ようこそ、偽アカシアへ。
こちらは私、朝斗の今までの作品展示室となっております。
過去作品から随時追加予定です。
同じものを掲載していますが、若干の推敲をしている場合もあります。
詳しくは『はじめに』をご一読ください。
ある日の高校の帰り道。
私は、道端でパズルの欠片を拾った。
その日は特に用事もなかったから、少し早く家路についていた。友人の智美達は部活があって、私が暇だからといって遊ぶわけにはいかない。
晴れ空の下。そうしていつもの道をいつものようにふらふらあるいていると、足元で何かがキラリと光った。ふと足を止める。
ジグソーパズルのピースだった。中学生の頃に熱中したあれ。500ピースとか1000ピースとか、黙々と並べたっけ。額縁を買って来て、揃ったらボンドを塗って飾った。
「懐かしいなぁ」
あの頃はまだ、自由に使う時間を持っていた。
それを少しも「無駄」と思わない、贅沢に時間を使うことが出来ていた頃。それこそ何の役にも立たないジグソーパズルに没頭できるほどに。
私はそれをなんとなく拾った。
水色のピースだった。ちょうど、晴れ空と同じくらいの澄んだ色。
よく見ると、右上に白い色が重なっている。雲と同じ色。もしかしたら、本当に空の絵のパズルなのかもしれない。
どうして拾う気になったのだろう。
まるでパズルの欠片が私を呼んだようだった。
それとも、私の心がパズルを呼んだのだろうか。
「だだいま」
家に帰るなりキッチンに入って、飾り棚の右下の戸を開ける。 中には母の集めたガラスビンがしまってあった。そこからティージャムの空きビンを選んでひとつ取り出す。
「いつか使うから」と言ってはジャムやハチミツの入っていた可愛いビンを洗う母。まさか本当に使う日がくるとは思いもしなかった。
空きビンを部屋に持っていって、その中にピースを入れた。
フタを閉めて、勉強机に飾ってみる。
ガラスビンはピースの面の大きさより小さいので、途中で引っ掛かってななめに止まった。こちら側に色のついた面を向けた状態で。
なんだか、空を閉じ込めたみたいだった。
小さなビンの中に、私だけの空ができた。
夕飯の後。私はいつものようにベッドに寝転がって雑誌を読んだ。ぐだぐだと、借りてきたCDなんか聞きながら。
ふと、パズルの存在を思い出して机の上に手を伸ばした。ビンを手にとって、中を覗き込む。
「…あれ」
私はページを捲っていた左手を止めた。
そしてパズルの方にだけ気を集中させる。
「柄が変わってる」
さっき見た時は薄い青色だったのに、今は鮮やかなオレンジ色をしている。
「…もしかして、ホログラム式?」
見間違いかと思った。けれど、さすがに青とオレンジは間違わないはずだ。
まるで…
私はふと、窓の外を見た。
外の空も、ビンの中の空と同じ、夕焼け色だった。