むせ返るような芳香、甘い蜜。蝶のような優雅さで。 そのカラダに鋭い棘を隠して。
はじめに
ようこそ、偽アカシアへ。
こちらは私、朝斗の今までの作品展示室となっております。
過去作品から随時追加予定です。
同じものを掲載していますが、若干の推敲をしている場合もあります。
詳しくは『はじめに』をご一読ください。
2008.5.6 Asato.S
その葛藤を、立華は悟ったのでしょうか。
「あるんだよ。この輪廻から抜け出す唯一の術が」
その言葉に私はゆっくりと顔をあげました。そこに立っている、漆黒の姫。妖艶な輝きを持った深い瞳。
「ほんとう、に?」
震える声で、そう尋ねました。
立華は黄橙色の実をひとつ採り、私に差し出しました。
つやつやと輝いて、ふわりと丸い、瑞々しい蜜柑の実。
それはまるで、美しい魂を凝縮したかのような。
「食べるかい。食べるなら、お前に新しく名前をつけてあげよう」
滑らかに言葉を噤む、真紅の唇。その赤に誘われるように、私はふらふらと近付いていきました。
その道があるとしたら。
私の望む道があるとしたら。
「けれど、これを食べたらもう元の場所には戻れないよ。輪廻の輪に戻りたくなっても、それはもう遅い。二度と叶わない。…それから…」
憂いを込めた瞳が艶やかに嗤いました。
私を誘(いざな)う、永久の美。朽ちることのない、永遠の御霊。
私が畏れるもの。そして、求めるもの。
私は手を伸ばしました。
つんと甘い芳香が漂いました。
世の中は既に宵の口に差し掛かっていました。
その日は帰路につくのが遅くなって、僕は一人、暗い路を急いでいました。少し近道をしようと、しんと静まった裏路地を息をつめて急いでいたはずでした。
それなのに今、僕が立っているのは、見知らぬ草原。
どこだろう、ここは。
たった一本生えた、白い花の咲く木。
一面に咲き誇る、純白の曼珠沙華。
早く去らなければ。早く帰らなければ。姉さんが独りで待っているはずだから。
なのに、足が言うことをきいてくれません。
「だれ…?」
声が聞こえた気がして、僕は周囲を見渡しました。目を凝らすと白い闇の向こうに誰かが佇んでいます。
そして僕に向けられる、優しい囁き。
「おや、迷い子なの?」
白銀の打掛けを纏った、儚く美しい女性でした。
頭には真っ赤な八重咲き牡丹の花簪。
まるで御伽噺の中から抜け出たような。
近付くと、ほわり、甘い香りをさせていました。
そのひとと出会ったのは、霧深い夜のことでした。
初秋の空に雲はなく、はるか上空ではおぼろに月が輝いていました。
「あるんだよ。この輪廻から抜け出す唯一の術が」
その言葉に私はゆっくりと顔をあげました。そこに立っている、漆黒の姫。妖艶な輝きを持った深い瞳。
「ほんとう、に?」
震える声で、そう尋ねました。
立華は黄橙色の実をひとつ採り、私に差し出しました。
つやつやと輝いて、ふわりと丸い、瑞々しい蜜柑の実。
それはまるで、美しい魂を凝縮したかのような。
「食べるかい。食べるなら、お前に新しく名前をつけてあげよう」
滑らかに言葉を噤む、真紅の唇。その赤に誘われるように、私はふらふらと近付いていきました。
その道があるとしたら。
私の望む道があるとしたら。
「けれど、これを食べたらもう元の場所には戻れないよ。輪廻の輪に戻りたくなっても、それはもう遅い。二度と叶わない。…それから…」
憂いを込めた瞳が艶やかに嗤いました。
私を誘(いざな)う、永久の美。朽ちることのない、永遠の御霊。
私が畏れるもの。そして、求めるもの。
私は手を伸ばしました。
つんと甘い芳香が漂いました。
世の中は既に宵の口に差し掛かっていました。
その日は帰路につくのが遅くなって、僕は一人、暗い路を急いでいました。少し近道をしようと、しんと静まった裏路地を息をつめて急いでいたはずでした。
それなのに今、僕が立っているのは、見知らぬ草原。
どこだろう、ここは。
たった一本生えた、白い花の咲く木。
一面に咲き誇る、純白の曼珠沙華。
早く去らなければ。早く帰らなければ。姉さんが独りで待っているはずだから。
なのに、足が言うことをきいてくれません。
「だれ…?」
声が聞こえた気がして、僕は周囲を見渡しました。目を凝らすと白い闇の向こうに誰かが佇んでいます。
そして僕に向けられる、優しい囁き。
「おや、迷い子なの?」
白銀の打掛けを纏った、儚く美しい女性でした。
頭には真っ赤な八重咲き牡丹の花簪。
まるで御伽噺の中から抜け出たような。
近付くと、ほわり、甘い香りをさせていました。
そのひとと出会ったのは、霧深い夜のことでした。
初秋の空に雲はなく、はるか上空ではおぼろに月が輝いていました。
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「死ぬのは恐いかい」
静かに立華が尋ねます。その深い色の瞳に負けぬように努めました。
「恐くはないわ。でも…」
それが強がりなのかどうかも良く分かりませんでした。言葉を濁し、小さくなって肩を震わせるしかできません。
私もまた、あのように美しくなれるのか。それもまたいいのかもしれません。
そう、不思議と恐くはない。ただ、今はまだ死にたくない。
だって私は。
『八重ちゃんは別嬪さんだね』
そう言われて、持て囃されることが心地良い。羨まれることが嬉しい。
私は知っているのです。自分の瑞々しさと、器量の良さを。他人が私を見て、なんと囁き合っているかを。
まだ死にたくない。
その一方で思うことは、
これ以上年月を重ねたくはないという不安。
いつからそれに気付いたかは覚えていない。けれど、絶世の美女と噂された母が次第に老いていく様子を見て、憂うのです。
『似合うのは今のうちだからね』
私を待ち受ける道が、彼女と同じものなのか、と。
それを怖れて、あの男のように一瞬の美しさに身をゆだねることも、また惜しい。どちらも愚かしい道に思えました。
「でも、私は…」
怖くない、と答えることに躊躇して。
そして、目の前の姫様を羨むのです。
人でない彼女の美しさといったら。
寿命に縛られない、彼女の羨ましさといったら。
静かに立華が尋ねます。その深い色の瞳に負けぬように努めました。
「恐くはないわ。でも…」
それが強がりなのかどうかも良く分かりませんでした。言葉を濁し、小さくなって肩を震わせるしかできません。
私もまた、あのように美しくなれるのか。それもまたいいのかもしれません。
そう、不思議と恐くはない。ただ、今はまだ死にたくない。
だって私は。
『八重ちゃんは別嬪さんだね』
そう言われて、持て囃されることが心地良い。羨まれることが嬉しい。
私は知っているのです。自分の瑞々しさと、器量の良さを。他人が私を見て、なんと囁き合っているかを。
まだ死にたくない。
その一方で思うことは、
これ以上年月を重ねたくはないという不安。
いつからそれに気付いたかは覚えていない。けれど、絶世の美女と噂された母が次第に老いていく様子を見て、憂うのです。
『似合うのは今のうちだからね』
私を待ち受ける道が、彼女と同じものなのか、と。
それを怖れて、あの男のように一瞬の美しさに身をゆだねることも、また惜しい。どちらも愚かしい道に思えました。
「でも、私は…」
怖くない、と答えることに躊躇して。
そして、目の前の姫様を羨むのです。
人でない彼女の美しさといったら。
寿命に縛られない、彼女の羨ましさといったら。
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冬に包まれる季節。
詳しくはFirstを参照ください。
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