はいつも通りだよ」いつも通りふらり立ち寄って、のんびり冬の王とお喋り。
posted at 23:16:24 10/01/06


35
「今日も寒いなぁ」音楽室の鍵を閉め、冬木立を眺め廊下をゆく中、階段の踊り場ですれ違う人影。「やぁ、部活帰り?頑張るね」丁寧に頭を下げると彼は柔らかに笑う。「先輩こそ、本番までもう少しですね」「じゃあお互い頑張ろうか」エールを送って別れる。冬は、決意をくれる季節。
posted at 23:19:52 10/01/07



in the past - a year ago

36
冬枯れの中、挨拶が成立したのを良い事に今度は会話を成立させようと通い詰める日々。「ねぇねぇ冬の王様」「何だその妙な呼び方は」「だって、貴方は冬の化身か何かでしょう」我ながら変なことを口走る娘だと思う。刹那、銀の瞳が私を見る。「本当に、妙な者に見つかったものだ」
posted at 23:32:39 10/01/08


37
「冬の王様は物を食べたりしないの?」寒さの中で味わう至福の時を楽しみつつ問いかける。「栄養を摂取する必要がないから、嗜好品だな」私は少し考えてから肉まんを二つに割る。「はい。嗜好品ってことは、食べられない訳ではないんでしょう?」次の日は心なしか太陽が暖かかった。
posted at 22:41:47 10/01/10


38
冬の王が私を僅かに『見る』ようになってからは、天候も異常を来すことはなくなった。彼の元へ通うのも以前みたいに毎日ではないけれど、週に数度窺う彼の顔は随分落ち着いて見える。『あれ』が何を示すのかを今は考えない。ただ今は彼に会い、少しでも笑ってくれたらそれでいい。
posted at 00:10:00 10/01/12



at present - this year

39
今日は部活がないから早々と荷物を纏める。天気も良いし、久々にイヴェールの所に遊びに行こうか。その様子が顔に出ていたのか、友人が笑って「寄り道?」と声をかけてくる。まあね、言葉を濁らせて教室を後にする。仲の良い彼女の瞳が何かを言っていたので、大丈夫だよと手を振る。
posted at 23:55:07 10/01/12


40
今日も公園のベンチに腰掛けて、ココアをお供に冬の王とお喋り。「どうかしたのか」「何も。ただちょっと、思い出してただけだよ」軽く首を振り文庫本のページを捲る。そう、あれは去年の今頃だった。最初にあの子に言われた時は驚いたけれど、今となっては笑みが溢れる出来事。
posted at 23:31:50 10/01/13



in the past - a year ago

 

41
「あんたいつも公園で何見てるの」帰り支度をしていると、ふいに親友に声をかけられた。「何って、本を読みながら白鳥を」勿論それは外見上で、本当は「そうじゃなくて」首を振って遮られる。「あの銀髪の男。人間じゃないでしょう」彼女の真っ直ぐな瞳に、息が詰まった。
posted at 23:48:08 10/01/14


42
「会いたいと言う者が居る?」「そう。私の友達なんだけど、一度話してみたいって」「そうか、私を見れる者もまだ多いのだな」よく聞こえずに首を傾げる。冬の王は顔を上げ「好きにするといい」珍しく素直なのは単に興味が無いだけなのか。とりあえず面会は明日の放課後に決まった。
posted at 23:35:22 10/01/15


43
噴水池に行くと約束通り冬の王が待っていた。銀色の横顔は関心が無さそうなまま、親友の優希はじっと彼を見る。「何か買ってくるね」「あたしも行こうか」「大丈夫!」手を振って近くの自動販売機に走る。二人がどんな話をするのか興味もあるけれど、間が持たなそうなので急ごう。
posted at 23:27:02 10/01/16


44
駆けていく後ろ姿を見送り、池の前に残されたのは二人。冬温い天候の中、少女は傍らに存在する『冬の王』を横目で見やる。あの子の様子が妙だと気づいたのは去年の暮れ、何度か公園で見たのも程無くしてからだ。相手が…人でないと気づいたのも。沈黙を破ったのは少女のほうだった。
posted at 00:53:36 10/01/18


45
「貴方は、冬の遣いね」優希の言葉に冬の王は肯定を示す「あの子は一緒にいて平気?煩くない?」「煩わしい時もあるが害は無い」「じゃあ好き?」「それは」「他の生き物と同等に」「…それなりに」ならいいけど、と真摯な瞳で睨む「陽菜を苛めたり泣かせたりしたら、許さないから」
posted at 01:04:20 10/01/18


46
ココアを両手に戻れば、妙なことに冬の王だけがその場所にいる。「優希は?」「先に帰る、と」「そう…」肩を落とすと、何故か慌て出す冬の王。「何か言ってた?」尋ねても返ってくるのは生返事。けれど彼の機嫌も悪くなさそうだし、今日は常盤木の青色に免じて納得してあげよう。
posted at 23:35:27 10/01/18 



at present - this year

47
「よくそんな事を覚えていたな」感心しているのか呆れているのか、冬の王は静かに頷く。「だって、親友で貴方が見える人のことだもの。それで?」「ん?」「あの時、何を話していたの」見上げたのに、銀色の目は揺るがないまま。「忘れてしまった」今日も冬の空は掠れたように青い。
posted at 23:40:11 10/01/20


48
「それで、今日も行くの?」イヴェールのことを言っているのだと察して頷くと、親友は苦笑い。「冬が好きなら、いいよ」どこか困ったような微笑の意味が分からずに。けれど、どうしても頷き返さないといけない気がして真剣に首を縦に振る。一月も半ば。どんどん冬が深まっていく。
posted at 23:58:29 10/01/21


49
「旅行をする?」そうなの、だから来週まで来れないの。告げると冬の王は、気にしない様子で生返事を返してくる。「一緒に行けると楽しいのにね」「そうだろうか」やっぱり人間とは感覚が違うんだろうなぁ。少しだけ淋しいけど、冬の間はここに来れば会えるのだから我慢しよう。
posted at 23:55:40 10/01/22


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2010年01月01日(金)

新しき 一年のさき 潤え夢 選びうかして おくるひととせ
   あたらしき いちねんのさき うるえゆめ えらびうかして おくるひととせ
posted at 14:42:46


2010年01月02日(土)

返す返す 君の名前を口にして 険しい心 言葉にならずに
   かえすがえす きみのなまえをくちにして けわしいこころ ことばにならずに
posted at 18:32:04


2010年01月04日(月)

錆び付いた 知らぬ横顔すまし顔 責められぬまま 背ける羨望
   さびついた しらぬよこがおすましがお せめられぬまま そむけるせんぼう
posted at 18:59:52


2010年01月05日(火)

退屈をちぎり彩る釣鐘の 手に開く花 問うても答えず
   たいくつをちぎりいろどるつりがねの てにひらくはな とうてもこたえず
posted at 00:39:23


2010年01月06日(水)

長雨の滲む夜風の鵺のこえ 寝入るふりして覗き入る顔
   ながあめのにじむよかぜのぬえのこえ ねいるふりしてのぞきいるかお
posted at 20:44:38


2010年01月08日(金)

吐き出した日陰のぬくもり ふるひかり 平穏求め 歩は進む、空
   はきだしたひかげのぬくもり ふるひかり へいおんもとめ ほはすすむ、そら
posted at 19:45:27


2010年01月09日(土)

巻き戻る 磨きかがやく 無垢な笑み 目を閉じたって もうかえらない
   まきもどる みがきかがやく むくなえみ めをとじたって もうかえらない
posted at 16:27:32


2010年01月12日(火)

やがてふる いのちのながめは 雪となり 栄華きわめて 音きえゆかん
   やがてふる いのちのながめは ゆきとなり えいがきわめて をときえゆかん
posted at 23:26:41

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in the past - a year ago

19
カーテンを開けて息を呑む。夕方まで何ともなかった景色が白銀に埋め尽くされていた。それが積雪だと気付くのに時間がかかる。だって、こんな量の雪なんてスキー場でしか見たことない。『今年は異常な寒波が――』天気予報を耳にしながら、きっと『彼』に何かあるのだと思い耽った。
posted at 00:36:09 09/12/20


20
突然の雪に交通網は停止、学校は休みになった。潰え無く降りしきる細雪の中、私は母に止められるのも聞かず家を出る。行き先は言い訳のコンビニではなく冬の王の元へ。何が出来るか分からないけど、行かなければならないと自分が言っている。だって、他の人に彼は見えないのだから。
posted at 16:44:49 09/12/20


21
困惑で溢れた街も、公園は別世界の様に静まっていた。何日も会うことのない冬の王。けれど今日は見つけられる気がしていた。風に乗り雪が踊る。無音の風は壁となり行く手を阻む。私はそれに逆らう。そして流れが途切れた先には白銀の髪に寂しい枯野色。凍った湖の中央に、彼は佇む。
posted at 01:39:20 09/12/21


22
雪の静寂が声を消す。迷いはなかった。深く曇る氷に踏み出してもう一度。呼応に振り向いた瞳は寂しく見えて、喉奥がチクリと痛む。あの瞳は人間を見ない。冬だけを守り、そこに住む人間を見る事はない。なのに何故泣きそうな顔をしているの?「ねぇ、「帰れ」容赦ない声が距離を遮る
posted at 23:41:09 09/12/21

at present - this year

23
「っくしゅ!」盛大に顔を背け、振り仰げば待っている冬の王の苦笑。「だから寒いと言ったろう」「大丈夫よ。ほら」たった今手に入れてきた果物を袋から披露する。「ほう、用意が良いな」「でしょう?それから」今度は反対の鞄から「かぼちゃのケーキを作ったんだけど、食べない?」
posted at 23:55:44 09/12/22


24
「おはよう」コートに顔を埋めて私は彼に会いに行く。何故だか首を傾げるので「どうかした?」「お前はガクセイだろう?ガッコウはいいのか」クスリと笑うと、冬の王の眉が僅かに上下する。「だって、もう冬休みだもの」だからもっと会いに来るよ。不服そうだけど断られなかった。
posted at 17:54:25 09/12/23


25
今日は何の日?ふわふわの高揚感で冬の王に尋ねる。「降誕祭前夜か」「なんだ、つまんないの」彼がふふ、と笑う「私は冬だ。人間の催す節目とはいえ、冬中に知らぬ物は無い」「じゃあプレゼントね」手渡したのは雪色マフラー。彼の微笑を見れただけで、ここ数日の徹夜が浮かばれる。
posted at 22:50:41 09/12/24


26
午前零時を廻った途端、窓ガラスを何かが叩く。カーテンの先には普段に増して真白な冬の王。「どうしたの?」「いいから、ほら」誘われるまま手を取ると、いつの間にか空の上。頭上に満天の星、足許には街の光。彼は首のマフラーを指し「これの礼だ。それと、『メリークリスマス』」
posted at 00:00:04 09/12/25

in the past - a year ago

27
「聞こえなかったか。帰れ」その瞳は私が入り込むのを良しとしていない。けれど「…嫌よ」苛々が膨らむのと比例して雪の粒が大きく冷たくなっていく。嗚呼、彼は冬だ。だけど彼は一度でも私を見てくれた。今はそれを忘れたくない。「ねぇ、貴方が私達を嫌いでも、私は貴方が好きよ」
posted at 00:43:00 09/12/26


28
僅かに雪が弱まる。狭い視野に呆然と私を見る瞳が映った。「冬が人間を見限っても、私には貴方が見える。だから、どうか」それ以上何を言おうとしたのか自分でも分からない。声が届いたのかさえ、白い息で見えない。足元に亀裂が入る。落ちる。その覚悟を繋ぎ止める何かが在った。
posted at 23:03:21 09/12/26


29
体を包んだのは身を裂く湖水ではなくて、ひやりと柔らかい風。そっと開けた目には私の腕をとる白い掌があった。「愚かな人の子だ」銀の目が揺れる「冬は脅威だ。それでも尚、私を見るというのか」「見るわ」私は精一杯微笑む。冬の王は重ねて愚かだと嘆き、静かに目を伏せた。
posted at 23:41:37 09/12/27


30
帰り道に公園を抜けるのは既に日課。時間があれば毎日のように冬の王に会いに行く。「こんにちは」「…懲りない奴だな」溜息と共に睨まれても私は気付いていた。いつしか言葉を返してくれる様になったのが嬉しくて、たったそれだけの為に用もなく、私は今日も冬空の下を歩いていく。
posted at 23:15:38 09/12/28


→31 

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冬に包まれる季節。
詳しくはFirstを参照ください。
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