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むせ返るような芳香、甘い蜜。蝶のような優雅さで。 そのカラダに鋭い棘を隠して。
はじめに

ようこそ、偽アカシアへ。
こちらは私、朝斗の今までの作品展示室となっております。

過去作品から随時追加予定です。
同じものを掲載していますが、若干の推敲をしている場合もあります。
詳しくは『はじめに』をご一読ください。
2008.5.6 Asato.S
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 程好く風が吹き程好く空の翳(かげ)る、そんな学園祭日和。
 その大学もまた例に漏れず、一刹那の青春叩き売り市場と化していた。

 吉田南構内、時計台下の模擬店街から少し離れたその場所に、彼らは身を潜めていた。
 ひと気のなさをいいことに、薄暗い校舎最果ての階段を占拠する奇妙な集団。一見、青春を見飽きた一般客か役職無しの学生かといった様相だが、彼らを包む空気はピンと張り、同時にそわそわと浮き足立っていた。

「現状はどうなってる?」
 窓際に佇んでいた一人の女が問う。

「被害は最小限に収めたつもりです。しかし……」

「プリンセス・ダルマは捕まったか」

 言い淀むのを見て首をすくめる。青年は無念そうに頷いて見せる。その場に集まる幾人もが連鎖するように臍をかむが、女だけはどことなく喜色を浮かべていた。

「流石は混沌魔王、と言うべきだね。次の準備は」

「滞りなく」

 ふいに誰かが階段を駆け上がってくる気配がする。ややあって階下から顔を覗かせた少女が、息を整える暇も惜しんで開口した。

「駄目です、プリンセス・ダルマ03待機できません!」

「なんだって?」

 唖然騒然とする一同。
 少女は辺りを憚るようにひっそりと、追って事を告げる。

「どうやら無理やり口にねじ込まれた『万福緋鯉饅頭』なるもののせいでトイレとお友達のようで」

 そう囁かれて女は再び傍らの青年を振り返る。
 今度は間髪入れず上階からの者が階段を降りてやってくる。

「報告、偏屈王より脚本入手! 次の開演地はグラウンド!」

 青年が手にするのは束ねられた紙片。その四重数枚に渡る紙切れはただの紙切れではなく、この学園祭を揺るがせている要因のひとつだった。

 一枚目の一番端に、控えめに書き添えられたその言葉。
 『偏屈王』。
 そう、この場に集まった彼らこそが、学園祭事務局及びその美貌の事務局長を悩ませるゲリラ劇『偏屈王』の面々なのである。


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